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Zero  作者: 山名シン
第1章
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零対師匠

氷の鳥を倒した零は階段を登り、次の部屋へ行く。だがそこには何も無かった。幻獣というのは1頭しかいないのだろうか、と零は首を傾げたが、それでも氷の鳥のように姿が見えない場合もある。だから樹力を上げて、慎重に部屋を進みまた、次の階段へ歩いていった。


「おかしい。アイスタウンについた時は最低でも幻獣は2頭いると思っていたんだがな」

そう呟きながら、その部屋の壁に()()()()があいているのをじっと見ながら考えるが、何事もなく、次の階段へ行けたのだった。


*


階段を登っている時、零は弟のつるぎと初めて師匠に出会った時の事を思い出していた。


剣山家の敷居を越えた所に小さな森林がある。そこへ2人はある薬草を探そうと、立ち入っていた。

その時、草むらから、一匹の突進蛙が現れて、零たちに襲いかかったのだ。

「うわっ!」

零は目を閉じて腕を咄嗟に、顔の前に上げた。剣は小石を拾い構えを取っていた。


突進蛙の荒い鼻息が聞こえた瞬間、6歳だった零は恐怖で震えていたが、その時だった。

「角を擦れば大人しくなるのだよ。こういう風に」

黒い長髪、白装束を身に纏ったいぶし銀の男。その男が、突然零たちの前に立ち塞り、勢いよく飛んでくる突進蛙を、一切の無駄なく避けタイミングよく角を掴み持ち上げた。

肉厚の脚をバタバタさせながら、荒い鼻息を出していた突進蛙が、その男に角を掴まれた途端、全身の力を抜き、だらんとさせて身を任せていた。


「珍しいな…まだ朝早くなのに、突進蛙を見られるとは。こいつは普通の蛙とは違い、昼間にしか行動しないはずなんだが」

男がぶつぶつと言いながら、蛙を片手に零たちを見つめていた。


「お前たち、危ないではないか。どうしてこんな所へ来たのだ?」

「あ、俺たち薬草を探してて……」

「ほぅ? この辺りで採れる薬草というと、生菊(しょうきんく)だな? 体を温める作用があって漢方薬としても有名だな」

「は、はい。生菊を探していて、これから冬場を凌ぐ為に必要ですから」


零は少し照れながら言ったが、剣は黙って男の事を見つめていた。いや、見つめていたというよりは、この男の実力をはかっていたのだ。

先に見せた突進蛙を捕まえる時の体のこなしかた、ただ者ではないと瞬時に剣は見切ったのだ。


「そうか、だがこの辺りは蛙の巣だ。気を付けたまえよ」

そう言って男が、立ち去ろうとすると、剣が「あんた何者だ!」と叫んだ。

すると、男は振り返り「私は探検家だよ」と剣の目をしっかりと見て言い、指を指した。

「その背中に隠した小石は、私に対する威嚇かね? だとすれば君は筋がいいやもしれぬ」

その言葉を聞いた時、剣は驚いた素振りを見せ、さっき突進蛙に投げようと隠していた小石をポイッと捨てた。

そして、ニヤリと笑うと「俺を弟子にしてくれ!」と頼んだのだった。


それから、剣が零と共に師匠ダークの下で修行する事になったのだ。

兄弟子である、シュウはこの時既に2年ダークと修行していたが、これから競争相手が増えるから修行の成果が上がると言って、嬉々としていた。


*


師匠との思い出はたった1年間といえども、零の運命を変えた。

(シュウは一体どうなったのだろうか? この先に師匠はいるだろうか?)

1段1段階段を登り、上を見ると明かりが見えた。その明かりの中へ1歩足を踏み入れた。


《何も知らぬは怖い者、何か知っても怖い者》

その者を知らなければ怖いと思うものだが、その者を知ったとしても怖いと思うものだ、と師匠に言われた言葉を覚えている。

尊敬していた師匠は、今や大犯罪者に成り下がってしまった。

今はとにかく師匠に会わなければ何も分からない。


*


天井は先が尖っていた。この部屋だけは、下の2つと違い氷山の中らしい冷たい空気が充満しており、肌寒かった。

白装束、黒の長髪、いぶし銀な男はあらゆる武道の達人であり、文武両道、天賦の才を持つと言われ続けてきた。

生業は『探検家』、これは昔からの馴染みだが実力は折り紙つきである。

その男の名は、『ドゥーコ・ブラーク』。天へ導く馬ブラークからその名を取ったらしい。

通称「ダーク」



「お前か。零……久しぶりだな」

「師匠……」


「どうする? まず、死体でも見せようか?」

「死体?」


「ここに、お前がよく知っている奴がいる」

「誰だ?」


ダークの影から、兄弟子の(むご)い体が出現した。

胸が痛い。熱くなってきた。


「シュウだ……」

ダークは無表情だった。声の調子はさっきから1つも変わっていない。

零は何も答える事が出来なかった。

(察しがついてたよ。あなたの綺麗な白装束が、赤く染まっていた時点で……)


「どうした? 何の弔いもないのか? 酷い弟子だな……」


体の震えがおさまってくれなかった。自然と涙が頬を伝っているのが分かる。


「無回答……それも自己防衛の1つ。兄弟子の死を間近に見ても顔色を変えなければ、お前をここで逃がしてやろうと思っていたのだが、どうやら違ったらしい」

「何故だ……何故、あなたがここにいる?」

「……何故、か。そうだな。あえて言うなら、己がいずれ紡ぐであろう()を、紡ぐ為だ」



ダークはシュウの体を蹴り飛ばし壁にどけると、茶色い瞳の瞳孔が広がり漆黒に染まっていった。

零は、腹の傷はもう痛みを感じていなかった。零の中の「何か」が音を立てて崩れていく。

樹力を上げて、瞳を緑色に染めた零は、まとっていた薄緑のマントをシュウの方へ放り、体を覆った。


ダークはその行為を見て、一瞬笑うと、長髪を揺らしながら駆けてきた。

零も駆けていき、拳を振り上げる。


腕と腕がぶつかり、骨に衝撃が響くのを感じる。ジーンとする痛みを避けるように、下に降ろしダークの頭が下がったのを見ると、それに合わせて膝蹴りを見舞わした。


だが、もう片方の腕で膝蹴りを防がれ、逆に膝蹴りを喰らってしまう。腹の傷にダークの膝蹴りがえぐるように突き刺さった時、零は目の前が一瞬真っ暗になるが、目を閉じるとまぶたの裏から赤く光るダークの姿をとらえ、防がれた脚でもう一度蹴りをお見舞いする。

ダークの横腹に零の蹴りが直撃するが、当たりが悪いらしく然程効いていないようだった。


そして距離をとった2人は、すぐにまた突っ込んでいく。

「強くなっているじゃないか、零」

「……………」

何も答えない零を見てニヤリと笑うダークは、両手を合わせて下に向け、槍のような形をした黒い物体を作り出した。その黒い物体を片手に移し、手首をカクンと曲げると突いた。


「ブラック・スピア」

小さく囁いたダークは黒い物体を、槍を放った一撃のように手を突きだし放出した。

零は足元に迫るそれを、右に避けるとそのまま回り込み、拳を固く握り締めた。


「磨閃一閃突き!」

ダークの左側に辿り着き、腹に突きを放った。

しかし、体をひねりながら零の一閃突きを右掌でがっちりと押さえ付けねじふせた。

「それでは一閃突きとは言わん。それと少し別世界へ行ってて貰おうか」

「別世界?」

零が問うと同時に、零の影が普段の何倍も濃くなっていき、落とし穴に落ちたように沈んでいった。

「ダークホールだ……」



暗い。いつまでも暗く重い世界。零の体だけはハッキリと見えるのだが、それ以外は全くの闇。

(ここはどこだ?)

零は今になって、腹の傷がズキズキ痛みだした。身動きも出来ないので、目を閉じてみた。

赤く光るまぶたの裏から感じる、2()()の赤い影。

(師匠の隣にいるのは誰だ……? くそっ。駄目だ……意識がだんだん、遠くなっていく……)



目を開けると、目の前にダークの顔があった。さっきの影の人物はいないらしい。

そして、ここが氷山の中だという事を思い出して、寒いと感じた。

吐く息が白い。歯がガチガチいっている。腹の傷が痛み、目の前のダークの顔がボンヤリとしか見えなくなってきた。


「本当に成長したな。少しだがお前に会えて嬉しかった。ありがとう………」


ありがとうと言われた瞬間、零の中の崩れていた「何か」が蘇り、元に戻っていった。


【磨閃一閃突き……】

仰向けの零の腹に目掛け、ダークは一閃突きを繰り出した。

腹に風穴があき、血が噴き出しているのをダークは無表情で見ていた。

そして、また、闇の中へ落ちていった。


*


「私を許せ…………」

最後に零が聞いたダークの台詞は、この後の戦いの引き金を引いた。


*


舞台はクールタウンから、始まりの【タウン】へと変わっていく。

第1章完結!


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