新しい家族
事故が起きてから10日後。
私は病院を退院して看護士の佐藤さんと一緒に夜道を歩いていた
久しぶりに外に出たせいなのか異様に寒く感じた
季節的には三寒四温....というのだろう
佐藤さんは実家に住んでいるらしい
ということは彼女の両親もいるのだろうか?
病院から20分ぐらい歩いただろうか
彼女は立ち止まって振り向いた。
「知恵ちゃん。ここが私の家だから遠慮なく入ってね」
2階建ての瓦屋根で立派な木造建築の家だった
玄関を開けると目の前には笑顔の女性が立っていた
『おじゃまします....』
私は初対面の人が苦手だった
「いらっしゃい
今日からここはあなたの家で
私をあなたのお母さんだと思ってね」
お母さん...?
私には初めての存在だった。
「ほら 知恵ちゃん。早く家に上がって暖かくしないと風邪引いちゃうよ!」
佐藤さんが棒立ちの私を押した
「ここがトイレでー ここがリビングでー ここが....」
家の中を佐藤さんが説明してくれた
それにしても本当に広い家だなぁ...
「千夏と知恵ちゃん ご飯だからリビングに来てね」
私達がリビングに行くとご飯が並んでいた
私の分のご飯も当然のように並べられていた
思えば私と賢治は温かい家庭のご飯というものを食べたことが無い
願っても届かない物だと思っていた
「遠慮せずに食べてね おかわりもいっぱいあるから」
どうしてこんなに優しくしてくれるのだろう?
分からないけれど....
『お母...さん....』
呟いた
なんだか体の奥がとても温かかった
「もっと味付けは濃い方が良かったかしら?」
『うんうん....そうじゃないの』
ぽたぽたとご飯に雫が垂れていた
『このご飯....しょっぱいね』