125
一か八かの大博打は、成功したのだ。
「なんだ? 貴様、何を」
ドラゴンが質問してきた。同時に俺の乗っていた、電信柱くらいある牙がガンガンと上下する。うわわわ、ヤバイ! 俺は慌てて牙にしがみついた。そのまま足で牙を挟み、膝を伸ばしながら両手で牙の上部を手にかける。まるで木登りでもしている気分だった。小学生の頃にやったきりだから、何年ぶりだろう。――一瞬、俺は過去の思い出に浸りかけ、我に帰った。走馬灯に浸っている場合じゃないぞ!!
「貴様、何をしている!? 儂に食われる気ではなかったのか!?」
「ごめんなさい。あれは嘘でした」
本当なら正直に言って謝りたいところだが、そんな場合じゃない。俺はドラゴンの牙にしがみつき、登りつづけ、なんとか唇の外側に手をかけた。こういうときに鱗の外皮ってのはありがたいな。デコボコしてるからつかみ甲斐がある。そのまま俺は両手でドラゴンの唇の皮膚をつかみ、蜘蛛みたいな感じで――蜘蛛と言うよりロッククライミングか――ドラゴンの唇から頬へ、そして目の下まで這いつくばって移動した。
「何をするのかと訊いているんだ!? さっきから儂の口元で、もぞもぞと!!」
ドラゴンが絶叫したが、もう口の近くにいるわけではないので、顎の動きで振りまわされたりはしない。思ったとおりだ。――確かにドラゴンは巨大だった。だから、サーバナイトの人間は、巨大には巨大で立ち向かおうとしたのだろう。六芒星とノヴァーランスがその実例である。俺のもといた世界でも、似たような考えで軍事は動いていた。
だが、それではドラゴンには勝てない。
「答えろ! 何をするのかと訊いているんだ!!」
ドラゴンが叫びながら口から炎をぶっぱなした。当然ながら俺には当たらない。炎は直進するしかできないからな。そして、いまの俺はドラゴンの顔にへばりついている。――ドラゴンは巨大で、そして強大すぎた。それゆえの欠点がこれだ。いや、どこの世界でもそうだろう。巨大な肉食獣は、背中に張り付いた、一匹のシラミを殺せないのである。
そして、いま、俺こそが、その一匹のシラミだった。
「離れろ貴様!!」
ドラゴンが顔を左右に振る。その勢いは、遊園地のアトラクションとは比べ物にならないものだった。普通なら脳味噌の血液が逆流してブラックアウトか、その逆でレッドアウトを起こしていたかもしれない。
「でも俺は普通じゃないんだよ――」
ドラゴンのたてがみにしがみつき、歯を食いしばりながら俺はつぶやいた。その俺のそばを、まるでタンカーくらいある巨大な腕が走る。うわ、あぶねえ。この位置は、まだドラゴンの腕が届く場所だったか。




