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Zero  作者: 山名シン
第3章
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剣龍合戦其の二

「ワスト!聞こえるか!わしじゃ!ウイングじゃ!」

ウイング村長の空しい叫びが、ワストを覆う大竜巻には届かなかった。

ウイングは、目も開けられぬ突風に、もはや戦争どころでは無い、この竜巻をどうやって止めればいいかを考えていた。

それだけが、剣山と龍牙、いや、クールタウンをも運命を救う為の、団結になる。

命を賭して、ワストを助けようとするベスト一族の光の力を持ってしても竜巻の中の小さな少年には届かなかった。

「ワスト、お前父さんの後を追い掛けるのがそんなに嫌だったんだな。お前の父ベストは、ワスト、お前を想って、七年間育ててきたんだぞ!」

ベスト一族のまた、他のベストが竜巻を前にして、語りかけている。

しかし、徐々に竜巻の勢力が増していく。

初めは、龍谷林の範囲と、これでもかなり大きいが、それでも今に比べれば小さい方だ。

それは、剣山家、龍牙家を繋ぐ範囲全てを飲み込み、その周辺をも飲み込み破壊する。


飛鳥(あすか)は既に、この竜巻に飲み込まれている。

走馬灯が飛鳥の脳裏に浮かぶ。

想いでの日々。

母、マリアの愛情。

父、マシラの誠意。

兄、大和と過ごした数々の冒険譚。

風の村でのシュウとの出会いから、幼馴染みで仲の良かった(つるぎ)の事、そして零との思い出。

母と父だけは残してくれた日記よりその知識を得たが、それでも思い出は深い。

自分を育ててくれた、祖父ウイング村長の存在は、飛鳥にとってかけがえのないものだ。

それらの記憶が、一瞬のはずの時間が、何時間、何日、何年にも感じた。

その光の中で、一際光る一筋の道が見えてくる。

その先にいた人物に、飛鳥は言葉をなくし、頬をつたる暖かい涙が落ちる。

目の前の人物が、その美しい姿の、誰もが羨むその美しい姿の飛鳥の自慢の母が、光の手を差し伸べる。

「飛鳥ね。大きくなったわ。さぁ、手をとって」

「………お母さん……」

その手を握ると、崖の上に立つ母マリアが、飛鳥をしっかりと抱き抱えている。

我に帰った飛鳥は、母が見つめる先の大竜巻を共に見詰めていた。

「お母さん‼あそこに、ワスト君が‼ワスト君がいて、それで‼あのね‼」

「えぇ。分かっているわ。貴女は、ここにいて。いいわね?」

「……うん」


………ゴメンね飛鳥。今まで一緒にいれなくて。

ずっと黙っててゴメンね。

辛い思いをしたでしょう。

女の子なのに、そんな傷負っちゃって、可哀想に。

会えて良かった。

お父さんにも合わせてあげたかったな。

マシラさん、こんなに可愛い娘に育ちましたよって。

…………………。


「でも、これが、最初で最後。こんな馬鹿なお母さんを許してね。飛鳥」

飛鳥は、泣きじゃくり何も言えなかった。

ただ頷き、涙を流すしか、なかった。

しかし、母の「最初で最後」という言葉がどうしても引っ掛かったが、それでも泣くしか出来なかった。


母が、足を運んだ先には、大竜巻の渦の中だった。

彼女は、全身から樹力をあげて、目の色を濃い緑色になり、回りの突風を取り込んだ。

不思議な事に、マリアの回りだけが音が消えた。

この突風に竜巻が渦巻く中で轟音が鳴るが、マリアの回りだけが、まるで時間が止まったかのような感覚だ。


台風(テュフォン)(オクルス)


マリアは、竜巻の中に潜っていった。

自分の命を賭けて。

マリアの全身から、緑色に輝く光は、まるで神が放つ頭光のように、彼女の回りだけが風が消えていた。


数分後、突風が止み、大竜巻が止まった。

天まで届く、風の柱は雲を払い、荒れ狂った大地に恵みの光を張り巡らした。

その光はクールタウンの人々を照らし、今まで戦っていた事実を忘れさせた。


ワストを抱き抱えたまま、離れなかったマリアは、いつまでも光を放ち続けていた。

[自然の力を借りすぎた者は、その代償として命をもって自然に返さなければならない]

死してなお、マリアの美しさは留まることを知らないでいた。


長かった、剣龍合戦は、一人の女性の命がけの行動により、ようやくその剣をおさめる事が出来た。


その女性の名前は、「剣山マリア」

しかし、彼女はある人々からは、こう呼ばれていた。

神官(ジャン)英雄(ダル)」と。


彼女らがいた場所は、一本の大木がそびえ立つ、小さな丘の上だった。

その丘は人々から、いつからかこう呼ばれるようになる。


(アイテール)きの(アモル)

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