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実は、まったく書き溜めがないので、毎日、42文字×34行(電撃文庫様やGA文庫様、ダッシュエックス文庫様、ガガガ文庫様等の、新人賞の編集)で1ページ分書いて、それを投稿しています。だから、1話あたりの量が非常に少ないです。どうか、ご容赦を。
異世界に転生するつもりなんてなかった。
俺は、ただ、自殺するつもりだったのだ。
チートがどうとか、そんな難しい理屈は知らない。ただ、俺は獣人類ってだけだった。もちろん親父もお袋もだ。親父とお袋が、どういう経緯で出会ったのかは知らない。俺も聞こうとは思わなかった。ただ。
「このことは、誰にも言うんじゃない。人間は、自分とは違うものを差別するからな」
「私たちは、弱者なのよ」
こういう話は、物心ついたころから、俺はよく聞かされていた。それが事実だと思い知ったのは幼稚園のころだったと思う。
どこからかやってきた野良犬が、同じ幼稚園に通っていた女の子に噛み付いたという事件が起きたのだ。運のいいことに、その子は軽いけがで住んだのだが、おかげで幼稚園は大騒ぎになった。
「野良犬が出没しています」
「お父さん、お母さんは、お子さんを、かならず目の届く範囲に置いていてください」
「身を守るためにスタンガンの常備をお勧めします」
こんなキャッチフレーズが街中を流れ、俺と両親は怯えながら家でひそひそ話をした。
「いいか、何があっても、本来の力を見せるなよ」
「人間は、絶対に私たちを犯罪者扱いするからね」
「わかった」
そのときは、俺もそう答えた。わかっていたつもりだった。いや、実際にわかっていたのだろう。高校にあがるまでは。
高校の授業が終わって、家まで帰る途中、俺の見ている前で、ボールを追いかけた子供が道路を飛びだしたのだ。お決まりの展開と言われそうだが、そこにトラックが。
俺は反射で飛びだしていた。
「あぶない!」
どこからか、そんな声が聞こえた気がする。いや、俺が叫んだのかもしれない。俺は子供を抱きかかえながらトラックに跳ね飛ばされた。二〇メートルはアスファルトを転がったと思う。俺が本来の力を発揮すれば、どうってことないのだが。
「大丈夫だったか?」
俺は起きあがり、抱きかかえていた子供に声をかけた。返事はなかった。
「ひ――!!」
本来の、俺の姿を見た、その子供の怯えた顔。ああ、親父たちが言っていたのはこのことだろうと、俺はこのとき知った。
だから、俺は死のうと思ったのだ。