107
俺の鬼気――正確には獣気かもしれないが、それを浴びたメアリーがピョコピョコとうなずいた。顔色が悪いと言いたいところだが、そもそもがダークエルフなのでそのへんはわからない。とりあえず、くだらない喧嘩をしていたら俺に噛みつかれるということはわかってくれたようである。
「じゃ、行くぞ」
言ってメアリーが休憩所からでた。そのまま小走りに右へ曲がる。
「おい、どこへ行く!?」
ついていこうとしたら、ドワーフたちの声が飛んだ。メアリーが立ち止まり、うるさそうに振りむく。
「だからアーバイルのところへ行くんだ。聞いてなかったのか?」
「馬鹿かおまえは。執務長は執務室で、ナイトゴーレムを製造する小型ゴーレムの働きをセンサーで確認しているはずだ。そっちじゃない」
「そのアーバイルは執務室からでて、この工場の入口で白い連中と話してるんだ! おまえたちは知らないんだから黙ってろ!!」
これはメアリーが正しいな。一喝されておとなしくなったドワーフたちから視線をそらし、あらためてメアリーがこっちをむいた。
「とにかくこっちだ。私の言ってることが正しいから肉団子の言葉は無視してくれ」
「おう。それはいいけど、肉団子はやめてやれ」
「なんでだ?」
「そういう言い方をするから喧嘩になるんだろうが。いまはそんなことしてる場合じゃないだろう。ドラゴンがきてるんだぞ」
「――まあ、わかった。それもそうだな」
仕方ないって感じでメアリーがうなずいた。
「じゃ、行くぞドワーフども」
どもはつけるわけか。あくまでもドワーフと仲良くする気はないらしい。すぐにメアリーが前をむいて走りだした。
「白い連中って、エルフたちのことか?」
「だろうな。そんなのまできているとは面倒だぞ」
「ここは神聖なる我らの仕事場だというのに」
後ろからドワーフたちの低い声が聞こえてきた。――そういえば、マーガレットが言ってたな。日本人は差別をしなかった。だから日本語を望んで覚えたとかなんとか。
あれって、こういうことだったのか。元の世界では獣化症の俺もやられたけど、こっちはもっとひどいな。都合よく生まれ変わったら争いのない理想郷だった、なんて具合に物事は進まないらしい。




