心の色
「後3日程で退院出来るよ」
佐藤は笑顔で私に言った
『そうですか』
私は喜べなかった
看護士として私はこの一週間ずっと少女を見てきた
彼女は綺麗な黒い瞳をしていた
とても可愛らしい少女という印象だった
でも綺麗な瞳はどこも見ていなかった
とにかく私は出来る限り少女と一緒に居た
何を話すでもなく、何かを一緒にするわけでもなく
ただ一緒に居た。
自分が情けなかった
私の学んできた物は何だったのか
この少女の心を救うにはどうすればいいのか。
そんな時だった
『佐藤さん』
私を呼ぶ声が聞こえた
『たすけて..』
とても小さな声だったがはっきりと聞こえた。
私は彼女の手を優しく包んだ
何を悩むことがあったのか
私はこの子の止まり木。まだ飛び立たせるべきではない
希望が目覚めるまでは。
その日私は気になって少女の身内を調べていた
というのも中学生の姉弟が事故に遭ったのに誰も連絡してこないからだ
調べても調べても何も分からないし...
「よしっ...」
思いきって聞いてみることにした。
病室に入ると少女は弟の方をじっと見ていた。
「知恵ちゃん。ちょっといいかな?」
少女はこちらに気付いたようだ。
『何でしょうか...?』
少し落ち着いていた少女の様子にほっとした
「知恵ちゃんのお父さんとお母さんに連絡は取れるかな?」
お父さんとお母さん という単語を言った時。彼女は明らかに俯いた。
しまった....触れちゃいけなかったか....
『お母さんは賢治を生んですぐに...お父さんは私達二人を置いてどこかに...』
そう言うと彼女はまた俯いてしまった。
「それじゃあ...どこで暮らしていたの?」
『祖父母が私達を引き取ってくれたんです...でも....』
彼女は黙りこんだ
連絡してこない時点で...そういうことなのだろう。
私は自分の決意を彼女に言った。
『知恵ちゃん 私の家で暮らそう』
彼女は目を大きく見開いた
『.....』
彼女は戸惑っていた
「連絡は全て私がつけるし、ここからそう遠くないから見舞いにも来れるよ」
『...お世話になります』
少しだけ笑顔になった彼女の顔が見えた。
誰の視点か分かりづらいかもしれません
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