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「――まあ、牛なら、ニ、三頭は食えるな」
言ってから、ドラゴンが街のほうをむいた。
「人間は小さいからあまり食う甲斐がないが、たまには食ってみるか」
駄目だな。もう完全に話し合いは通じないと俺は判断した。こいつは野生のライオンと同じで、菜食主義にはならないタイプである。一度ぶつかったら、やりあうしかない。
「じゃ、まずは一口目だな!」
俺は叫びながらメアリーから手を離した。メアリーが驚いて振りむく。
「貴様、何を――」
「行くぞ! なるべく一瞬で頼む!」
ワイバーンから立ち上がり、俺はドラゴンを見下ろした。驚いて俺を見ているメアリーにお小声でささやく。
「ノヴァーランス、また撃てるか?」
「――あ、ああ」
メアリーがうなずいた。
「無駄話が時間稼ぎになってくれたからな。なんとかなりそうだ」
「へえ、そりゃよかった」
半ばやけくその質疑応答だったんだが、エネルギーを充填するために役立ってくれたらしい。
「じゃ、あとは適当に頼む」
メアリーに小声で言い、俺はドラゴンのほうをむいた。
「おらよっと!」
俺は自殺しようと思って高層マンションの屋上から飛び降りたことがある。一度も二度もやることは同じだ。景気づけの気合いと同時に俺はワイバーンから飛び降りた。高度は、ざっと300メートル。下から見上げていたドラゴンが笑いかけた。
「人間は自殺をする珍しい動物だと聞いていたが、それがこれか」
空気が耳元でごうごうと鳴り響く。パラシュートなしのスカイダイビングをしながら、俺は獣化を意識した。全身から剛毛が生え、あごの形状が変化し、口のなかの歯列が一気に牙へと変形していく。
いま、半変貌状態くらいだ。そのまま右手で尻のあたりにまわし、ズボンをひき破る。尾てい骨が伸び、尻尾が顔をだした。
「では、いただこう」
ドラゴンが言いながら口を開く。一息に飲み込むつもりだったんだろう。俺は完全変貌を意識しながら、全力で尻尾と手足を振りまわした。無理矢理に風を切り、落下する角度を強制的に変える。俺はドラゴンの口のなかではなく、少しずれた、上顎の牙あたりに着地することになった。着地って言うか、ほとんど激突だったが。




