開戦
迎えてくれたのは、1000を越える竜の大群。
1万を越える悪魔の猛者。
そして、真紅に染まった紅い中空。
億を越える「魔剣紅」の壁。
対するこちらの主戦力は雅王の戦士、ビーストの獣達5000。
雅王拳の使い手四人。内一人は樹力のみ。
圧倒的に違う戦力。
但し厄介な敵は竜と、紅を操る者、その兄弟、悪魔の三人の強敵のみに絞っても良い。
真っ白な竜、真っ紅な紅、真っ黒な悪魔の中から一本の戦慄が走る。
開戦の火蓋は意外な結果をもたらす。
(……紅は、相手の物を自分の者と想像するだけで奪える)
零は、それが何なのか初めから分かっていた。
だが確信はない、ただの直感だった。
敵が見えた瞬間、魔剣紅が迫ってくると零の直感が訴えていた。
おもむろに掌をつきだし迫る紅をーマーラの紅をー自分の物へと変えた‼
ただ、それだけでは所有権が渡っただけで能力そのものを使える訳ではない。
止めた紅の刃を反転させ柄の部分を握る寸前、目の前に敵の大将が現れた。
だがーーーーー
零はマーラの真後ろにいた。
マーラは自分が投げた紅と自分を入れ換えて目の前に現れたはず。
そうして一気に爆発の力を使い、零を殺す算段だった。
しかし、マーラの目の前に見えたのは、三本角で人の体を持ち下半身は馬だった雅王の戦士「ブラーク」だ。
そしてーーーー
背中に衝撃が走る。
今にも穴があきそうだ。
(ビースト)ブラークが足を高くあげ腹に目掛け強烈な蹴りをくれてやる。
ドンッ‼
背後に零を残したまま、地面へと吹き飛んでいく。
零はマーラの肩を掴み、ギリギリで体制を入れ換える。
マーラがうつむせの状態で地面に叩きつけられた。
上に乗る零はもう一度渾身の拳を叩く。
違うのは今度は、零の拳に魔剣紅が渦をかきながら腕に巻き付き「第二形態」で背中を叩き付けた‼
初撃と馬の蹴撃、二発目の拳、計三撃を速攻マーラ大将に入れてやった‼
一体何が起こったのだろうか。
答えは魔剣紅を操るさいに行われる「創造」の力が働いたおかげだ。
マーラは確かに、紅を投げて零の目の前の入れ替わった。
が、その紅は零の想像によって操られ刃と柄の部分が逆転していた。
その時点では零が「マーラの放った紅を操った」だけで、「まだその紅の所有権がマーラから零に移った」わけでは無かった。
操った紅の先にー反転した紅の刃の先にー「零の紅を一本くっつけた」のだ。
つまり、第一形態の紅の能力の応用だ。
魔剣紅は、その力は強大でさらに硬度はダイヤの硬度を保ちつつ剣としての殺傷能力がある。
そして、紅には形態があり第一形態から第四形態まであるのだ。
紅は一本一本が繋がろうと引っ付き合い、何本放っても最後には一本の紅に変わる。
マーラが自信の放った紅と入れ替わったとき、まだ後ろに零が放った紅が存在していた。
そして零はマーラの後ろにある自分の紅と入れ替わり、背後につくことに成功したのだ。
煙が二人を包んでいる。
すると突如煙を突き抜け一人が飛んでいった。
「ウォォォォラァァァァァ!!!!!!」
咆哮と共に零は空を舞い吹き飛ばされた。
脇腹に鈍器で殴られたようにえぐられたような痛みが走る。
キッと相手を睨む。
その先に見えたのは、鮫の目をした大男。
細かい鱗を持ち鋭い牙を見せながら、ニヤリと笑いこちらを見ている。
「ラージ……シャーク」
かつてシュウと共に、旅をしていた頃に出会った鮫の目をした大男の姿がそこにあった。
「久し振りだなぁ……クハハ。」
ラージは下に埋もれているマーラを見て一笑に伏した。
「なんだぁ。クソガキ。いつまでそうやってるつもりだ。」
背に乗った岩を払い、マーラが起き上がった。
横目でラージシャークを見て、血へどを吐いた。
「ゴフッ………」
(……シャーク一族……ち…)
タイミングが悪い。
そう思った。
が、今回の場合は助かったと言うべきだろうか。
少し疑問に思いながら、マーラは立ち上がり、零の方を見た。
「あれは任せろ…………さぁて。開戦と行こうかぁ?」
ラージが吠えた‼




