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Zero  作者: 山名シン
最終章
54/60

始まりと終わりの場所ウォールタウン

鬼の末裔、鬼伝(きでん)一族と創世記時代に生き抜き人類の祖先とも言われた、彦五十狭芹(ひこいさせり)族の末裔、雷伝(らいでん)一族は、彼らが戦いの発端を起こし、戦いの原因はみな彼らの血を引いているから、とも言われている。

悪に染まる者はみな鬼の血を引いている。

善に染まる者はみな(ペルシクム)の血を引いている。


大黒神マハーカーラの神共闘(アンゲルス)は解け、マーラとカーラの二人に戻った。

そして彼らの小さな体は骨や筋肉、臓器が伸び縮みする音と共に一気に成長していく。

10歳で止まっていた時間を取り戻そうとしていく体を、もう、誰も止める事は出来ない。

バキバキと骨を鳴らしながら急激に成長していく彼らを見て、零は鳥肌が立つように、怖じけずいた。

背後に大和が寄った。


「彼らの呪いがやっと解けたのさ。ずっと自分達の正義の為に戦い傷付いてきた彼らは、自分の居場所を探していたのかもしれない。いつになったら父は帰るのだろうか?いつになったら母は帰るのだろうか?と、ずっと震えながら実に《1000年》もの間、戦ったのさ。怖かっただろうな。自分達の存在など、とうの昔に歴史になり、呪いとして恐れられているのに、それに気付かずずっと彼らは生きてきたんだ。この世の悪夢を見ながら、御両親が帰るのをひたすらに待ち続けて」


大和が何故ここまでマーラとカーラについて詳しいのかは直ぐに分かった。

大和は歴史に詳しい。

あらゆる歴史を追い求めていたからだ。

そういう歴史書に彼らの一族の事が詳細に綴られていたのだろうか。

時を操る創造の神は、一旦継承者になってしまえば、その者《想い》が途切れた時に初めて、継承を終える。


「う、ぅ、カ……ラ……」

「な、んだよ…マーラ…」

マーラは涙を流しながらに会話する。

これが彼らにとっての最後の晩餐となる。

マーラは蛇の体が抜け落ち、右上半身はすっかり無くなっていた。

「ぼ、くたち……しぬ。のかな?」

大粒の涙を流しながら、徐々に声変わりしていき、10歳の子供らしい高い声から、10数年経った好青年の声に変わる。

「いいや、しぬ。なんてない。……おれた、ちは、お母さんとお父さんの所へ戻る、だけだ、よ」

カーラはずっと仰向けで穴のあいた腹を見ながら言う。

カーラもまた、声変わりをして徐々に弱っていった。

カーラには未来が見える。

一秒毎の未来がいつも見えていた。

だから分かる。

自分達はもう、姿形さえ跡形もなく消え去るのだと。


「目を反らしたら駄目だよ……歴史とは時に、正義が悪に逆転する時がある。おなじように、悪が正義になる時だってあるのさ。今回の場合、僕らが悪で、正義になったのさ……人々はこちらを信じるだろうね……」

大和は静かに囁いた。

零には理解出来ない部分が多くあったが、それが何なのかははっきりと分からなかった。

(…師匠がいうように、俺はただ何も知らずに彼らと戦っただけなのだろうか?何の意味があった戦いだったのか?それは多分、戦っている間は分からないモノかもしれない。その理由は【後付け】すればいいのだから……)


やがてマーラとカーラは、老体になり、皮と骨だけになった。

そして皮もなくなり、骨だけになっても成長を続けて、灰となり消え去ってしまった………。


「そう言えば、お前に訊きたかった事がある。前にも言ったが、お前やマーラ、カーラが言っていた、俺たち神の継承者は後で役に立つ、だから生かしている、とは一体何だったんだ?」

「……フフフ……そうかい。そんなに聞きたいのかい?なら教えてあげるさ。だけど、まだやる事がある。それが終わってからね…フフフ…」


龍神を中心に五つの自然の神々が舞っている。

その脇に、雅王の戦士ライアンも密かに辺りを見ていた。

不死鳥フェニックスは、残った人間たちに助言し、メディスらが乗っている船の道を教えていた。

自然神は零のもとへ行き、伝言する。


ー創造の神が死んだ今、もはや神を崇拝するだけで力を得る事は不可能になった。だが、私だけは違う。私は万物を操る神だから、人間が生きるうえで困らない程度に力を[貸す]のではなく、[与える]のが本来の力。つまりお前たち人間は自然を与えられているからこそ、生きていけるのだ。自然があって初めて力を得られるのだから、私の力だけは扱えるのだ。それこそ万物の全てがなー


自然神は龍の姿でそう言って、もといた場所へ、自然神の社へ、帰っていった。

「なるほど……つまり、零君、君はもう魔剣紅、あの力は使えなくなっている。まぁあれも一種の呪いの一部だから、だけどね。 それに僕もそうだが、もう雅王拳も使えない。これらは全て、創造の神の継承者、マーラとカーラが生きていたおかげなのさ…」

零は少し悲しかったのと、ほっとした安心感があった。

「そうか……」


ライアンは龍神を睨んでいる。

「龍神よ、お前に問おう。お前の主である、開祖と善神アフラマズダ神は、このような世界を望んでおったのか?」

ライアンは口を開かず、テレパシーのような声で問いた。

しかし、龍神はそれには答えず、ボロボロの羽根をバッと広げ、遥か彼方へと消えていった。

龍神が消えたのと同時に、他の風、雷、水の神もまたそれぞれのいた、(やしろ)へと帰っていく。


(…龍神、お前がまだ獅子であった頃は、どういう世界だったのだ?わしがいずれ龍神となり、龍神山から世界を見下ろした時、何か分かるのだろうか?)


《わしとお主が共闘するというのは!》

そう問いた時、お前はてっきり拒否するものだと思っていたが何故、あの時あっさりと承諾したんじゃ?龍神(ヴリトラ)……。

雅王の長、獅子のライアンは、遠くに写る龍神を見て悲壮感に包まれていた。


酷く荒れた大地(ウォールタウン)、しかし、この大地は「始まりのタウン」とも呼ばれ、創世記の時代よりずっと同じ形を保ってきた。

そして何かあるようで何もない、この大地は全ての産みの親として、長く静かに君臨していただけなのだ。

「全ての始まりはウォールに通ずる」

この言い伝えが全タウンの常識となったのはいつの頃だったのだろうか?

「ウォールで始まり、ウォールで終わる」

という言い伝えもまた、いつ頃、世の中の常識として習わされていたのかは、まだ定かではないようだ。

人類も生物も神々でさえ、このウォールタウンから生まれたのだから。

ウォールタウンでは「何故」は、通用しない。

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