静かな舞い
龍神は自然の神達に号令をかけていた。
神にしか聞こえない超音波のような声で、集合するように言った。
『今すぐ集まれ。大黒神を叩く、早く集まれ』
ライアンとの戦いを途中で切り上げ復活した大黒神マハーカーラを見ていた。
「上等だ……あっちが大黒神なら俺たちはルドラ神、暴風雨神になるぜ!」
既に神共闘に入っていた雷鬼とワストの中に、シーラが混ざり、「雷、風、水を操る神へと神化した」
だが、唐突に彼らは力が使えなくなり、三人は顔を見合わせたまま立ちふさがった。
「おい!どうなってる!何故使えない!」
「俺に聞くな!それより上を見ろよ。龍だ!」
水、風、雷の形を模した龍の姿がそこにあった。
その龍は宙を舞い、どこかへ消えていった。
「あの、僕たちはこれからどうすれば?」
「さぁな。力が使えない以上、回りの悪魔どもに食われておしまいかもな」
ワストが青ざめた顔をしている。
それは雷鬼もシーラも同じことだった。
それほどまでに人間は非力だ。
悪魔が呻きながら近付いてくる。
人の血を肉を骨を喰らいに襲いかかってきた!
ガルーダが吠える。
紫の炎を吐きながら辺りを業火に包む。
フレア、メディス、ヘラクレスが応戦するもガルーダには敵わなかった。
[目を覚ました]ガルーダは赤青緑の炎玉をバラバラに撒き散らし、紫の炎で上下左右、前後も含め全方向に吐き近付けさせないでいる。
「お前らはもう終わりだぁぁ!ガルゥゥゥダァァァ!」
その時、フレアの体が猛烈に赤く灯り、灼熱を纏いだした。
「フ、フレア!……この感じは!まさか。フェニックス!?」
フレアの体から現れた聖鳥は、辺りを真昼の明るさに変えた。
「ヘラクレスさん。こんなにも早くお会い出来て光栄です。」
「あ、何故?」
「龍神に呼ばれました。行かなくてはいけません。まぁその前に……」
フェニックスが話し終わると羽根をバッと広げ、その瞬間ガルーダの体を覆うように、巨大な丸い塊が包んだ。
橙色のその丸い塊は、疑似太陽。
一瞬でガルーダを包み、一瞬で炭も残らぬ程に消し去った。
ガルーダのうるさい遠吠えが一瞬にして消え、異様な静けさが彼らを襲った。
「ソナタらはよく戦いました。だからもうお帰りなさい。ここより東へ十里行った所へ船を呼んであります。それでまず一番近いビーストタウンへ行きなさい!さぁ早く。巻き込まれない内に」
それだけ言うと、フェニックスは翼を羽ばたかせて、遠くへ消えた。
渦をかくように両手両足に巻き付いた魔剣紅で、零は師匠ダークと戦っていた。
「どうした?そんな程度では私は越えられんぞ?」
「戦いの最中では喋ったらいけないんじゃなかったか!」
その時、突然零の動きが止まった。
身体全体から、蛍ように緑色に発光したと思えば、フッと光が消えた。
上には、緑色の龍が浮いていた。
それはナートゥーラ・シルウァを抜けて、自然神の社へ訪れた時、見た緑色の龍。
自然神そのものだった。
「これはこれは……いつかお目にかかりたいと思っていた……」
ダークが興奮気味に言った。
「自然神………どうしてここに?」
《若い少年よ。君が其ほどまでに力を欲する理由は何だ?》
自然神を見たときふと、零は自然神から訊かされた言葉を思い出した。
「思い出したか?零よ。あえてもう一度訊こう……」
[お前が其までして力を欲する理由を教えておくれ]
《 私の師匠が今、間違った方向へ進もうとしている。師匠には返しきれない程の感謝がある。だから、力が欲しい。ここに来るのが遅すぎるぐらい、後悔している自分の力のなさに憤りを感じるが、ここで退けば私は何しに生きるかを見失ってしまう。今こそ、貴方の力が欲しい》
かつて零が自然神に言った言葉を思い出した。
果たして今、それを果たせているのだろうか?
果たせて今、それを実現出来ているだろうか?
《ここで立たなきゃ、ダークさんを救えねぇ。ここで立たなきゃシュウが報われねぇ》
そう言った時、零は自らの寿命を削ってまで自然からを力を借りて、自然神の呪縛から解き放たれた。
(そうだ!ここで俺が負けたらダークに殺されたシュウが報われない。今までの想いをここで無下には出来ない!)
「俺は、あの時と変わらない。あなたの力を持ってしても、尊敬していた師匠を、救えなかった。兄弟子の死を無駄にしてしまった。俺は……弱い…。分かっている。そんな事は分かっている。だから!もう一度だけ!」
ダークの方に顔を向けた。
樹力を上げて、もう、自然神の継承者でないから、無限には自然の力を借りる事は出来なくなったが、それでも零は、師匠ダークを救うべく対峙した!
「ダークさん………あなたを救う!」
一瞬ダークは笑ったように見えた。
名前の割に似合わない白装束を纏って、黒い長髪の男の顔からは、彼が何を考えてるのかは読み取れなかったが。
「零よ。この勝負。早めに決着を着けるんだな。でないと神々の争いに巻き込まれれば継承者でない今、生きていれると思うなよ…」
そうして、自然神は遠くに飛んでいった。
龍が過ぎ去ったので、風が彼らの髪を乱した。
「零、本当に成長したな……さぁ、自然の神がああ言っているんだ。早く決着を着けようか?」
零はそれには答えず質問を送る。
「その前に訊きたい事がある。ダークさん。あなたは本当は何がしたかったんだ?」
嵐の前の静けさは過ぎ去り、既に嵐は来ていたが、その最中に師弟の最後の会話が始まる。




