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「もう一回飛び降りたら、元の世界に戻れるかな」
こんなことになると思ってなかったからな。小さくつぶやいたら、メアリーが眉をひそめながら、ちらっとこっちをむいた。
「何!? よく聞こえなかった! もっと大きい声で頼む!!」
「べつにどうでもいい独り言だ!」
「どうでもいいことは、こういう場では最初から黙っておけ!!」
筋の通ったツッコミをし、メアリーがワイバーンの手綱を振った。ぐん! 横向きにGがかかる。ワイバーンが急旋回をしたのだ。風に抵抗しながら薄眼で見ると、ほかのダークエルフたちが乗ったワイバーンも同じような急旋回をしている。これは約束された動きらしい。
「どこへ行くんだ!?」
「ミーリアたちが見えた!!」
メアリーが叫ぶように言う。ひきつづき、俺は薄目で前方を見た。――なるほど、先を飛ぶワイバーンが見える。
ただし、二頭だった。おそらくミーリアと、その妹のレイリアである。
「他にはいないのか!?」
「ワイバーンを乗りこなせる人間など、そうはいるものか!」
「あ、なるほどな。それもそうか」
「何!? よく聞こえなかった! もっと大きい声で頼む!!」
「だから独り言だ!」
「だからそういうのは黙っていろ!!」
言いながらメアリーが手綱を振る。ワイバーンが先を行くべつのワイバーンに追いつき、その横に並ぶ。
案の定、手綱をとって乗りこなしていたのはミーリアだった。その少し後方にレイリアもいる。そのふたりがこっちをむいて、ギョッという顔をした。
「なぜBが乗っている!?」
「私が誘った! この獣人類はナイトゴーレムを倒したそうだからな! 戦力になるだろうと判断した!!」
「それって本当か?」
俺はメアリーの肩をつかんだまま、耳元に口を近づけて小さくつぶやいた。メアリーがうるさそうに、またもや、ちらっとだけ振りむく。
「何!? よく聞こえなかった! もっと大きい声で頼む!!」
「言っていいのか? ミーリアやレイリアにも聞こえるぞ」
つづけて小さい声で、俺はメアリーに話しかけた。俺がつかんでいたメアリーの肩が、少しだけ震える。俺に思惑を見抜かれたって感じだった。




