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「小賢しい!!」
ものすごい大音響の声と同時に、メアリーの放った光の槍が消滅した。同時に、ドラゴンを囲んでいた六芒星も。いや、消滅というより、粉砕されたと言った方が近いだろうか。ドラゴンの周囲を走っていた六芒星の光の線は、一瞬で粉々に粉砕され、空気に溶け込んで消えていったのである。そのままドラゴンが胸を膨らませる。
直後に吐きだされたのは、おなじみ紅蓮の炎だった。
「うわ!」
メアリーが慌てたように手綱を振った。急旋回するワイバーンのすぐ横を、火山の噴火のような炎が駆けていく。ぐん、という衝撃は、たぶん高熱で膨張しまくった空気が飛行するワイバーンを後ろから押したのだろう、ものすごい熱波とともに、俺の乗っているワイバーンがきりきり舞いをはじめる。
「うわわわ!!」
ほかにつかまるところもなく、俺はメアリーを抱きしめた。
「おい抱きつくな!」
「無茶言うな! ワイバーンから落ちたら俺は死んじまうんだぞ!!」
「そんなに抱きつかれたら、私も一緒にワイバーンから落ちるだろうが!!」
「なんだそれ!? 自分だけ助かる気か!?」
「あたりまえだ! 状況を見ろ!!」
言われて俺は、あらためて安定したワイバーンからドラゴンへ目をむけた。その強大で、巨大で、膨大な魔力の塊を身に宿した、空を飛ぶ、畏怖とともに語られる異形の姿。それは、さっき見たときと何も変わっていなかった。傷ひとつない。
そして、余裕の目で俺たちをにらみつけてくる。周囲を飛び交う、ミーリアたちのワイバーンにも手立てはなさそうだった。
「さっきメアリーがブン投げた、あの光の槍はどうなった?」
どうすればいい? 考えながら深呼吸して、心を落ち着かせて俺はメアリーに訊いてみた。あの攻撃がどうなったのか、俺は見ていない。メアリーが悔しそうに唇を噛む。
「ノヴァーランスのことか?」
「名前なんか知らん。さっき、メアリーが手のなかからつくって、ドラゴンに投げ捨てた奴だ。あれも、小賢しいの一言でアウトか?」
「やはりノヴァーランスか。なら、その通りだ。ドラゴンの炎で消えてしまった」
「――なんだと?」
俺は軽口で質問したのに、メアリーの返事はマジだった。一瞬、何か聞き間違いだったんじゃないかと思ったが、そうじゃない。メアリーが俺を見ることもなく歯軋りする。
「ドラゴンの炎で消えた。そう言うしかない」




