ナデシコ
《お母さん!お父さん!どこなの!私はここにいるよ!》
母だと思っていた使用人の事を母と呼び、父だと思っていた使用人の事を父と呼んだ。
岩人形の破片が崩れ、ナデシコに向かって飛んでくる。
(…避けなきゃ…)
ギリギリでかわしているつもりだが、肩や腕をかすめてしまい、青いアザを作る。
樹力のコントロールもままならないほど弱っていた。
「グゴゴ……」
鈍い声で笑う。
ゴーレムの岩が無慈悲に襲う。
悪魔には手加減はないと言われ続けていたが、今のゴーレムは完全にナデシコに対し手加減し、遊んでいる。
《今日は私の誕生日なんだよ!お母さん!お父さん!どうして忘れてたの!》
5歳で出ていったナデシコにとって、誕生日など意味もないものだった。
母と父と思っていた人は、いつも忙しくしていた。
全くナデシコの相手をしてくれなかった。
四方八方を岩が囲む。
既に満身創痍のナデシコは、悟った。
その時突如地面に穴があく。
蟻地獄のように突然現れた穴はナデシコの足場をなくし、底無しへと突き落とす。
「窟贄……」
[ただの落とし穴]
しかしその穴は大陸をそのまま穴をあけたもので、閉まる時は大陸がそのまま迫ってくるのと同じだ。
血の気が一気に引いた。
ナデシコの体に たまっていた僅かな希望の火を消した。
《待って!待ってよ!お母さん!お父さん!置いてかないで!お願いだから連れてってよ!》
どこへ行くにも何をするにも許されては貰えず、ただ一人家にこもる毎日。
5歳まで一度も家の外を見たことがない。
穴に落ちていく途中、上からも岩が降ってきてナデシコの体を痛め付ける。
アザが多く腫れ上がり、顔は見るに耐えないほどの顔をしていた。
大地が迫ってくる。
すなわち大陸が迫ってくる。
『綺麗だろ?フフフ。どうしたんだい?悲しい顔をして。泣きたいなら泣けばいいんだよ。君は充分頑張った。よく耐えたね。偉い。偉い。』
小高い丘の上、一本の樹の側、幼い彼女の隣に座っていた目の見えない青年が一人。
青年は彼女の心の安らぎをくれた人物。
たった一度しか会わないのに、深く彼を想う。
(……私の人生って一体何だったんだろう?……)
ズゥゥゥン……………!!!
大地が静まり綺麗な平地へと変わる。
しかし、大地から沸き上がってきた大量の『血』が、彼女の人生を物語る。
その血の上に立つ岩人は、どんどん巨大になり、山をも越える巨体となる。
「……南"無"……」
超巨大岩石魔神ゴーレム対ナデシコ、ゴーレムの圧勝で終わる。
その時ーーーーー。
「キーン」
どこからか鈍い音が岩人の体を叩く。
音は振動になり振動は大地を砕き支配する。
「自然の最大音響」
不適な笑みを見せるその男は、巨大過ぎる岩を眺め笑う。
「フフフ………」




