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ドラゴンが訊いてきた。はい終わりましたと言ったら、その直後に紅蓮の業火が飛んでくるのは目に見えている。どうすれば勝てる? いや、勝てなくてもいい。最低でも、どうすれば生き残れる? 猛スピードで考える俺を見あげながら、ドラゴンが口を開いた。
「返事がないということは、終わりだな」
「ちょっとストップ!」
あわてて俺は声をあげた。ドラゴンの視線が、わずかに変わる。メアリーから俺に焦点をずらしたのだろう。そして口がゆっくり閉じていった。
「何か、まだ足りない話でもあるのか?」
「あるある。大いにある。聞きたいことが山ほどだ。だから待ってほしい」
「おもしろい人間だな」
ドラゴンの、金色の瞳が黒くなったように見えた。瞳孔が開いたとか、そういうことだと思う。
「この儂を見て、それでも普通に話しかけてくるとは。いままで、そんな相手はいなかったぞ。目が見えていないわけでもなさそうだが。儂が恐ろしくはないのか? それとも、儂の力を知らんのか?」
「質問したいのは俺のほうなんだけどな!!」
俺はできるだけでかい声でドラゴンの言葉を遮った。ドラゴンの声が中断される。
「貴様、誰と話しているのかわかっているのか?」
「わかってる。あんただよ。だから聞きたいことがあるって言っただろうが。俺の質問に返事をする気があるのかないのか?」
「――ふん」
バッサバッサとドラゴンが翼を揺らした。それだけで、ものすごい突風がこっちまでやってくる。ワイバーンがバランスを崩すのを、慌てたメアリーが手綱をひいて、なんとか体勢を整えるほどだった。
「まあ、いいだろう」
あれは考え事だったらしい。少しして、あらためてドラゴンが顔をあげた。
「いままで儂が見てきたのは、ただ逃げ惑うか、攻撃するだけして、無駄だとわかって絶望する人間ばかりだったからな。貴様のような奴は珍しい」
ありがたいことに、ドラゴンは俺を気に入ってくれたようだった。まあ、最後は殺すつもりなんだろうが。それはいいけど、何を訊けばいい? 聞きたいことが山ほどあるなんて、口から出まかせもいいところだ。質問内容を必死に考える俺を見ながら、再びドラゴンが口を開いた。
「確か、人間の世界では、冥途の土産と言うらしいな。冥途の土産にこたえてやろう」
「冥途の土産に教えてやろう、だ」




