兄弟と親友の絆
一ヶ月後、零たちの船はクール港という港につきそれぞれの家へ戻る。
大和との対決を一週間後に控えさせ、港を後にした。
メディスは、サンタウンにいるデンとリン兄妹の元へ帰る。
悪魔が復活し、突然に去っていったあの後、薬膳一族の使いの者を側に置き、寒熱橋を通り故郷のサンタウンへ帰していていたのだ。
零と剣はまず、風の村へ幼いワストを連れて帰るのと同時に、ずっと戦ってくれたウイング村長と飛鳥に帰郷の報告に行った。
「あ、あの零さん、と剣さん。僕一人で帰れますから、わざわざ………」
「お前がよくても、俺たちは飛鳥やウイング村長に用があるんだよ」
零が言葉を遮って言った。
剣は黙ったままだった。
ワストはこの兄弟の微妙な雰囲気と気まずさに少々恐れをなしていたから、一人で帰ると言ったのだ。
風の村への道中三人は一言も話さないまま、それでいて微妙な空気と距離感を保ちながら、小さな森の小道を黙々と歩き続けた。
輝きの丘に、登り巨大な神樹のの側に腰を下ろした大和は、見えない目を薄く開ける。
視力が失われて眼光が白く鈍く光るその眼差しが写る先は一体何だろうか?
「アミカス、ただいま。元気にしてたかい?」
《あぁ、お帰り、大和。お疲れ様》
ふと、親友のアミカスの声が聞こえた気がした。
それに驚いて立ち上がるが、辺りには何もないただの小さな平野が広がるだけだった。
「…フフフ…」
小さく笑みを溢し、空を仰ぐ大和は、また、神樹に背を向けて腰を下ろした。
『メディさん!』
二人声を揃えて、言う可愛らしい兄妹にメディス微笑んだ。
二人を抱き締め「ただいま」といい力一杯抱き締めた。
サンタウンについたメディスは、いまだにガルーダの噴いた炎の焼け跡が無様に残る姿をみて心が痛んだ。
36歳の誕生日の前日に起きた事件、あの時薬の調達になどいかずに、兄妹の側にいておけば、ここまでの被害にはならなかったのだろうか。
(…いいえ、後悔していても何も起きないわね…)
傷付く心をグッとこらえ、兄妹の小さな家へ入り二人の為に手料理を差し向けるのだった。
(…これももう使う事はないと思っていたけれど)
メディスは腰に巻いた袋に摘めてあった、サケルドーサーの証である<神考>のバッジを大工に見せ付け、デン、リン兄妹の家の新築を無償で頼んだのだった。
「これでもっと大きな家に住めるわね!」
デンは、あっと思い付いたように小さな箪笥を開けて、袋を手に取り、メディスの元に戻ってきた。
それでやっとリンもあっと気づいた顔をして嬉々としていた。
二人は顔を見合わせて言った。
「メディさん、あの時渡せなかったんだけど、今渡すよ。な、リン!」
「うん!」
二人は声を合わし『メディさん誕生日おめでとう!』と高らかにそう言った。
デンから袋を受け取り、あけるとそこには手紙と、花冠が入ってあった。
「あ、でもお花……腐っちゃってる……」
リンが泣き顔になってそう言うが、メディスはリンの頭をポンと撫で微笑んだ。
そして、すっかり枯れてしまった花冠を頭に乗せて、「ありがとう」と言った。
そう言葉にした途端、メディスは涙が溢れて顔をしかめた。
デン、リンの兄妹は満面の笑みで、メディスの大きな背中をいつまでも撫でていた。
懐かしい敷居が見えてきた。
あの看板の先に風の村がある。
その前の小さな窪みのような広間で、「零…待て」と剣が止まり制止した。
零とワストが振り返り剣をみた。
「俺と戦え。そして、剣山の家督を譲れ!」
突然の弟の言葉に一瞬声を失うが、何も言わず零はうなずき構えた。
「え!あ、二人とも!」
ワストの声は空しく響き、徐々にお互いの距離を積める零と剣。
太陽剣を抜き、業火の炎を纏う剣と、樹力を上げて、最大であるタツキリョクで構える零。
零がワストに下がっていろと命じると、走り出した。
ブンッと太陽剣を振り回し動きを止めながら、零の視線を追う剣は、どんどん間合いをつめてフェイントに足蹴りを喰らわした。
しかし、それは紙一重で空を切り風が舞った。
その風を利用し、零は樹力を上げて風に乗りながら拳を叩きつける。
ゴォッと音が鳴り響き、太陽剣の炎が大きく舞い上がったところで、零は剣の懐に潜り込み、もう一度拳を叩きつける。
グンッと腹に重い一撃が入った剣はしかし、真下にいる零に渾身の一撃を振るう。
パンッッッ!!!!
真剣白刃取りで太陽剣を防いだ零は、濃い緑色の瞳で剣を睨めつけた。
二人が肩で息をしているのがはっきりと分かる。
いつのまにか、太陽剣の炎が消えて、普通の太陽剣に戻ると零が手を離し、立ち上がった。
「終わりにしよう。剣、帰るぞ……」
剣は太陽剣を鞘におさめ、目を伏せた。
そして、剣が前へ進み、風の村へ足を運びのをみて零はそれを止めずに言った。
「俺がもし、一週間後、大和に負けたらその時お前に当主の座を譲ると約束しよう」
剣は振り返らずに、足を運ばせ続けた。
ワストの方へ顔を寄せて、「行こう」といい、笑顔を見せた零は少し悲しい表情に見えた。
ワストがうなずき歩を進めていくと、しばらくして懐かしの故郷、風の村がそこにあった。




