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「あ、B!」
メアリーにつれられて廊下を走っていたら、むこうからジャスミンの声が聞こえてきた。俺の気配を感じとったらしい。角を曲がると、ジャスミンとローズ、それにアーバイルが待っていた。
「あのね、B、いま、すごい魔力が」
先にしゃべりだしたのはローズだった。怯えたような表情は、いきなりドラゴンの魔力を食らったためだろう。メアリーたちでさえ苦悶したくらいだからな。子供のローズには大変なショックなはずである。
で、そのまま俺の後ろを駆けてきたドワーフたちと目が合った。
「「あ!」」
ジャスミンとローズが同時に声をあげる。瞳に宿るのは嫌悪の感情だった。
「こいつらって、ドワーフじゃない!」
ジャスミンの言葉に、俺の背後に立っていたドワーフたちが怒りのオーラを昇らせた。
「ひとりでは何もできない小娘が、なんだその言い草は――」
「喧嘩はあとだ!」
俺は怒鳴りつけておとなしくさせた。それにしても仲悪いな本当に。命の危機よりも目の前の喧嘩を優先させるのがエルフやドワーフみたいな妖精種族の特性なんだろうか。
「アーバイル、この地下工場って、ドラゴンの襲撃に耐えられるのか?」
俺が訊いたら、アーバイルが狼狽した顔で首をひねった。
「私にもわからない。何しろ、ドラゴンの襲撃なんて、はじめての経験で」
「あ、そうか」
「とりあえず、限界まで頑丈にはつくっているが、それは町の城壁も同じはずだ。城壁を破壊されるようなら、ここも破壊される」
「なるほどな」
つまり、ここに閉じこもっていても、そうでなくても同じってことか。
「生き埋めになるよりは外にでたほうがよさそうだな。どうせ死ぬならドラゴンを見て死にたいし」
軽い調子で言いながら、俺はジャスミン、メアリー、ドワーフたちを見まわした。反論してくるものはいない。
「じゃ、地上へでるぞ」
五分後――時計なんてないから大体だが――俺たちはエレベーターに乗って地上へあがろうとしていた。
「それにしても、なんでドラゴンが街へきたんだ?」
地上へ到達する前の間、俺は不思議に思っていたことを質問してみた。




