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口のなかで小さく毒づきながらも、俺は考えついた疑問を、とにかくドラゴンへぶつけることにした。
「なんで俺たちを敵視する!?」
「ふん。何をわかりきったことを」
ドラゴンが羽ばたきながら首を振った。地上へむけてである。その地上には、やっと追いついたナイトゴーレムの大群が剣を上空へかまえていた。かまえたって、空を飛んでいるドラゴンには届くわけないんだが。
「貴様たちが、あのような、ナイトゴーレムなどと言う、ふざけた人形をつくったからではないか」
「俺は、おまえたちドラゴンが人間を襲うから、ナイトゴーレムをつくったって聞いてるぞ!」
「山の食料が少ないとき、偶然、山に登ってきた人間を襲った輩がいるかもしれん。おかしなことではないだろう? そのへんの狼でもやることだ」
「――まあ、そりゃそうだな」
これは俺も納得するしかなかった。ここまでは。
「ただ、狼が人を襲うとか、放牧してるヤギを襲ったら、そうならないように気をつけるのが人間なんだ! それと同じことをドラゴンにむかってやって何が悪い!?」
「悪いに決まっているだろう、獣人類」
ドラゴンの返事に、俺はギョッとなった。こいつ、俺の正体を知っていやがる! いや、それもあたりまえか。仮にも、神に近きものとまで言われた種族だ。俺をちらっと見て、それで一瞬のうちに正体を見抜いても不思議じゃない。
「おまえもやられなかったか?」
ドラゴンの質問は嘲笑じみていた。
「獣人類というだけで、ほかのものから奇異の目で見られ、何もしないのに不審がられ、迫害され。そういう経験をしなかったのか? 儂は、貴様らとは寿命が違うからな。何百年もかけて、貴様らの歴史を見てきた。これほど外見にこだわって相手を差別する生物など、人間やエルフ、ドワーフたちのほかにおらんだろう。そして儂らにもそれをやった。自由に空を飛び、好きな土地で闊歩する儂らを殺そうとしたのだ」
いったん言葉を区切り、ドラゴンがまばたきをした。それだけで、ドラゴンの表情が変わったことがわかった。嘲笑から怒りへ――
「報復など、当然のことだと思うがな」
静かに言うドラゴンのセリフは、確かに正当なものだったのかもしれない。
だが、それで納得して死ぬわけにもいかなかった。
「その報復を、黙って受ける筋合いはない!」
理屈抜きで、とにかく俺は怒鳴りかえした。




