修行編・其の二
「雅王の戦士ー修行編ー」 其の二
第一段階の力を利用すれば、相手の紅を自分の紅に変える事も出来る。
但し、自分の物としてそれを手にとるだけではまだ、紅の所有権は相手側にある。
つまり、オリジナルが投げた紅が誰かに拾われ、その力が移ったとしても、その誰かが紅を使わない限り、ずっとオリジナルの物として効果が続く。
「この紅を投げるから、ゆっくり投げる、そしてお前は投げられた紅を手にし、わしの腕を掴む素振りを見せてくれ。いいな?」
言うなりゲリラは紅を掌に出して、零に投げた。
零はその紅を上手くキャッチし、紅を落とさぬようにゲリラの腕を掴む仕草をした。
零の手に渡った紅は、8秒経っても消えはしなかった。
だが、ゲリラが右腕を前にし零をしっかりとみると、零が持っていたはずの紅と、ゲリラが入れ替わったのだ。
そして、構えていた零の手の中にゲリラの右腕が挟まっていた。
ちょうど零がゲリラを捕らえたような絵になっている。
「ふぅ。どうじゃ、これも紅の力、いや、[創造]の力の一つじゃよ。」
何本もの紅を宙に浮かべて、まるで糸人形のように紅を操り、一本ずつ零に向けて飛ばしていく。
[想像]で相手の紅を自分の物に変える、と想像出来れば、後はそれを[創造]によって実現させればいい。
「よく見て見極めろ。紅を寸前で止めて我が物にするんじゃ。紅は相手の創造に強く反応する。イメージを膨らませろ!」
ゆっくり飛んできた紅を、零は掌を突き出して想像した。
(あの紅は俺の物だ!!)
その想像が形として現れた瞬間、ゲリラが飛ばした紅は零の掌の寸前で止まり、クルッと一回転すると柄の部分を零に向けて待っていた。
「よし!成功だ!だが侮るなよ。まだゆっくり飛ばしただけで、簡単だっただけだ。それをもっと速く、しかも正確に、そして、一本ではなく何本もの紅を一挙に操れるぐらいの、想像と創造をしてもらわんといかん。気を抜くなよ?どんどん行くぞ!」
樹力の受け流しの修行、魔剣紅の使い方、これらを半年間毎日交互に行った。
その中で、ビーストの住人、雅王の戦士達との触れ合いで[白い獣]との繋がりも持った。
ビーストと呼ばれる雅王の戦士は、我々が普段見ないような伝説上の生き物ばかりだ。
幻の獣、[幻獣]は、かつてクールタウンを襲った氷の鳥「アイスアウィス」や、炎の鳥「ガルーダ」とは同系統の全く異なるものだ。
同じ人種だが、一族で全く異なる価値観や生き方をしてきた人々と似ている。
ビーストタウンに住む獣達は、この世とあの世の狭間に位置すると言われ、死者をあの世へ導く役割を為している事から、彼らの能力は「灰」を操る。
触れたモノを皆、灰に変えてまた新たな命へ宿らせる。
「ツナギ」の役目も担っている。
雅王の戦士に埋葬された者達の事を、「灰成者」と言い、灰成者になって初めて天国へいける。
たったの半年間で樹力と紅の使い方の修行を終えて、残りの一年と半年は雅王の戦士になる為の、ビースト選抜と、雅王拳を仕組むだけだった。
雅王の戦士になる為のビースト選抜は、主とする雅王の戦士、つまり己の相方となる獣を選ぶ選抜である。
ゲリラは鷹、メディスは犀、大和は合成獣である。
ただ、これらは主としての力であるから他にも獣の力を借りる事は出来る。
馬でも猪でも麒麟でも、何でも可能だ。
最も特別視されているのは猫だ。
雅王の戦士の長、ライアンがライオンである為、他の雅王の戦士達は猫科の獣を選ぶ事は出来ない。
そして、雅王の戦士の神と言われる、 「アヴァダラ」の名を持つ象。
アヴァダラだけは、力を借りることを禁じられている。
「お前は何を選ぶ?馬か?鳥か?はたまた猿か?」
ライアンは、口を開かずテレパシーのようなもので零に声をかけると、零はうなずき迷いもなく、馬、と答えた。
何故かと問うと、零は上を見上げ、太陽を見ながら言った。
「ブラーク……俺の師匠は[天馬]の名を持って生まれてきたんだ。だから、師匠の名を持って、俺は戦いを挑む。今ではもう、その名も醜く汚れているかもしれない。それでも、それでもなお、俺は師匠を信じたい。」
天馬ブラークが、数日後に舞い降りて来て、一緒に仲間である、ユニコーンや、ペガサスを率いて、零の前に立った。
ユニコーンは角をバチンと光らせて、全身を青白く輝かせている。
恐らく雷を操るのだろう。
ペガサスは自身の羽根を目一杯に拡げて、風を受けている。
その風は瞬く間に地面を灰に変えていき、ペガサスの足元は全て灰に変わってしまった。
天馬ブラークは、上半身は人間下半身は馬という奇妙な姿をしているが、他の二頭よりも図体が大きく威圧感が凄い。
頭に角が三本生え、背中と腰辺り、ちょうど人間と馬の中間辺りから、ペガサスとは違う、これもまた三本もの羽根を持っている。
「雅王の長、ライアン様から聞いた。貴様が我の主となる雅王の戦士か?」
清んだ声をしていた。
幾年月も天を仰ぎ、飛び交っているだけはあろう。
ブラークの声はどこか、懐かしさも感じる。
恐らくこれは、父カシラの声にそっくりなのだ。
どこかを見透していて、全てを分かったかのような、私には嘘はつけないぞ、と言われているようだ。
「あなたの力を借りたい。俺の雅王になってくれ!」
真っ白な体をした、雅王の三戦士達は、じっと零を見詰めて離さなかったが、やがて、ブラークが近づき手を差し伸ばした。
「我が主に相応しいかどうか、己の手を見れば分かる。出せ。」
言われた通りに手を出すと、その掴まれ、握手した。
かなり長い間握手していただろうか、ブラークは手を握ったまま動こうとしない。
思わず零は声をかけようとした瞬間に手を放された。
「まずは、お前の力量を試さして貰う。我ら三戦士を見事倒せたら、考えてやろう。」
その日から、ユニコーン、ペガサス、ブラークとの雅王の戦士になるための訓練が始まった。




