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膨れ上がった怪物

『洗い物は私がしますね』

何か私に出来ることをしないといけない



「ダメよ。私がするから知恵ちゃんは先にお風呂に入っちゃって」

佐藤さんは当たり前のように言った


『ありがとう...ございます。 お母さん。ご飯美味しかったです。』

少女は申し訳なさそうに歩いていった



「千夏も思いきったことするわ」

笑い混じりに母は言った


「あっさり受け入れたお母さんもね」

リビングには皿の擦れる音が響く


「放っておけないじゃない 話を聞くだけであの時の千夏そっくりなんだから。」

私と同じ理由だった

そう 彼女は私にとても似ていて...私よりも苦しんでいた。



今から16年前

私が10才になったとき

お父さんは殺された。


私は犯人を憎んだ 何の恨みもなくただ好奇心で刺したらしい

犯人が今どうなったのかは知らないし興味もない

私には憎むべき相手がいた 恨むべき相手がいた

でも そのことが唯一の救いだった。


「まだ...千夏は苦しい?」

ためらうような口調で母が言った


苦しくない。といったら嘘になる

でも私はこの苦しみと共存している。この子も私自身だから


それに...


「お母さんのおかげで私はもう大丈夫だよ」

頼れる人がいてくれたから。




『広いお風呂だなぁ』

今まで一人でしか入れないようなお風呂に入っていた私には新鮮だった


浴槽は檜で出来ていた。

『初めて見た....檜風呂!』

すごいお家だなぁ...少し圧倒されていたが寒さが体を押した

『とりあえず入ろう...』


湯船に浸かると体から力が抜けていくようだった


「知恵ちゃん。着れそうな服を置いてるから着てね」

お母さんの声だ。


服の事を忘れていた。

何て気のきく人達なんだろう


『ありがとうございます』

よそよそしくしないでいいのよっ 私の子なんだから。

お母さんの声が聞こえた



お風呂を出て木の渡り廊下を歩くとギシギシ音がした。


リビングに戻るとお母さんと佐藤さんが何か神妙な面持ちをしていた

『お風呂あがりました 佐藤さん。お母さん。』

私が声をかけると二人は笑顔で振り返った


「佐藤さんって何かこう...寂しい...ような?」


『じゃあ....千夏....ちゃん?』


千夏は大きく目を見開いた

(私かなり若く見えるのかな!?これでも20代後半なんだけど...!!)


「うん。これからは千夏ちゃんで。ね。」

何だか彼女はとても嬉しそうだった


「そうだ。 知恵ちゃんの部屋はね」


『ごめんなさい 部屋まで用意してもらって...』


「遠慮しなくていいの! 家族なんだから!」


『はっ はいっ!』

どうしてだろう 千夏ちゃんはすごく嬉しそうだ


「それじゃ 案内するね。(知恵ちゃんは押しに弱いのか..)」」


彼女の後をついていくと畳の和室があった


『本当にすごいお家ですね...』


「あぁ お父さんが好きでね こういうの」

お父さん....そういえばまだ見ていなかった。


『お父さんはまだ帰ってこないんですか?』


「お父さんはね 結構前に亡くなったの。」

聞いてはいけないことを聞いてしまった

咄嗟にそう思った


「知恵ちゃんが気にしなくていいの。 もう思い出の一部になったから。」

彼女は私の気持ちをすぐに察した

賢治のような人だった


『あの....千夏...ちゃん?』


「なあに?」


『私...ここにいてもいいのかな?』


「当然よ。私達の家族なんだから。」




「知恵ちゃんは?」

リビングで母が明日の朝食の下ごしらえをしていた


「今日は寝かせた。」


「そう..... 千夏。」


「どうしたの?」


「あの子をよく見てあげて。理解してあげて。彼女は自分の一部を見せてくれたわ」


「自分の一部?」


「そう。 一部分。 彼女の心には怪物がいる。」

確かに違和感を感じることはあった

違和感...というよりぎこちなさだろうか

何かを押さえ付けているような...




私は真っ暗な部屋にいた

見たことのある光景だった

「私にはあなたの求めるものが分かるわ。」

あの時と同じ。頭に声が響く。

「助けたいんでしょう?この子を」

その言葉と同時に目の前に何かが現れた

何かは私に言った

「どうして?知恵ちゃん。僕だけ?どうして?」

私にはすぐに分かった

賢治だった。



急に叫び声が聞こえた

断末魔のような声だった


「知恵ちゃん!?お母さんはここにいて!私見てくる。」

部屋の扉を開けた


『ごめんね ごめんね ごめんね....』

ただ彼女は同じ言葉を繰り返して震えていた


「大丈夫。安心して。ごめんね 一人にして。」

彼女を抱きしめた。少しずつ震えは収まっていった


「今日から私がずっといるから。もう大丈夫。安心して眠ってね」

少しすると彼女はまた眠った。さらっとした黒髪が少し濡れていた



これこそが彼女の怪物だった


彼女は自分を抑える事が上手かった

喜びも悲しみも寂しさも絶望も希望でさえも

小さかったはずの彼女の欲望は押さえつけた何もかもを平らげ膨れ上がる

とどめはあの事故の絶望


私はとんでもない怪物を相手にした


怪物は狂ったように泣き叫んだ

否定しないでほしい

私もあなたの一部だと認めてほしい

認めてくれないのなら....

あなたを壊してしまうと。

今回はかなり長くなりました

すいません最初の投稿が自分の解釈からずれていたので変えてます

これからも変える事があると思いますがあくまで筋は決めています。

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