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「――わかった。仕方がないな」
言いながらメアリーが手綱をひいた。同時に高度が落ちる。飛ばないで、空中で制止するというのはやはり無理らしい。速度の落ちたワイバーンがバッサバッサ翼を振って――魔力で飛んでるんだから、振らなくても問題ないはずなんだが、やはりワイバーンにとっても気分の問題なんだろう――高度を稼いでいる間にほかのワイバーンも追いついてきた。
「隊長! どうするんですか!?」
ほかのダークエルフが訊いてくる。メアリーがワイバーンの手綱をひきながら部下たちのほうをむいた。
「訓練を思いだせ! あの通りにやればいい!! ただし、少し速度を落とすようにな!!」
「「「「わかりました!!」」」」
ダークエルフたちが返事をし、それぞれが四方八方に飛ぶ方向を変えだした。――すごいな。ブルーインパルスと言ったっけか。自衛隊の曲芸飛行部隊みたいである。ミーリアやレイリアたちの乗るワイバーンもだ。状況が状況じゃなかったら。地上でのんびり楽しんで見ていたかもしれない。いまは俺の乗っているワイバーンもきりもみ回転してるからそれどころじゃないが。つか、吐きそうである。
「それで、どういう訓練だったんだ!?」
風を切る高速移動のなか、俺は絶叫混じりにメアリーへ質問した。ジェットコースターに乗りながら今後の予定を訊くようなものである。さすがに曲芸飛行で余裕がないのか、メアリーは振りむかない。
「クマに対するハチ作戦だ!!」
振りむかないが、とりあえず返事はきた。
「なんだそれ!?」
「一匹のクマと一匹のハチでは勝負にならん! だが、ハチの蜜を獲りに行ったクマが、ハチの大群に囲まれたら対応できないだろう! あれと同じことをする!!」
「なるほどな!」
そういえば、かく乱するとか言ってたっけ。考える俺の視界を、雲や空や地上がグルグルと行き来する。さらには爆音と同時に巨大な炎の柱も。炎の柱?
「もう撃ってきたか!」
ほかのダークエルフたちが叫んだ。でかい声で叫ぶのは、相手に聞こえるようにだけではなく、恐怖を押し殺す目的があったのかもしれない。
「隊長! 訓練よりも、敵の射程距離が長くて」
「この程度は誤差のうちだ!」
あわてるダークエルフを一喝するメアリーだった。格好いいな。一応、騎士であり、ダークエルフの隊長はきちんと務めているということか。




