世界の人々の動向ー其の五ー
(…今一度龍牙大和に感謝せねばならんが、あれは一体どうして?)
龍鬼は一度[鬼狩り]にあい捕まっている。
それを大和が助け、龍鬼は生き長らえている。
半年ほど前、イナズマタウンに戻った時、大和と、また、出会った。
その時彼は、イナズマタウンに現れた《覚醒鬼》と呼ばれる、鬼伝一族よりも鬼の血を濃く引く一族を狩っていたという。
覚醒鬼の存在は知っていたが、何故また「大和」がそこにいたのかは分からないままでいた。
そして導かれるままに、ついた場所は、雷鬼の許嫁であるプルクラの住む家だったのだ。
そこに怪我を負った武人もまた、覚醒鬼を狩っていた。
その途中で敵襲に合い怪我を負い治療するために近くの家を探した所、偶然プルクラの家についたという。
「なぁ兄貴、あんたイナズマに帰ったんだろ?その時会ったのか?」
雷鬼が訊いているのは、龍鬼の妻の事である。
しかし病弱で龍鬼の家族の者が精一杯に手を尽くしていたのだが、手遅れだった。
「……いいや。手遅れだった…」
雷鬼は義兄の言葉を聞いて酷く顔をしかめ驚いたが、龍鬼が悲しい顔をしていないので、涙はグッとこらえた。
そして、うつむき、声を低めて「そ……うか…」と答えた。
14日後、イナズマタウンに戻り、雷鬼と龍鬼はプルクラの家へ。
シーラはどこか遠くへ行くという。
しばらく放浪の旅に出るとの事だ。
「気を付けろよ、イナズマタウンは戦争の国。そこかしこで小競り合いやってっから油断してたらコロッと逝っちまうぜ?」
雷鬼がからかいながら言うと、シーラは笑顔で「分かった」と言い去っていった。
プルクラの家へ行くまでの道中、二人は何も言葉を交わさずに歩き続けた。
懐かしい家が見えてきた。
雷鬼が嬉々としながら走っていき思いきり戸を開け、プルクラ!、と叫んだ。
(あ!あの武人と一緒にいるというの忘れてたな…)
龍鬼が思い出したときにはもう遅かった…。
「おかえりなさい…」
「お邪魔してるぞ…」
同時に聞こえた声に、雷鬼は一瞬戸惑った。
「……えっ………と…だれ?」
雷鬼は怒りと迷いが同時に襲ってきてどうすればよいぁ分からなかった。
その武人はプロセウスと名乗り、怪我の治療にプルクラに泊めて貰っていたと言ったが、雷鬼は複雑な気分が拭いきれなかった。
「は、はぁ……」
ジロッと睨む雷鬼に、満面の笑みを浮かべるプロセウス、そしてコトコトと料理を作るプルクラ。
それを脇で見ていた龍鬼は苦笑いで、それぞれの再開を楽しんでいた。
ヒールタウン、爆炎一族、紅蓮の鐘広場前にてバーンと7人の兄弟がフレアを迎えに来てくれていた。
「よく戻ってきたなフレア。忙しい我が息子よ、お前の活躍を聞かせてくれないか?あぁ、それと、ヘラクレスさんこのバカをありがとうございました」
父バーンは[紅蓮の戦士]の称号を胸にあてながら、誇らしげに語る。
長男のバーストも、手話を用いて弟フレアに語っている。
(本当に、よくご無事で何よりです。フレア、楽しい旅でしたか?)
フレアは微笑み、手話で、楽しかったと返す。
ヘラクレスは一日フレアの家族と過ごし、次の日に旅立つと言っていた。
本来の目的である、自分の両親を探す為だった。
「本当にお世話になりました。フレア君には特に世話になって、私も楽しい旅が出来ました」
容姿はどうみても女、声だけ聞けば好青年、この男か女か分からないこの者の性別は両性具有。
ヘラクレスは胸の前で手をあわせ最敬礼をした後に、フレアの頭をポンと触れる。
「ありがとう、あなたは私の心の支えになってくれた。フフ、正直言って私の悩み事は何一つ解決しちゃいないけど、それでも私はあなたと居れて幸せだった」
美しい綺麗な顔立ちで、微笑みかけられたら、たとえ本当の女でなくともドキリと来るものだ。
フレアは頬を赤らめて、うなずき様に言う。
「お、俺でよかったら……さ。い、一緒にいってやろうか?まぁ俺頭悪いからさ。何か悩んでてもなんも分かんないけど、話ぐらいならいつでも聞いてやれる!それに………」
そこで口ごもり、声がかすれたが、パッと顔をあげてヘラクレスと向き合った。
「俺も楽しかったぜ!し、幸せって感情はまだガキだからよくわかんねぇけど、ここで離ればなれになるのは寂しい……」
言った途端、7人の兄弟たちが、からかいはじめフレアは、益々顔を赤く染めた。
父バーンが不適な笑みを見せて、フレアの背中を叩き、何も言わずに大きくうなずいた。
ー行ってこいー
背中を押された時、フレアは豪快に泣きじゃくり、兄弟たちが、フレアを固く抱き締めてくれた。
「ありがとうございました。では、フレア君を必ず守り抜きます。じゃあ行こうか!フレア!」
父バーンと、長男のバーストを中心に7人の兄弟たちがフレアとヘラクレスの二人を見送り、豪快な花火を打ち上げてくれた。
「わぁぁ……」
初めて見た、巨大な花火をみて感動しているヘラクレスは、ここがヒールタウンだという事を思いだし、友であるメディスの事を想った。
「ここはヒールタウン。世界最強の国、世界一の先進国、世界一の医学大国、世界の頭脳。2000年以上の歴史が物語る巨大な都市を照らす大きな[華]は、今日も豪快咲き誇る。何故なら世界一巨大な大陸、豪快でなくてはここでは生きていけないからだ」
《よいか龍神よ、この世の闇の力は強大だ。果てしなく広がる闇に私たちは立ち向かわなければならない。一つの小さな光明を守る為に我らは戦わねばならない。龍神よ、太陽は必ず我らを照らし導いてくれる。闇夜を照らし朝を迎えてくれるのは、太陽しか出来ぬ事だ。それが写し出す先を、お前が守れ。二度と闇が訪れぬようにな》
善神アフラマズダ神は、悪神アーリマンとの絶え間ない戦いを繰り返しそれは今もなお続いている。
彼らが戦い続ける限り、天界の写世である下界、この地上もまた戦い続けるのだ、と開祖は説いた。
太陽が写し出す光はこの世の光明、真の平和である。
「…これがお前が写したかった世界か……?」
荒れ果てた大地。
何もない大地。
ただもうもうと陽炎が揺れているだけだ。
龍神山から見下ろす景色は、この写世を見るのに最適な場所。
ヒールタウンは始まりの大陸、故にこの世の傑作とも言われる。
だが、いつまでも降り注ぐ太陽の光は無情にも、この荒れ狂った大地を鮮明に写し出してしまう。
悲惨な大地を。
無様な大地を。
終末の大地を。
「これが………こんなものが………お前が見せたかったものなのか………?」
龍神はいつまでも続く地平線の彼方を見つめ、嘆き、吼えた。
「この荒れた大地を守れと言うのか!……」
その怒りは悲しみに変わり、いつまでも鳴り響いていた。
獅子であった時、善神アフラマズダ神と共に世界を回っていたあの頃、早く龍神になりたいと思い、日々の生活が輝いていた。
太陽が照らす先を見るために、光り輝く世界を守る為に、いつまでも夢を見ていたあの頃。
龍神になるべく、死者を埋葬し、あの世へ送る毎日。
そして448096年後に突然に羽根がはえて、体が伸び、尾がはえたあのとき、空を、天を、自由に駆けていった。
《なんて気持ちが良いのだろうか?これが空!これが天!これが自由か!》
そう何度も何度も思い飛び続けたあの頃。
龍神はこの素晴らしい地上をいつまでも守り抜くという誓いを心の底から願った。
今日に至るまで、どれ程太陽を拝んだだろうか?
どれ程太陽を目指しただろうか?
どれ程太陽に感謝しただろうか?
どれ程太陽が本当にこの世を救ってくれると信じていただろうか?
「太陽は一体!何を照らすのだ!教えろ!」
龍神は空を仰ぎ見て一喝した。
「太陽よーーーーー!!!!!!」
轟く遠吠えは、虚しい空を切り、高く、高く昇っていくがもはや、どこにも届きはしない、切ない【想い】だった。




