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Zero  作者: 山名シン
第3章
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[火の神]不死鳥フェニックス

解毒薬を作る為に、薬草を煎じて汁にし、三日前から横たわる少年に必死に看病を怠らない。


両性具有を持つその人は、本来ならば、神がそれにあたる。

神は、皆両性具有であるらしい。

自らの子を産みたいなら自らで生殖し、子を孕み産む。

男と女の機能を持った存在は遥か昔から、神を模していたたために、その姿は忌み嫌われていた。

実際に生殖機能がある者もいるにはいるが、両性具有の彼らは普通、子を産まないし産めない。

稀に子が出来たとしても、それは身体的に異常を持った姿で産まれてくる。


シーノビレスは、そんな両性具有の集まりだ。

彼らは今でさえ、その存在を否定され、どこに住んでいるかも確認されていないと言われているが、それは誤解だ。

ヘラクレスの様に、実在し世界中で隠れながらだが、必ずどこかで生きている。

シーノビレス(海の民)は昔から神や、神と人の間に出来た子の名前を文字って自身の名前にする事がよくある。

かつて、神話の中で生まれた、一人の英雄神[ヘラクレス]は自分の罪を償う為に課された、「12の試練」 を見事にこなしたが、その後無念にも死んでしまう。


その英雄の名前をとって、この世に生を受けたのが、ヘラクレスである。

ヘラクレスは、元々は「神官の考え(サケルドーサー)」の一員だった。

そこで得た知識をもとに、メドゥーサから受けた毒の解毒剤を作り、倒れるフレアの為に、付きっきりで看病していたのだ。

両性具有は、恋をしない。

故に愛も生まれない。

だが、恩義は必ず返す。

どちらかと言えば、恩義を受けているのはフレアの方だが、それでもなお、ヘラクレスがここまでフレアを観ているのは、そこには確かに愛にも似た「恩」があるからだ。

友情と言えば少し違う。

かといって愛や、恋の類いではない。

そうする事が、ヘラクレスの使命である様に、フレアという少年を救わなければならない、そんな気がしているのだ。


獅子しししんで、メドゥーサと戦って三日が経った朝、唐突にフレアの身体が赤く光だしたのだ。

光るだけならまだ百歩譲って分からなくもない、だが、その光は熱を帯びて、ヘラクレスの家を焼き尽くす勢いで燃える。

このままでは、家が燃え尽きてしまう。

ヘラクレスは、赤く光り輝くフレアを抱いて颯爽に外へ駆けていく。

ヘラクレスの腕は焼けただれて見るも無惨な姿をしている。

「はぁ、はぁ、フレア、どうしたの?」

焼けて痛い腕をよそにして、フレアの事を心配する。

そして、またも腕を犠牲にしてフレアの心臓に手をあて、心臓マッサージをしようと体を傾けた瞬間、フレアの赤い光りは目も開けられないぐらいに、辺りを照らした。

まだ朝が開けて間もないのに、昼のように眩しかった。


現れたのは、孔雀に似た、巨大な聖鳥。

不死の象徴でもある、「不死鳥 フェニックス」


「う………そ……」

ヘラクレスは、目の前に見える巨大な聖鳥を前に、驚嘆せざるをえない。

フレアを中心に、ヘラクレスを包むように、光が覆い、早朝のまだ暗さが目立つ時刻に、半径100m程だろうか、一体が昼に変わった。

夏至の中でも特に陽が出ている時刻と、相違ない明るさに、思わず目を閉じるしかない。

先に見た10mの巨体であるヘカトンケイルをも優に越える巨大な鳥。

不死鳥フェニックスは、丸虹を纏い、白と橙が混ざった輝きを放ちながら、ヘラクレスに話しかける。


「ソナタが、彼に息を吹き込んだ方ですね?」

一瞬言葉の意味が分からなかったが、すぐに、はい、とこたえて、それからフレアの容態を訊いた。

「次期に、戻ります。彼は、ソナタを好いておられるのだ。必ず戻るだろう。」

好いている、そう直に言われると、少し歯痒い感じがするのだが、安否は恐らく大丈夫だとは分かった。

ただ疑問なのは、何故フレアからフェニックスが現れたかということ。


フレアは確かに、火神の力を使い、火を操れる。

それで空も飛び、拳を燃やし敵を灰に変える事だって出来る。

しかし、継承者とは聞いていない。

実際に不死鳥に出逢った事があるとはどこかで聞き覚えがある。

それで、どうこうなるものでもないだろう。

「な、何故、フレアからあなたが?」

フェニックスは、間をおかずに言った。

いや、これから話すようだったが、質問が先に入ったのでそれに答える形になった。

「彼は、私に命を吹き込んでくれた大切な恩人です。4年前の今日。彼と出会い、彼に私が惹かれ、そして、私が死んだ日。私は、私の命を産む為に、また4年眠る予定でしたが、その間を彼の中で留まらせてくれました。」

つまり、次の不死鳥が誕生するまで、フレアの体の中で過ごしていたということ。


私は、フレアに命を授けると共に、火の力を目覚めさせました。

彼の中はとても暗くてジメジメと湿ったようでした。

まだほんの10歳の子供が、こんなに暗い心を持っているなんて、どれ程恐ろしい事でしょう。

この世界ヒールタウンは非情な所だと、改めて痛感しました。

幼く純真な心までも蝕む、まるで寄生虫のように、フレアの中は荒んでいました。

私などが、この子にどれ程の力になるのか想像も出来ませんが、少なくとも私と過ごした日々を忘れている今ならはっきりと分かります。

フレアはまた、恋をしました。

その相手が、ヘラクレス、あなたです。

荒んだ彼の心を洗い、純粋に彼を愛しているその姿勢が、私を呼び寄せたのです。

私も心から感謝します。

ありがとうございます。

また、もう一度、フレアの可愛い顔を見る事が出来て、幸せです。


「フレアが目覚めたら、私の事は伏せていて下さい。そして、彼は立派な火の神の継承者と呼ぶに相応しいことを告げて下さい。本当に心から感謝しています。」

フェニックスの胸の辺りから、赤い小さな光の玉が降りてきた。

「少ない限りの礼です。受け取って下さい。いつか、それがあなた達を救うでしょう。」

ヘラクレスは、その光玉をそっと両手で包み込み、胸の奥にしまった。

すると、ヘラクレスは自分の体に変化が起きている事に気付いた。

体全体が赤く光っている。

いや、これは自分の血液が見えるのだろう。

太陽に照らされ赤くなる掌のように、ヘラクレスの体が赤く真紅に輝いている。

「これは?」

「あなたも、火の力を使えるようになりました。いえ、正確には、火を受けても熱いと感じない[肌]を与えました。」

フェニックスがそう言うと、「それでは、また時を経ていつか会いましょう!」と言い、大袈裟に羽根を広げた後、小さくなり、フレアの胸の中に沈んでいった。

沈むと同時に、真昼のように眩しかった辺り一面は、元の早朝の明るさに戻っていった。

ヘラクレスは、急激に暗くなったので、少し目を細めた。


小鳥のさえずりが聞こえて、心地よい朝が、二人を迎えてくれていた。

不死鳥フェニックスは、ヒールタウンの最高峰「レッドストーン」という山に棲むと言われており、ここは世界ヒールタウン最強の火山地帯とも知られている。

そのレッドストーンがある、町「レッドタウン」に、四年前フレアと父バーンが訪れ、ある友人の誘いでレッドストーンを見に行く事を許された。

普段は、火口までは登れないのだが、この日は、クライムエンドファイトの英雄「インドラ」を祭る祭日という事で、世界ヒールタウン中の禁止区域や、秘密裏にされてきた事などが解禁され、それで特別に、火口まで登れた。

勿論危険な場所なので、近付く事は、出来ないのだがそれでも頂上付近に登り、眺める事が出来る。


ある日に、フレアはレッドストーンが、あの有名な12の聖地の一つだという事を知り、父親に内緒で一人で、レッドストーンへ訪れた。

火口付近まで到着し、じっとマグマを眺めていた。

そして、少し下へ降った所へ洞窟のような穴があいていたのを見た。

フレアはどうしてもそこへ入りたい思い、意を決して、いつ噴火するやも知れぬ火口の中へ入っていく。

グツグツと煮えたぎるマグマが真近くに見えて恐怖に震えるも、しかし、その穴の中に何かあると確信していたフレアは、壁づたいに徐々に火口へ入る。

恐怖でおののきながらも、およそ1時間程かけて約15m下にある洞窟へとフレアは足をかけた。

当時10歳だったフレアは喜びのあまり泣き出してしまう。

しばらく叫び、洞窟の中でしきりに腕を上げ、喜んだ。

緊張がほどけたのか、洞窟の壁にもたれるように、座り、そのまま眠ってしまった。


目が覚めると、そこに一人の少女が立っていた。

フレアと同じ10歳ぐらいだろうか、だが風貌は思ったより大人っぽい。

その少女は、毛布をフレアにかけて、眠っている少年を静かに見守っていたらしい。

「君はだあれ?どうしてここにいるの?」

フレアが目覚め、少女に驚きながらも、思った事を口にした。

「私はポエニクス。ここが私の家なの。ソ、君は?どうしてこんな所へ来たの?」

「僕は、フレア。爆炎一族の末っ子だよ。前にお父さんとここへ来た事があって、それから内緒でまた来て、洞窟があったから、行ってみたいって思ったから来ちゃった。」

「ふーん。でも危ないよ?一歩間違えれば死んじゃうとこだったんだよ?それにお父さん心配してるんじゃないの?」

「いいんだよ!お父さんなんか。紅蓮の戦士だかなんだか知らないけど、あんなの僕には関係ないしどうでもいいんだ。」

少し、顔を膨らませたフレアに、ポエニクスは微笑みを見せた。

「駄目だよ?お父さんの事そんな風に言っちゃ。」

「いいもん。あんなバカお父さん、お父さんだなんて思ってないもん。バカジジイだよ!バカジジイ!

それより、君は?君の事を教えてよ。ぽ、ぽ、……」

「ポエニクス!覚えてね!じゃあまず、何から話せばいいかなぁ…………………」

それから、二人は、時を忘れ、お互いの事を話した。

フレアにとっては、これが、所謂、初恋だろう。

その日より、毎日、毎日、危険を省みず、フレアはレッドストーンへ登り、洞窟へ入り、彼女ポエニクスと過ごした。


「どうして、ポエニクスはここから出ないの?」

フレアとポエニクスが出逢ってから、1週間経った頃に、ようやくの疑問を吐き出せた。

しかし、返ってきた答えはフレアの想像を上回っており戸惑いを隠せずに、それでも彼女の言葉を懸命に信じ続けた。

「私、火の神なの。不死鳥フェニックスって言われてる。ゴメンね今まで黙ってて、今の姿は仮の姿で、フレア君を騙すつもりは無かったんだけど、いつか話そうと思ってて、でも中々言えなくて、ずっと抱えてたんだけど……………………」

「いいよ別に。なんか色々言ってるけど………」


「神様なんでしょ!」


フレアは満面の笑みで、ポエニクスに笑って見せた。

その笑顔は、神でさえも目を細める程の、輝きを見せる素敵な笑顔だった。


ポエニクスと出逢って4週間は経った。

彼女が神様だと、いうこと。

レッドストーン山を守る為に、この洞窟から出られないということ。

何よりも、今は命が尽きようとしている。

そして、復活するためにどうしてもレッドストーンの噴火が必要だということをフレアにこの四週間は訴えた。

そのせいで多くの死者が出るのは仕方ない事だと、ポエニクスは涙を流して言った。

「いつも苦しいの。私が生きていられるのに、レッドストーンの噴火が必要で、これまでも何千何万もの死者を出してきた。そのせいで私はこの世界ヒールタウンでは存在価値の無い神として嫌われ続けていました。どうして死ねないんだろうと、何度も考えました。毎日毎日、私は死ぬ事ばかり考えてやっと辿り着いた場所が、この誰も近寄れない洞窟だったのです。」

ポエニクスの言葉を聞いて、フレアは一緒に泣いた。


生きるだけで迷惑。

不死という地獄。

死ねない恐怖。

かつて人間に火を与え、そのおかげで生き長らえる事が出来た。

不死鳥は人に生を与える代償に、自分の運命を定めてしまった。

その炎が燃え尽きることはない。

だが、寿命は来る。

寿命が来て不死鳥が死んでしまうと、人間は生きる事が出来なくなってしまうのだ。


不死鳥の運命を聞いたフレアの答えは意外なものだった。


「うーん。じゃあ僕と一緒に暮らそうよ!」

フレアは、何も考えずに言ったようで、本気でポエニクスと暮らせると思っていた。

ーだって神様なんでしょ!ー

フレアの言葉はいちいち胸に刺さる。

それと同時に、この能天気な子供をこれ以上厄介事に巻き込んではいけないと、ポエニクスは優しい笑顔を見せつけた。

(この子と暮らせればどんなに幸せだろうか。自分の苦しみなんてまるで初めから無かったように、フレアの世界観に溶け込まれていく。)

その時だった。

レッドストーンが未曾有の大噴火を起こしそのマグマが、フレア達がいる洞窟へ侵入してくる。

激しい地震に熱い洞窟内。

10歳のフレアにこの環境は元々相応しくない。

それでもなお、親の言いつけを破ってでも嫌われものの自分の為に毎日会いに来てくれたのだ。

[再び(ちょう)に戻る時、少女から火の神に変わる。そして、最も身近にいた者に命を捧げる。]

煙を吸いすぎて、何度命を落としたかけたか分からない。

何度、足を踏み外しマグマに落ちかけたか分からない。

暑さに耐えきれず、いくら水を飲んだか分からない。

それでも、フレアは毎日、命を賭けて、ポエニクスという少女の元へ駆けていた。

彼女の運命が変えられるとしたら、フレアはそれに最も適している。

ーだって神様なんでしょ!ー

「フレア、私は、あなたに救われたのかしら。いいえ、何も解決していない。でもここであなたと共にいなければ、私はもっと、不幸でしょうね。」


[再び鳥に戻る時、最も身近にいた者に命を捧げる。]


(あなたと、生きる事が出来れば、私の運命なんてたかが知れている。嫌われ者の私を見つけてくれてありがとう。私を好きでいてありがとう。)


ポエニクスは倒れたフレアを抱えて、流れてくるマグマを自身の力でどかせる。

その瞳は真紅に輝いている。

時おり見せる、宝石のような涙が頬を撫でる。

(泣かないで!フレア、もう少しだから。)

ポエニクスは噴火している火中へ真正面から飛び入る。


噴火の中に一際輝く、一羽の鳥の姿。

初めはマグマに溶け込み、黒く輝いていたが、次第に炎を制するように、神々しい光を放ちながら、その大きな羽根を広げて、舞い踊る。

レッドストーンの巨大噴火は、不死鳥のおかげで鎮まった。

人々に被害は全く起きず、しかし人々はその光景を見て感動し、しばらくその場に立ち尽くしていた。

まるで手のひらを返したように、その後、不死鳥の存在は認められ、正式な火の神として世界(ヒールタウン)中に崇められたと、云われている。

しかし、そんな事はもうどうでもいい。

ポエニクスの、いや、不死鳥フェニックスの運命は既にフレアと共にある。

それまでの運命は終わり、これからの運命が、今始まった。


フェニックスは、自分と出逢った一切合切をフレアの記憶から取り除いた。

しかし、フレアの心の奥底ではずっと彼女との思いでの日々が残っていた。


目を覚ますと、まるで長い夢でも見ていたかのように、妙な感覚が襲う。

そこは、いつもの爆炎一族。

フレアは、囲炉裏の側で深く眠っていたのだと、父バーンから聞かされた。

「あ、あの子は?」

七人いる兄弟達に茶化されながら、父バーンに聞いた。

「あの子?誰の事だ?」

バーンは呆れたように首をひねった。

「えっと………」

(名前が思い出せない。でも確かにあの子とずっといた気がするのに。何でだろう?)

「それより、フレア。今年はクライムエンドファイトの季節だ。お前もどうだ?」

「……僕はいいよ。今回も止めとく。」

「………そうか。」

フレアには、確かにポエニクスと過ごした記憶が残っているのだが、彼女の名前はいつまでも思い出す事が出来ず、時が流れるにつれて、彼女の存在も忘れてしまうのだった。

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