世界の人々の動向
火は人類にとってなくてはならない存在。それを神格化させ、信仰する事で火を操る人々がいた。
ここは『ヒール大陸』
世界四大大陸の一つであり『世界最強』『世界一の先進国』『世界の頭脳』等の呼称がある。
ここではいくらか有名な一族が存在するが、その中で一番有名な一族がいた。
爆炎一族。
火の神<不死鳥>フェニックスを信仰しており最大にして、最強の火を操る事が出来る一族。
爆炎フレア、13歳。彼は『紅蓮の戦士』と呼ばれるこの世界では1番位の高い戦士の称号を持っている。
だが、所謂、思春期というやつでフレアは度々面倒事を起こしては父に怒られていた。
「あぁだりぃな親父。古いんだよ。何が紅蓮の戦士だって? そんなの知らねえよ!」
ぶつぶつ愚痴を言いながら『皆が集まる町』と呼ばれる、廃屋が建ち並ぶ古びた町へ来ていた。
そこへは孤児や、家無者が集まる無法地帯。
かつては隆盛を誇り輝きに満ちていたこの町も、その面影を一切残っていなかった。
形だけは立派な十字架のある協会の高窓から1人の少年が見えた。
何気なくフレアはその少年を見ていたが、突然フッと姿を消した。
「やばい!」
両手足に火を纏わせたフレアは、咄嗟に少年のもとまで飛んだ。
少年をとらえると、手の炎を消して間一髪で少年を救うことに成功した。そのまま上昇し、十字架の裏の屋上へ降り立った。
「何やってんだ! 危ないだろ!」
しかし少年は答えない。フレアは少年の胸の辺りに、名札がついているのを見つけた。
「プエルって言うのか?」
すると少年はこくんと頷いた。
ヒールタウンでは『火』は神である。神は絶対の存在であるから、それ以上の存在はいない。
高みを望む者はいるが、常に一番上には『火』がついてある。
だが、それは形式化したものであり、その中身は悲惨だった。
「僕は、古い人間。常に新しく進化し続けるこの世界に、出遅れた貧しい人間。皆から冷たい視線を浴びせられて酷い仕打ちの毎日さ。
もう嫌なんだよ。もう、ここには僕の居場所なんかないんだ!」
話しながら時折、遠い地面を見ては目を細めて口を結んでいた。
ヒールタウンは完全縦社会だ。
上位にいる者の言うことは必ず従わなければならない。この協会も、上位の協会に負けて形だけ残ったただの空き家に過ぎない。
神父など一人もいないこの協会に、恵みをわけてくれる事は決してなかった。
泥が染み付いたみすぼらしい服を着ていた少年の頭を、ポン、と撫でるとフレアは語った。
「俺はそんな事知らねぇ! 頭悪いからよく分かんねえ! でもな、今お前がしたがってた事は分かる」
そしてプエルの正面に向き合ってかがみ、しっかりと眼をみた。
「死にたいんだろ?」
小さく頷いた。
「そうか。でもな死ぬのはダメなんだ。
親には言ったのか? 兄弟には? 友達には? その辺歩いてるおっさんには? 誰でもいい。お前の考えを誰かに言った事があるか?」
プエルは首を横に振った。
「だったら死ぬな! なんも解決しねえけどよ、だからって死ぬのは違う。そんな事誰にも言えるはずないって思うだろ?
俺もそうだったからさ。親父に言われて、本気で憎んだけど、本気で尊敬してるんだ……」
しばらく沈黙の後、フレアは飛んだ。
「親父が言ってたけどよ、生きてりゃ一回ぐらい必ず良い事あるってさ。その為だけに、生き延びるのもアリなんじゃねえのか?」
* * *
ここには数多くの伝説が語りがれている。
鬼のすむ世界。人類の祖先。桃の一族。別名『鬼ヶ島』。
しかし今その名で呼ぶ者はいない。雷のジグザグの形をしているこの大陸は、世界四大大陸の一つ。
雷鳴の止まない恐怖の島『イナズマタウン』。
雷伝雷鬼と鬼伝龍鬼は義兄弟だ。
義兄である龍鬼はいつも、義弟の雷鬼と共に小さな紛争を止めるべく働いている、用心棒のようなものだ。
各地で紛争を終結させている実力者であり、一族の者達からは英雄扱いされていた。
「さぁ兄貴、またどっちが速いか競争だ! 見ろよ? いい感じに暴れてるだろう」
「…………。そうだな。よし、始めるか!」
崖の下に200人ほどの人たちが互いの剣をぶつけ合い争っている。今回も小競り合いの理由が「どちらが貿易を独占するか」だ。
ヒールタウンとウォールタウンを結ぶ中継貿易の利益を独占しようと諸一族間で争いの種を撒き散らしているのだ。
バチバチと光る雷鬼は、雷神の継承者であり雷を意のままに操る事が出来る。身体からあふれる雷が鳴り響くと、雷鬼は消えた。
雷鬼の額には、丸い骨のようなものが突き出ている。これは鬼の血が突然変異で現れたものだ。普通は物心つく前に切り落とされる。
常に豪快な雷鬼は一気に戦地へ赴くと、そのまま足を思いきり踏み込んだ。
すると、足元から光の筋ができ、その筋は戦地で戦う男衆の足元から離れない。
まるでアミダくじのようだ。
しかしアミダくじと違うのは全ての線が繋がっているという事。
拳を雷が纏い、降り落とすと足元の光の筋から上に雷が轟いたのだ。
これで130人は減っただろうか。
技の名は「アミダ雷」
雷鬼が自分でつけたのだが、いささかそのまま過ぎる気がすると、龍鬼が言っていた。
「ふぅ………あっちはどうかなぁ? 手伝ってやるか」
龍鬼も崖から飛び降り、戦地へかける。
ついた時にはかなり減っていたのだが、それでも彼の特殊能力である生命エネルギーを感知する能力で残りの者を数える。
龍鬼には、はっきりと鬼の角がある。彼の一族は鬼の血を濃くひいているので、幼い時に角を切り落としてもまたはえてしまうのだ。
だが、角をはやして得た力がある。鬼の身体だ。
病弱の妻に編んで貰った上衣を脱ぎ、上半身裸になると、力を込める。すると、腕がグツグツ煮えたぎり、赤く光り、盛り上がっていく。
常軌を逸した振る舞いで、両手の指を突きだした。
「指鬼」
伸びた指は相手を突き刺し風穴をあけた。即死だ。
「腕鬼」
次は腕が伸びると、鞭のようにしならせて10人を挟み殺した。
「剛鬼」
そして両拳を地面に叩きつけると、大地がブロック状に割れる。1つ1つの岩には高熱を帯びており、触れると大火傷を負う。残りの50人が即死だ。
雷鳴が轟き、ピカッと光ると、目の前には雷鬼がいた。
「出た、兄貴の無駄な攻撃。剛鬼で一発なのにさ」
「………そうだな。まだまだ修行が足りんようだ」
そう言い、2人は背中を引っ付け新たな紛争地へ駆けていった。
* * *
常に気温が安定している大陸として有名なここは、世界四大大陸の一つ。
歴史だけで言えばここはかなり浅く、文明もまだまだ遅れている。だが歴史的重要度で言えば、ウォールタウンに続き2番目に重要な歴史を築いている。
世界中にその名を轟かせている探検家集団<神官の考え>を始めに、王の力を持つと言われる紋章が保存されている<陸の塔>、ヒール大陸を結んでいる<寒熱橋>、等々他にも色々と重要度が高く価値のあるものが多い事で有名なのが『クールタウン』だ。
剣山剣、14歳。
瞳の色は兄と違い、黒ではなく茶に近い。
背丈も兄より高く武術の心得や文学でさえ、あらゆるものが兄より優れている。
故に彼は怒っていた。自分より劣る者が何故、剣山の当主を継げるのか? 1年、たった1年早く産まれただけで弟は剣山の当主の座から引き摺り落とされたからだ。
そして5年前、祖父ゲリラから授かった『太陽剣』を片手に家を出ていった。師匠ダークのおかげで武道には自信があり、それに元々剣道の修練はかかさずしていたので、剣術も得意である。
剣が今いるここは剣山家の西、黒の村よりも西に位置した剣山の者は余り訪れない所である。
『サンタウン』と呼ばれる、クールタウンでは珍しい石造りの歩道があり、建物も石で出来ている。
比較的平和な町で争いを好まない彼らは、連日祭りを催している。
今週は満月の1週間前祝い『ヘリオス祭』だ。
どこもかしこも、店を出し太鼓の音に合わせて踊ったり騒いだりとしている。
ヘリオス祭は、太陽神ヘリオスに捧げる祝い祭で月に一度催される。
満月の出る1週間前から始まる<前祝い>と、満月の夜の<本祝い>とで、毎月サンタウンではお祭りが繰り広げられるのだ。
5年前、剣がサンタウンへ訪れた際に出会ったのがデンとリンの兄妹である。
デンは剣と同い年で、妹のリンは5つ年が離れていて、とても可愛らしい見た目をしている。
彼らは幼い頃に両親をなくし何でも屋として出稼ぎしていたのだが、ある日リンが風邪を引き倒れた時、お金が足りずたらい回しに合っていた。その時出会った医者が、無償でリンの手当てをしてくれて一命をとりとめたのがきっかけで、その医者に今度は資金面でお世話になっている。
その医者は、遙々ヒールタウンから高度な医療技術をクールタウンの者に提供するべく来ていたのだ。
その成り行きでサンタウンに来た時に、兄妹と会ったのだ。
名前は薬膳メディス、2人からは<メディさん>と呼ばれており、剣もまたメディスにお世話になっている1人だ。
このヘリオス祭の本祝いの日、満月の日にメディスの36歳の誕生日を祝う為に、デンとリンは手紙や花冠を作っていた。
剣はどうもこういう事は苦手らしく、メディスには「おめでとう」の一言だけ伝えようと決めていた。
メディスは薬の調達に行くと言い誕生日の2日前には姿はなかった。
「楽しみだね! メディさん喜んでくれるかな?」
リンがワクワクしながら言うと、デンも大きく頷いた。
「うん! きっとね。僕らが一生懸命に作ったんだ! 喜んでくれなきゃ怒ろうぜ!」
そうして笑いながら作業に励む2人を、照れくさそうに見つめていた剣もまた蒸気した気分で舞い上がっていた。
だが、幸せな気分に浸っていた彼らを悲劇が襲った。
一気に地獄に叩き落としたのだった。
幻獣による猛攻により、サンタウンは崩壊した。
剣は兄妹を守りながら必死に戦った。
そして、1時間もしない内に幻獣が去っていった後に現れた、師匠ダークに剣は連れ去られのだ。
暗い闇の中で剣は安堵していた。
「デンとリンだけは………何とか守れたよ、父さん」
その闇の中で、剣はゆっくりと目を閉じた。
この事実をまだ、メディスは知らない。
剣は太陽剣を鞘から勢いよく引き抜くと、樹力を上げて飛んだ。幻獣は氷の羽根だろうか? 剣に向けて飛ばす。それを太陽剣で叩き斬ると、樹力をさらに上げて風を操り、まるで見えない足場に乗ったようにして、さらに飛んだ。その勢いのまま剣は、氷の化物を斬るのだがまるで手応えがない。
砕け散った氷の化物を見届けると、背中に熱気が襲う。剣は器用に体を回し、振り返ると紫色の炎がすぐ目の前まで迫っていたのだ。
「くっ! ………ふんっ!」
太陽剣を降り落とし炎を防ごうとした時、不思議な事が起きた。紫の炎が、太陽剣に纏いついていくではないか。
こんな力があったのか? と一瞬自問自答したが、すぐに切り替えて炎の鳥に向けて、太陽剣を斬りつけた。
しかし、これは上に飛ばれて避けられてしまう。そのまま剣は地面に落ちた。なんせ樹力で風を操り、空を飛んだままだったのだ。異常な程の体力を消耗し、剣は太陽剣を握りしめたまま空を見上げた。
いつの間にか再生し、また氷の羽根を飛ばしサンタウンを襲っている氷の化物。そして、紫の炎を撒き散らし、町を焦がしている炎の鳥。
薄れ行く意識の中で、剣が最後に目にしたのは、かつての師匠、ダークだった。
緑色の瞳から、元の茶色の瞳に戻ると、仰向けのままダークと話す。
「あなたが、主犯だったか。ダーク。俺を殺すのか?」
「……殺しはしないさ、剣。お前は優秀だったからな。空中戦という不利な状況で、あそこまで戦えるのはお前だけだろうな」
ダークは、剣の手から太陽剣を抜き取り、鞘におさめさせてあげた。何を思いながらこんな事をしたのかは、彼にしか分からない。だが、弟子の気持ちを汲んでやった行為に違いない。
「……ダークホール……。愛弟子よ、安らかに眠れ。そして、私を許せ……」
剣は影の中へ--闇の中へ--沈んでいった。
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11/29(日)修正の修正しました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。お疲れ様です。
毎度毎度長い文章ですいません(^_^;)
ところで龍鬼と雷鬼の事を用心棒って表したけど……あってるんかな?表現がイマイチしっくり来なかったので一番しっくり来たのが用心棒ってだけなんで、もし他にあったら教えてください。