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Zero  作者: 山名シン
最終章
59/60

剣龍合戦其の四

剣山家と龍牙家はクール大陸(タウン)の東側に位置しており、その南半分を剣山家、北半分を龍牙家が独占している。

剣山と龍牙の間には龍谷林という林があり、さらにその奥に、辰巳城(たつみじょう)があり、その向こうにやっと龍牙家が見えてくる。

剣山家、風の村、龍谷林、辰巳城、龍牙家という風に並んでいるのだ。


零と(つるぎ)そして飛鳥(あすか)の三人は風の村を出て、龍谷林へ向かう道程(どうてい)を歩んでいた。

彼らは一言も話さず黙々と歩を進めている。


(もしもの時があれば俺は父の跡を辿ろう。父は18の時に家を出て己の生き様を貫いていった。俺も父の跡を辿ろう……)


零と剣の父親、剣山カシラが亡くなってはや七年。

零は17歳になっていた。

二年間雅王拳の修行を行っていたが、結局マーラカーラの兄弟が死んだ今となっては、もはや昔の思い出のようなものだ。

いい体験をした。

幻のタウンとも言われるビーストタウンにて、一世紀間にたったの四人しか確認されない雅王の戦士に選ばれた。

あと100年後にまた雅王の戦士が選ばれるのだろう。

その時また創造の神が復活してもおかしくない。

継承者が死んだのであって、創造の神そのものが死んだ訳ではないのだ。


龍谷林が見えてきた。竹が立ち並ぶが、明らかに誰かに切り落とされた箇所があった。

飛鳥が、息を呑んだ。

その場所に立つ男の姿が見えたからだ。

「その線からは、零君、君だけおいで」

遠くから声が聞こえたので、零は二人の顔を見ると一人だけで前に進んだ。

龍谷林の入り口に綺麗に並んでいる、岩と岩の間に線が引かれていた。

それを踏み越えて足を運び入れ声のする方へと歩いた。


「龍牙家第12代目当主、龍牙(りゅうが)大和(やまと)だ…フフフ」

綺麗な顔立ちの、細目の男が名乗ったので、零も応える。

「剣山家第13代目当主、剣山(けんざん)(ぜろ)……」

言うと、樹力(きりょく)を上げて瞳を緑色に染めた。


「あの時、(カシラ)は僕に約束したんだ。僕に殺して欲しいってね」

零は一つ間を置いて、納得の顔をした。

七年前にカシラが、目の前の男に殺された時を指していた。


零は何も答えなかった。

そして目を閉じ深呼吸をした。

目を閉じた時、樹力を通して生命エネルギーを感じた。

まぶたの裏で赤く光る生命エネルギー。

目の前に一つ、後ろに二つ、あとは並び立つ竹や大地を写していた。

「やろう…剣山と龍牙の命運をかけた戦いを」

目を開き、声を低めて言った。

不適な笑みを浮かべた大和はうなずいて、少し距離を取った。


大和は右腰にかけてある、音剣(おとけん)山越(やまごえ)を右手で器用にとり、錆び付き使い物にならなさそうな刃を向けた。

「キーン」という鈍い音を立てながら、フフフ、と不適な笑みを浮かべる。

左手をたらんと垂らしたみすぼらしい姿で、駆けてきた!


零はすかさず手を構え、樹力で動きを見切る。

ブンッと恐ろしい程の速さで斬りつけるのを、上手く交わし、左に回り込み弱点である左腕を狙う。

だが、横に飛び避けられた。

大和は飛んだ拍子に、山越を零に向け投げた!


「キーン」という鈍い音と共に飛んできた剣に一瞬気付くのに遅れ少し肩を(かす)めてしまった。

(…っ!!)

右肩を押さえ、前を見ると大和がいない事に気付く!


殺気!


腹部を思いきり蹴られた零は(もだ)え苦しみ、勢いよく吐血した。

さらに、頭を足で押さえ付けられ地面にひれ伏すと、また大和は飛んだ。


実力差は誰が見ても歴然だ。

弟の剣はそんな零をみて哀れに思っていた。

隣にいる飛鳥も一応戦いを知っている者、これはもう零の敗北が見えていた。


だが、大和が竹藪に刺さった剣を引き抜き零に斬りつける瞬間に形勢は逆転する。


真剣白刃取り!


剣を逆に取り上げ投げ捨てる。

そして大和の顔面へ、渾身の一撃を放った。

「…フフフ…」

そのまま畳み掛けるように、連打を喰らわしさらに零は、ある構えを取った。


「磨閃一閃突き!」


右拳を握るか握らないかの優しい手付きに、左手の掌を緩やかに構え、突く!


零の視界が突然真下の地面に向いている。

一閃突きは地面に穴ボコをあけて、空洞が出来るが何が起こったのか分からない。


神速突(タキオン)…」

大和は零になぶられている間、右腕を高らかに上げて隙をうかがって、神速突(タキオン)肘打(ひじうち)を零の背に食らわしていたのだ。

大和の腕が残像を浮かべた途端に消えると同時に衝撃が、音になって聞こえてきた。


(つるぎ)は驚いていた。

あの技は、槍の達人プロセウスから教わった技だからだ。

確かにプロセウスは大和を知っていた。

元々仲間だったと言っていたが、しかし、神速突(タキオン)を使いこなす者など、プロセウスを除いて他にいないと思っていた。

剣も使えるとはいえ、未完成だからだ。


神速突(タキオン)、残像を残しながら、打ったと気付いた時にはもう技にかかり大打撃を喰らっている、超速業。

かつてこれを見破ったのは、零と剣の父親である、剣山カシラだけだとプロセウスは言っていた。


(そうか、だからあの時大和とプロセウスは互角に戦えていたのか!……なんて奴なんだ、龍牙大和。あんな奴に零が勝てるはずがない)

剣の読みは正しかった。

現に今、零は背中を押さえて立てないでいる。

もはやこれ以上の戦闘は無理だろう。


「フフフ……」

不適な笑みを浮かべながら余裕の顔をしていると思いきや、大和は途端に血へどを吐いたのだ。

神速突(タキオン)はプロセウスが使うからこその大技。

それ故に他人が簡単に真似できるものではないのだ。


「うぅ……」

呻き声をあげた零は、だが、敗けを認めていなかった。

零が放り投げた音剣山越は「キーン」という鈍い音を響かせている。


まだ起き上がろうとする零にとどめを刺そうとする大和の腕を止めたのは、飛鳥(あすか)だった。


「…もう止めてよ……お兄ちゃん!」

言われた瞬間大和の眉がピクッと上がった。


《お兄ちゃん!遊ぼ!》


まだ大和(やまと)が五つだった頃、四歳だった(あすか)とよく遊んでいた記憶が突然脳裏に浮かんだ。


「……あ…す……かなのか?」


妹が五つになったと同時に捨てられて、大和は酷く泣いていた。

《お兄ちゃん!》と呼ぶ声を思いだし、もう一生会えないと悟った時に大和は、【目を閉じた】


(あすか)を失った世界を見ないで済むように、目を閉じたのだった。

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