始め有るものは必ず終わり有り
神の力が突然に使えなくなった雷鬼たちは、メドゥーサ率いる悪魔の軍団に手を焼いていたのだが、どうやら悪魔はよほどの事がない限り襲いにくることはなかった。
それは悪魔の『気紛れ』であり、ただの『暇潰し』でもあったからだ。
それでも何の力も持ち合わせない雷鬼、シーラ、ワストの三人はただひたすらに逃げ続けていた。
「へ!だっせぇな俺たち。何のために来たのやら?こんな事なら、プルクラに会いに行けばよかった…」
雷鬼の許嫁であるプルクラは、故郷の雷伝一族の小さな集落の外れに住んでいた。
イナズマ大陸の小競り合いを鎮めてくる、と言い置き、故郷を去った雷鬼と義兄龍鬼は、それぞれの許嫁に別れを告げてここまで来たのだ。
「そう言うな。俺も予想していなかった。それに結局これも使えないって分かったところだ」
シーラは諦め気味に手に持った、光る石を見つめていた。
それは伝説の紋章である、海の紋章だ。
十字を左右に重ねたような、それでいて波を連想させるうねりも含めた不思議な石だ。
大理石のように固く滑らかで、銀色に光り輝いている。
「え!じゃあ俺たちは本当に何のために来たか分からないじゃないか?」
思わず吹き出し、高笑いする雷鬼。
シーラも肩を落とし、落ち込んでいる様子だった。
そんな二人を片隅で見ているワストはもう、疲れが滲み出て座り込んでしまう。
そんな時、突然辺りが真昼のように明るくなった。
巨大な孔雀のような鳥が、雷鬼たちを覆う。
そして、東へ真っ直ぐ五里程行くと船があると告げられて、それに乗り故郷へ帰りなさいと言われ、その鳥は去っていった。
鳥が去ると、辺りは急激に暗くなったように感じたが、元々昼間だから元の明るさに戻っただけだ。
「……ん!感じた!これは……」
雷鬼がおもむろに後ろを振り替えると、そこには龍鬼の姿が遠くにチラリと見えた。
「兄貴……生きてたんだ!良かった!」
血の繋がらない兄、龍鬼を目にした途端、雷鬼は微笑み天に祈った。
(…神よ!我らが神よ!よくぞ兄貴を生かしてくれた!…本当に感謝する!ありがとう!)
雷鬼は心の中でそう祈り、しばらくして合流した龍鬼と共に、東にあるという船に向け、足を運んだ。
「メドゥーサ、これ、いい?、俺たち、も、帰る?」
ヘカトンケイルはメドゥーサに片言で問う。
側に佇んでいるゴーレムもまた、メドゥーサに岩が擦れるような鈍い声で訊いていた。
「う~ん……なんかもう一つ面白味に欠けるけど……久々に十分暴れたしよしとするか!フフフ…」
メドゥーサは舌をYの字にペロリと伸ばし唇を濡らした。
そして悪魔の軍勢に、悪魔にしか聞こえない声で、帰るぞ、と告げて海を渡る準備を整えた。
こうして悪魔の恐怖に人々は解放されたのだった。
剣はヘカトンケイルとの死闘を終えて、フェニックスによって告げられた船に既に乗り込んでいた。
そこで兄、零に再開する。
兄弟の醸し出す気まずい雰囲気のまま船は出航し、クール、ヒール、イナズマタウンへと続く三つの船がそれぞれに散っていった。
メディスはゲリラとナデシコがいない事に涙を流していた。
クール組には零、剣、ワスト、大和、メディスの五人。
ヒール組はヘラクレスはフレアと二人きり。
イナズマ組は龍鬼と雷鬼、そしてシーラも乗っていた。
「フフフ……いがみ合っている所悪いんだけどさ。君たち、クールタウンへ着いたら龍谷林の入り口まで来てくれないか?」
大和をが零、剣の兄弟に向けて言う。
「そして、僕と戦い勝利した方が、剣山家と龍牙家、どちらもを支配出来る権限を持つってのはどうかい?」
衝撃的な発言に辺りは凍りついたが、零と剣は深くうなずき、その挑戦状を承諾した。
剣山家と龍牙家の命運を分ける最後の戦いが始まる!




