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Zero  作者: 山名シン
第1章
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自然神の継承者編

《父さん! 父さん!》

あの時、爺やに体を抱えられてはっきりと見えたのは、父が笑っているところだけだった。仇を討てなかった悲しみが、零を苦しめいつまでも渦のような暗い怨念がまとわりついていた。


*


剣龍合戦からはや3週間。

零が目覚めた場所はまた、風の村第一集落の大きな家の中。

この3週間の間に師匠ダークが復活させた幻獣は、猛威を振るい、大きな場所で言えば『サンタウン』と『アイスタウン』の2つを中心に被害が広がっていた。

内、アイスタウンは兄弟子シュウが師匠を説得するべく訪れていたはずだ。

彼はどうなったのであろう?と零は考えていた。


そして、まだまだ進撃を繰り返す龍牙家の事も考えていて、零の精神はいよいよ崩壊近かったが、それを救ってくれたのは、義理の母のような存在であった飛鳥(あすか)だ。


龍牙大和、この男は恐ろしく強かった。



(俺は恐ろしく弱いな………)



零はある決意のもとに旅立った。早朝にこっそりと治療所を抜け出し、風の村を飛び出たのを知っていたのは恐らく飛鳥だけだったろう。


*


風の村の東にあり、超獣猪の群がいる玄人山(くろうとやま)には、剣山家の武器庫(けん)物置小屋がある。山といっても300m程しかない小さな岩山なのだが、昔からそこは剣山家の修行場でもある。


零が今いる場所は、玄人山を登った先、剣山家の武器庫のあるちょっとしたスペースに来ていた。さらに東側を見ると森林がある。

この森林こそが、剣山家の信仰する『自然神』がいる。

その森林の名は『自然の森ナートゥーラ・シルウァ

そしてこの森林のどこかに、自然神がすんでいると言われる<自然の(やしろ)>がある。


武器庫の戸が開いた。

「あら? あなただれ? ゲリラさんの知り合い?」

がたいのいい男。髪は刈り込んであり、いかにも男の中の男だったが、姿勢が少し気になった。

しかし、ゲリラを知っているという事はただ者ではないだろう。

「俺は、剣山零。あなたは?」

「あぁ! 零君ね。話には聞いているわ。私はメディス。気軽にメディさんって呼んでちょうだい」

やはりこの男の姿勢が気になる。どうやら、()()()()があるらしい。零は一瞬苦笑いをして軽く会釈した。


*


メディスに事情を説明したあと、零はナートゥーラ・シルウァに入っていった。

ナートゥーラ・シルウァに踏み入れた瞬間分かる。

ここは神の領域、自然神の生きる場所。普段とは全く違う圧力のようなものが零を襲った。どんな事があっても決してここの物を壊したり荒らしたりしてはいけないと、悟る。


暗い森の中を進む事、20分は経っただろう、気付いた事は樹力(きりょく)が普段よりも上がりやすくなっていること。


樹力は自然から力を【借りる】事で、自らの身体能力等を向上させる事が出来る。

さらに、風や火、水や雷など、小さなものから大きなものまで、自然である限りそれらを操る事も出来る。

ただしこれには条件があり、力を【借りる】という事はやはり、【返す】事もせねばならない。


【返す】というのは、自分自身に返ってくることが多い。

例えば、寿命が短くなったり、病にかかりやすくなったりと、何らかの形で弱くなっていくのだ。

それ以外にも、自然に力を【返す】方法はあるのだが、それはまだ零は知らない。


樹力を上げている間は、身体能力が向上しているので、気分がいい。緑色に染まった瞳を輝かせて、道は分からぬが軽快なリズムで森を進んでいく。


所々で、木々が襲ってきた。これを零は「暴れ木(シャンクマン)」と呼称して、襲い来る枝を跳ね避けた。

枝と枝が擦れ合い、ガサガサといわしながら零の脇腹に迫る。

それを(うま)く両腕で掴み、流れに任せて、振り回される。

零の樹力が、シャンクマンを操る事に成功すると、大人しくなったシャンクマンは子犬のように頭を、葉がついた枝先を零の腰まで落とした。


「よし、良い子だ。悪かったな手荒な真似して。ところで、自然神がどこにいるか分かるか?」

枝先をさすりながら言うと、回りの木々たちもシャキッと背を伸ばし枝を揺らしながら方角を示してくれた。

途端、その先に緑色に発光している箇所を見つけ、そこに自然神がいると瞬時に理解した。


*


神々しい輝きを放つそこは、最高の快楽と奇妙な恐怖を覚えさせる。

緑色に透き通る鳥居を潜り、丸く光る中へ足を運んだ、いや、気付いたら中へ入っていた、というのが正しい。


全てが緑色の世界。蛍の光のように輝く中に、一際濃く、そして、巨大な光を放つものがあった。

龍の形をした、それは零に気付くとうっすらと目を開けて静かに語りだした。


「よくぞここまで辿り着いた。若き勇者よ。お前は何を望みここへ来た?」

薄い緑色の吐息をはいて、低い声で呟いた。

「俺は、自然神の継承者になるべくここへ来た! 力が欲しい。誰よりも強い力が。俺の師匠を救う為でもある。あなたなら、それを叶えてくれると信じて来た!」

零は樹力を極限まで上げて堂々と言った。

「ほぅ……ならば、試してやる。お前の力を私に見せてみろ。剣山カシラの息子よ……」


父の名を聞いて一瞬耳を疑ったが、しかし龍の顔面がこちらに迫って来るのが分かると、切り替えてそれを後ろに跳ね避けた。

深呼吸をし、龍に拳を入れる。だが、すり抜けて当たらない。


「少しハンデをやろう」

龍の姿から、零と同い年ぐらいの青年に成り変わった自然神は、蹴りを繰り出した。

それを零は腕で止め、こちらも蹴りを出す。それは青年の脚で防がれ零の脚を掴むと、零は身動きが止まってしまった。


呼吸が出来ない。まばたきすら出来ない。

いや、そのどれもを実際には行っているのだが、それは零の本意ではない。

(操られている……)、咄嗟にそう思った。

意識ははっきりしているのだが、このまま操られたままならおそらく、心臓の動きでさえ簡単に止める事が出来るはずだ。


「これが樹力だ。自然の力は本来こういうものにある」

青年は、零の脚を掴んだまま言った。

白い肌に、白い髪、白い服を着た容姿の青年だ。


「お前の望みを叶える事は、難しいかも知れぬな」

それを聞いた途端、零の中で何かが弾けた。

父が、弟が、兄弟子が、義母が、爺やが、零を呼んだ気がした。

(師匠が待っている! 行かなきゃ!)



「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」



轟く咆哮と共に、地面が揺れ始めひび割れていき、大樹の根っ子が盛り上がってきた。

零の瞳が漆黒に染まっていく。膨大な量の自然を一気に借りたのだ。

だが、その揺れは直ぐにおさまった。


青年が笑って零を見ていたが、やがて脚を離し元の龍の姿に戻ると、樹力硬直により、意識がほとんど失われた零に、優しい緑色の息を吹き掛けた。


数分後、意識がはっきりしてきた零は目の前に自然神がいない事に気付く。

辺りを見回していると、心の中から声がした。

(お前はもう立派に継承者になった。これからは、自然に力を()()()()()()()済む。だが勘違いするな。継承者になったから強くなった訳ではない。それはお前の努力次第だ。存分に自然を使うといい。私は出来る限りにお前に力を貸そう)


*


ナートゥーラ・シルウァを抜けると、もうすっかり日が暮れていた。

パチパチと焚き火の音が聞こえる方を見ると、そこに、メディスと老人が座り込み暖を取っている。


そっと近付き声をかけた。

「ゲリラ様……」

老人は痩せ細った頬を見せ、そのしわくちゃな顔を見せて振り返った。

「零か……大きくなったな。まぁこっちでゆっくりしていけ」


ゲリラは無口だが、思いやりのある男だ。骨が浮き立つ手で、零を呼び隣に座らせた。

だが、零はそれに答えず、じっと2人を見つめるとはっきりした声で言った。

「今すぐ行かなければならない所があります。ゆっくりなんてしてられない。師匠に会わなければならないんです!」

「そうか……。だが今日はもう遅い。暗い山道を行くことはない。早朝にしたらどうだ?」

ゆっくりとした口調で言うと、ゲリラは焚き火に目を戻した。


メディスが優しく言った。

「貴方の大切な人でしょ? 何があったかなんて知らないけど、焦っても仕方無いわ。無事に継承者になれたようだけど、焦りは禁物。その師匠もきっとあなたを()()()()()わ、ずっとね」




《龍牙の事は私たちに任せて! 零! あなたはシュウの無事を祈りなさい。あなた達の師匠はやってはならない事をしたのよ。それを止められるのは、弟子であるあなただけ。零、しっかりなさい!》

飛鳥は零の頬を弾いた。

その頬の痛みは、今でも零の支えになっている。


翌日の早朝、零はアイスタウンへ向けて駆けていった。

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