.きみはアイスをたべながらささやく
あずきアイスをくちにいれて、はじっこだけを歯でかみしめた。
そして悲鳴をあげることもなく、アイスのはじっこはぼくの口のなかへと入っていく。
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「あたし、ガリガリくんがほしいの」
ひとさしゆびを口にくわえて、ものほしげな表情をつくってきみは言った。
ぼくはあくまでクールな表情になることを心がけて、それに応じた。
「冷凍庫のなかにあるから、じぶんでとれ」
「あつくて、うごけないの」
おおげさに手で顔をあおいでみせて、苦しそうな顔をしてみせる。が、無視だ。
そんなぼくをにらんでから、きみは縁側に足をほうりだしてそのまま廊下にねそべった。
「そこ、きたない」
「いいもん」
「あっそ」
「うんそう」
「よごれるぞ」
「アイスもってきたらおきてあげる」
「やだよ」
「じゃあこのままよ」
狡猾、こんなことばが似合う笑みをうかべて、きみはぼくを挑発的にみつめた。
ぼくもまけじと睨み返して、また小豆アイスをかじりとると、しゃこっという音が軽快に部屋のなかに響く。
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「あずきアイスなんて、いらないわ」
「あげる、なんていってないけど」
ふたたびぼくたちはにらみ合った。
アイスがとけてしまうのではないか、というくらい暑いかんじがする。
なにもしていないのに、額から汗の玉がぽこりとうまれていくのだ。
そしてそれはぼくのほおを伝って、床にまでたどりついて太陽に蒸発していく。
「すき、だなんていってないわ」
「すきになれ、なんていってないけど」
「心のなかでいってるくせに」
その瞬間から、顔中があつくなっていく。それもこれもこの暑さのせいだ、と信じたい。
決して、こんなやつのせいではないのだ。冷静になれ。そう自分にいいきかせた。
「すなお、になればあ?」
右の口角をいやらしくあげて、きみはぼくを見る。
そのおおきな、たれ目気味のひとみの中にはいたずらっぽい光が宿っていた。
目を背けたら、こいつは絶対ぼくをわらうだろうな。
そう思って、ぼくはきみの口の前に小豆アイスをゆっくりと差し出した。
するときみは生意気ににっとわらって、ぼくをにらんだ。せみの音がやけにおおきく聞こえる。
次の瞬間、きみが大きく口を開けたと思ったら、小豆アイスのはじっこに襲いかかった。
かこっと歯とアイスがかさなった音がして、小豆アイスははじっこを奪われた。
「あずきはいやなんじゃないの?」
きみをばかにするような口調で言って、ぼくはきみをあざ嗤った。
しかしきみは怒ることなく、ゆっくりとアイスをかみながら眉をしかめた。
「これ、あまくないわ」
「あっそ」
「もっと、あまいのがほしい」
きみはそういって、寝そべったままぼくに細くて白い手をのばまっすぐにぼくへとのばした。
口元に美しい笑みをたたえて、ひとみはまっすぐにぼくを見据える。
「じゃ、あげるよ」
ぼくが膝を床につけると、お互いの視線が絡み合う。
きみのひとみはいやに挑発的で、獲物を狩ろうとする肉食動物のように、好戦的だった。
しかしあくまでのその瞳には、砂糖のような甘さが宿っている。
どちらからも視線をそらすことなく、ぼくたちはくちびるをゆっくりと重ね合わせた。
きみの細い腕がぼくの首に色っぽくからみついていく。
ふにょんとした、きみのくちびるは柔らかくて小豆アイスの味がした。
100%砂糖でできたアイスなんかよりもよっぽど濃厚で、甘かった。
「…あまい、だろ?」
くちびるを離したあとも、ぼくたちは視線をそらさずにその甘い余韻をかみしめる。
「微糖、100ぱーせんと」
きみが言ってお互いに顔を見合わせてどこがおかしいわけでもないのに、くっくと笑いあった。
「すきよ、ゆうくん」
ぼくが、真っ赤になって夏といっしょに溶けていく。