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Zero  作者: 山名シン
第4章
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老英雄

ゲリラ第一婦人「波瑠雉閂(はるちさん)

波瑠雉(はるち)家の四女でゲリラとはお見合い結婚である。

波瑠雉家とは、代々宝石を扱う家柄で、それを商売にして成り上がってきた大富豪だ。

波に煽られて磨かれた瑠璃色の宝石を雉のように素早く見つける事から、波瑠雉(はるち)と呼ばれるようになった、元は名も無い小さな一族だったのだ。

許嫁になった、(さん)婦人の名の由来は、門をしっかりと鍵を閉める事から来ている。

つまり、家庭をしっかりと守れるように、と名付けられたのだそうだ。


ゲリラは波瑠雉閂(はるちさん)と結婚し、子供を授かると同時に夫婦仲が極端に悪くなり、わずか8ヶ月で離婚してしまう。

結局、娘の顔を見れぬまま離婚し、親権も閂婦人にとられてしまう。


それから20年かもっと経ったのだろうか?

既にゲリラは第二婦人を(めと)っており跡取り息子である、剣山カシラを出産していた。

そんな時、凶報が入る。

ゲリラと閂婦人との娘が強姦され、子を孕んでしまったという報せを聞いて驚愕する。

娘を襲った強姦魔は直ぐ様、ベスト一族の手によって捕まえられ、その場で処刑された。

その男の名は大玖清(だいくきよし)という、ちまたでは有名な強姦魔で剣山家の領地を中心に、犯罪を犯していた。

警察兼守護を任されている、ベスト一族は数ヵ月前よりかなりの範囲を包囲探索していたのだが、彼は一族独自の神を信仰しており、盗神(とうじん)という悪神の継承者であった。

盗神とは、名の通り「盗む」事が神格化された神であり、大玖一族でしか信仰されていない神様だった。

「盗む」のであればどんな行為をも厭わない彼ら大玖一族は、昔から犯罪者一族として忌み嫌われていたのだった。


愛の無い子供を授かってしまったゲリラの娘は、しかし、何かにとり憑かれたように毎日を過ごしていき、衰弱していったという。

当時のクールタウンは、まだまだヒールタウンとの交流は盛んに行われていなかったので、医学技術は、昔から行われていた荒療治だった。

神に祈ればきっと病は治る、そう信じられていた。

ゲリラの娘は、中絶という選択肢はなく、それは出来ないぐらいに、妊娠に気付いた時期が悪かった。


「産むしかなかった」


どれ程愛の無い子だとしても、この子は産むしかなかった。

育てていく自信はない。

だが、生まれてしまえば誰の子であろうと子供は子供、罪はないのだから。


産み月となった初冬の日、このままいけば母親の命は持たないと、そう言われていた。

子供は助かるが母親の命はほぼ確実に助からない。

しかも医療技術も乏しい剣山家では尚更その可能性は薄い。


23時間58分30秒。

陣痛が始まってから、破水が起こり、いよいよ子供が産まれる。

母親の体力は10時間を過ぎた辺りからほとんどなくなっていたが、そこからはもう気合だ。


天使の様な産声をあげて産まれた彼女とは裏腹に、回りの大人達は微笑みを浮かべず悪魔の様に息を引き取った母親を見て悲しみ、泣いた。

産声か、大人の鳴き声か、響く声はどちらも空しく家の中に響いてはきえていった。


《わしに引き取らせてはくれんか?》

《有り得ませんわね。貴方なんぞが子供をそれも女を育てられるはずが無いでしょう?》

ゲリラと元嫁波瑠雉閂婦人の言い争いは、結局波瑠雉閂(はるちさん)が勝ち、ナデシコと名付けられた愛無き子は、波瑠雉家で育てていくようになる。

波瑠雉家では親の代わりの使用人を仕えさせており、その者を夫婦と見せ掛けナデシコに気付かれぬように育てよと命じていたのだ。

ゲリラが初の孫娘ナデシコに会う事が出来たのは、乳離れが終わり、言葉も喋れるようになった3つの時だった。

その日より、月に一度、波瑠雉家と剣山家の老会議と共に、ナデシコについてを語り合っていたのだ。

そして、ナデシコが5つになったある夜、その老会議の内容を聴かれてしまい、ナデシコが家を出ていった。


《やはり貴方に会わせるべきじゃ無かった。余計な事を話す癖は治っていないようね。何十年も生きてきて、貴方は何を学んできたの!》

ゲリラは言葉に出来なかった。

元々仮の親を作るように命じたのもゲリラの提案だったからだ。

それを閂婦人が聞き入れ波瑠雉家の使いの者にそれを命じたのだからだ。


「間違っていた……わしが全て………間違っていたんじゃな……」


その日よりゲリラは隠居した。

出来るだけ何も話さないように黙ったまま。


「余計な事を話さない内に隠居した」


ナデシコを探すベスト一族に加え、波瑠雉家の探索も始まり、剣山家の者もナデシコを探す事に尽力を尽くすも意味をなさなかった。

ナデシコを匿っていたのは、当時世界最高峰の探検家集団「神官(サケル)(ドーサー)え」だった。

リーダーであるオーズ・ヒューズ夫婦によって、ヒールタウンにある医学大国、薬膳一族に預けていたからだ。

クールタウンをいくら探した所で、大陸(タウン)を越えてヒールタウンに移っているのだからナデシコが見つかる筈はなかったからだ。


七色の炎玉がゲリラの視界を殺す。

走馬灯が走り、初の孫娘であるナデシコの事を想った。

(わしは一世紀近く生きてきて、一体何をやれたんじゃろうなぁ?ナデシコよ、お前は幸せだったか?一瞬でもそんな時を過ごしたのか?もう一度笑った顔をわしに見せてくれんか?(さん)、悪かったないつもいつも迷惑かけて。お前の気持ちを一度も分かろうとせなんだ。娘を早く嫁がせておれば良かったかな。わしが一番に協力していたら少しでも安心したか?なぁ閂。ありがとう。閂、お前には迷惑をかけたと同時に感謝の言葉を言いたい。言っても言い切れない程の感謝を)


「わしもそっちへ行くよ。(さん)。ナデシコ、お前は生きるんじゃぞ。生きてお前を守ってくれる人を見つけるんじゃ。……………結局零(ぜろ)(つるぎ)には大した事は出来なんだな。すまんのぉ。………カシラ、マシラには会えたか?天国(そっち)の暮らしはどうだ?楽しいか?お前にはわしの跡を継いで欲しかったがもうええわい。説教はそっちでするさ。生まれてきてくれてありがとう。わしはどんな親じゃった?聞かせてくれよ………」


メディスの目の前で。

フレアの目の前で。

一人の老いた英雄が静かに目を閉じた。


ガルゥゥゥゥゥダァァァァァ!!!!!!!!


ガルーダの雄叫びが空しく響いていた。

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