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Zero  作者: 山名シン
最終章
58/60

天空を駆ける者たち

(ぜろ)(つるぎ)がまずウイング村長の家に行き、飛鳥たちと出会う。

ワストも後ろからついてくるが、どこか後ろめたい感じだった。


ワストは剣龍合戦で大竜巻を起こし前代未聞の破壊の限りを尽くし犯罪者として投獄されていたのだ。

シーラと雷鬼によって、脱獄し逃げた罪は重い。

うつむいているワストをなだめるように、零は頭をポンと撫でたが体を震わせて怖がるばかりだった。


「我らが大将はやはり生きとった!これは良かった!一安心だな」

ウイング村長を中心に剣山家の(しもべ)たちが豪快に笑い安堵した様子を見せているなか、飛鳥(あすか)だけは違った。


飛鳥は5つの時に親に捨てられて、ウイング村長のもとで暮らしてきた。

本名は龍牙(りゅうが)飛鳥(あすか)、腕と肩にかけて龍の爪の刺青(いれずみ)が彫ってあったが、それはむごい火傷で覆い隠されていたのだ。

剣龍合戦第二戦、[蜥蜴(とかげ)の戦い]にて飛鳥は龍牙家の書斎で見た家系図に書かれていた事を今でも鮮明に覚えており、衝撃の出生に悲しみを隠せないでいる。

剣山マリアと龍牙マシラの娘、そして今まで敵だと思っていた龍牙大和の妹という事実。

剣龍合戦を終結に導いた「神官(ジャン)英雄(ダル)」と呼ばれた母マリアは、暴走するワストを命懸けで止めてそのまま樹力硬直により自然死してしまった。

風の村の象徴である「ウェントゥス・シルウァ《風の森林》」に母は埋葬され、この英雄を未来永劫、忘れないように黙祷(もくとう)が今年から始まった。


数日後、零たちは剣山家や風林一族、ベスト一族を呼び盛大な宴を催していた。

慣れない酒を飲む零や剣、まだ甘い果汁を搾ったジュースしか飲めないワストなどが乾杯しあっている。

大和との対決を三日後に控えての宴だ。


その時、ベスト一族の長ベストがワストの腕を掴み、無理矢理引っ張っていった。

宴会の広場に立ち、太鼓を大袈裟に叩き皆を鎮めると豪快に話し出した。

「この者は我がベスト一族の誇りを汚しただけでなく脱獄までする卑怯者だ!今日これを持ってこの罪人を終身刑を下す!もう逃げられぬように、[風(ウェントゥス)支配者(レクトル)]に獄番を勤めて貰う!」

風の支配者とは風の村の監獄署長のような者だ。

風を操る者の中で一番の使い手だが、マーラとカーラが死んだ今、もう風を操る事は出来ないが、それでも自身の腕っぷしは村の誰よりもあるのだ。


《君を助けてあげるよ》


ワストの心にある男の声が聞こえた。

ワストはある男から、「君が自由になりたいのなら僕の言うことをよく聞くんだ」と、ウォールから帰る船上で密かに言われていたのだ。

(このバッジを空になげげればいいんだよね?)

ワストは空に向かって手に持ったバッジを投げた。


「さぁ風の支配者、ベストよ!前へ参れ!」

風の支配者と呼ばれたベストは仏頂面の女だった。

腰にかけている()が妙に巨大な剣をぶら下げながらワストのもとへと歩いてくる。

その女が前に立ち、ワストの腕を掴み連行しようとしたとき、「キーン」という鈍い音が、宴会の広間全域に響いた。


船上の話をもちろん零も(つるぎ)も聞いていたのでこの事はしってはいたが、いつ来るのかは知らなかったから、驚いた。


風の支配者であるベストの女が巨大な剣を引き抜き空から飛んで来る男を斬った!

ギンッと火花が散りながら、お互いの剣をぶつけ合う両者の戦いを黙ってみる訳にはいかなった。

色んな従者のものが今突然現れた男を引っ捕らえよ、と叫びながら武器を持ち構えていた。


「フフフ……」

その女は強かった。

流石は(ウェントゥス)支配者(レクトル)といったところかと、妙に感心しながら善戦する大和はしかし、心なしか楽しんでいた。

一瞬、後ろを振り返りワストを見て目で逃げろと命令した。

ワストは皆が混乱している中をすり抜けていき、風の村を北に突っ切った。

「おい!罪人が逃げたぞ!追え!追え!」

ベスト一族の長ベストが叫び、ベスト達が追いかけていく。


「あいつ。何考えてるんだろうな」

「さぁな。手伝うのか?」

首を振った零はこの混乱を避けながら、「キーン」という音がうるさいので耳をふさいでいた。


《僕が合図を送るから君は全速力で風の(やしろ)へ向かうんだ。そして風神様にこう告げな。『もう一度継承者にして下さい』ってね》


大和の言った言葉を思いだし、ワストは走った。

力が使えなくなったのは想像(イメージ)創造(クリエイト)の力であって、それは神の信仰心から来る力の貸し借りに限定される。

つまり、一般的な風や火を操る事は出来なくなったが、継承者だけは特別だということだ。

だから継承者だけは自然の力を無制限に扱えるのだ。


風の支配者対大和の戦いは激しさをまし、誰もこの二人に近付けないでいた。

ウイング村長は戦士たちに指示を出すのに必死になっていた。

なんせ、風の支配者と戦っているのは、龍牙の現当主、ずっと敵だった男だからだ。


その傍らで、一人の女性が男の方を目を見開いて見ている。

(…龍牙…大和。私の兄……)

飛鳥(あすか)は大和の奮闘を見ながら徐々に歩を進め近づいていく。

それに気づいた零が飛鳥の腕を持ち引き留めた。

「今近付いたらダメだよ飛鳥さん…こっちへ来て、安全な所へ避難しよう」

だが、そう言っても上の空だったが。


風の村での宴会は元々神へ祈る為に行われていた一種の宗教祭りであった為に、場所は神に近いウェントゥス・シルウァ《風の森林》のすぐ近くで催されていた。

ここを抜けるとすぐに風の社があり、その中に風神がいるのだった。


ワストは荒い息を整えながら、風の社へついた。

ワストの姿を認めた風神は、いや、風を具現化した龍は、薄く目を開き小さな少年をみた。

ウェントゥス・シルウァを大勢のベスト達が駆けてくるが、ここは神の領域、こんなにゾロゾロと入ってしまってはバチが当たると思い込み、彼らは後悔した。


巨大な()をしっかりと握りしめたまま、豪快に剣を振るう風の支配者ベストはおよそ女とは思えない程の筋力を持っており、大和をねじ伏せているが、徐々に剣筋が鈍くなっているのを(つるぎ)は見切っていた。

大和の放つ「キーン」という鈍い音はもはやこの戦いには関係ないが、大和の太刀筋は相手の実力をはかりながら潰す事の出来る一風変わった剣の使い手なのだ。


女がふいに、よろけた。

そこに大和は突っ込んでいき女の耳元に自分の剣を突きつける。

「自然の最大音響(サウンド・オン)

途端に(ウェントゥス)支配者(レクトル)であるベストが(もだ)え苦しみだした。

決着がついたのだ。


「フフフ、せっかく綺麗な顔をしているのにね。勿体ないなぁ…フフフ」

そう言い剣をおさめると不適な笑みを浮かべながら、零と剣の方をみた。

「君との対決を心待ちしているよ。三日後、龍谷林でまた会おう」

零の顔をみてまた不適に笑う大和に合わせるように言った。

「三度目の正直だ!大和、俺は必ずお前に勝つ」

「…………フフフ、二度ある事は三度あるってのもよく言うよね?」

そして、何事もなかったように大和は去っていった。

零の側に立つ、実の妹である飛鳥に目も暮れず、去っていった。


嵐のように現れ、嵐のように去っていき、静かな空気が徐々に流れ始める。

「零……(つるぎ)…私も龍谷林に行っていい?」

零は一瞬戸惑ったが、やがてうなずいた。

零と剣は知らないが、飛鳥は大和の妹なのだ。

飛鳥は胸に手を当ててギュッと固く結び、天に祈っていた。


【ワストはウェントゥス・シルウァ《風の森林》を抜け出していた。

そして、風の力を操って空高く舞っていた!

自由に空を飛び、どこまでも遠くへ、ワストという存在を、魂を、生命(いのち)をいつまでも風を切って駆けていった。

「行こう、誰も知らない、僕だけの世界へ!」

この後、ワストの姿を見たという人物は誰一人いなかった】


~ウォールタウン上空より~

ゲーラ一族跡地に浮かぶ一つの巨大な雲。

それに緩やかに座る老人が一人。

その老人は腕が四つあり、顔が二つあった。

座禅を組み、痩せ細った体つきのその老人は、荒れ果てた大地(ウォールタウン)となくなってしまった故郷(ゲーラ)をみていた。


【想像は創造という(よのなか)を創り、それはまた壊れていく。創造し維持と再生を繰り返し破壊されまた、創造されていく。世界というのはまず創られてそれを維持しながら壊していきそして新たな創造が生まれる】


「はぁ……どうしてこう上手くいかんもんかのぉ…」

彼の名前は、開祖(かいそ)『ブラフマン』

かつて、原始の神、最初の創造の神と(うた)われてこの世のあらゆるものを()いていき人々に尊敬の念で騒がれていた彼も、世界の創造の循環の中でやがて忘れ去られ、惜しくも生き長らえてしまった不幸の"人間"の一人である。

龍の姿を持つ神々の長、龍神を手懐けたこの開祖は、いつまでもこの世に現れるであろう救世主を待ち続けていたのだ。


【闇から生まれたこの世界を照らす一筋の光、やがてその光は闇を消し去ったかに見えたが、復活した闇によってまたその輝きを失ってしまった。誰かが言った。その光をもう一度放ちこの世の闇を討ち滅ぼしてくれる者が現れる、と】


「わしはいつ間違ったかのぉ?」

大きな雲の上で(ゆる)やかに座り四つの腕を器用に組みながら、二つの顔で左右を同時に見ていた。

その雲は進路を示さず、ただ風の(おもむ)くままにフワフワと浮かぶだけであった。

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