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RainFall  作者:
2/2

No.1 雨の国 レインフォール


“レイニー レイニー

 これは誰の涙?

 レイニー レイニー

 これはあなたの涙

 愛しくて 愛しくて

 心から溢れ出した あなたの涙

 レイニー どうかあなたの

 心が晴れんことを―…”



 特に隠す理由もないし、よくある始め方だけど、まずは自己紹介から。

 俺の名前はシェト。

 レインフォールのはずれにある孤児院に住んでるんだ。

 歳は15。少し癖のある黒い髪に、赤い目が特徴かな。

 物心ついたころから、この孤児院で育ってきた。

 今はその一角にある図書室で、窓際に座りながら外を眺めている。

 小さいころから毎日拝んできた雨空。

 この雨はただの雨じゃない。

 それを俺は、いや、この孤児院にいる子供は、身をもって知っている。

 この雨に当たったモノは――人間でも、動物でも、植物でも――普通じゃなくなる。

 孤児院の外の世界のことは、本で読んだことしかないからあまり詳しくは知らないけど、人間があの雨に当たるとどうなるか。

 あれに当たった人間は、妙な能力が目醒めるのだ。

 雨に当たることがないように、中心街は屋根で覆われ、外を歩くのも屋根の下を歩かなければならないらしい。

 しかし、いくら警戒しているとはいえ当たってしまう時は当たってしまうのだ。

 運悪くあの雨に当たってしまった人間―俺達のような人間は“レインチルドレン”と呼ばれ、その能力故に畏怖されたり、差別されたり、実験材料にされたりする。

 しかしこの孤児院は、レインチルドレンを保護してくれる珍しい施設で、ここにいれば実験に利用されたりすることはない。

 それに、ここにいるのはレインチルドレンばかりだし、大人も俺たちに理解がある人たちばかりだ。

 誰も俺たちを奇怪なものを見るような目で見ない。蔑んだりしない。

 俺たちにとっては、とても居心地のいい場所だ。

 俺は物心ついたときからここにいたから、レインチルドレンになる前の、ここじゃない何処かにいた時のことはまったく覚えてない。

 だから他の奴らのように、実際酷い目にあったりとかは、多分していないんだけど、それでも噂に聞くレインチルドレンの扱いというのは、聞いているだけで胸が痛くなるようなものばかりだった。

 ここに来たばかりのころは、虚ろな目をしていた子供たちも、今ではすっかり元気を取り戻している。

 ここは、俺たちにとって天国のようなところなのだ。

 そんなことを思いながら、見飽きた景色から目を逸らして近くの本棚へと手を伸ばす。

 本も読みつくしてしまったけど、外の景色を眺めるよりはマシだった。

 孤児院の外のことを知ることができるのは、嘘だろうが本当だろうが、この本の世界だけなんだから。



 表紙を開き、10ページほど読み進めたところで、隣に誰かが立つ気配を感じ、顔を上げる。

「なんだ、ディキャットか」

「・・・・・・・・・・・・」

 目深にかぶったオレンジ色のフードがトレードマークの、俺の友達。

 歳は確か13の少年。俺よりも大分背が低く、30センチほどの差がある。

 くすんだ金の短髪に少し隠れた金色の猫目が俺を見上げる。

 そして、無口なこいつは何も言わずに俺の隣に座った。

 抱えていた袋を破って、中からパンを取り出してむしゃむしゃと食べ始めた。

「ディキャット、それ・・・」

 ディキャットが食べているそれは、明らかに今日の夕飯で出されるはずのパンだった。

「まーた厨房からパクってきたのかよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 チラリと視線をこちらに向け、また無心にパンを食べ始めるディキャット。

「どうせ夕飯の時食うパンが減るだけだぞ。ちょっとくらい待てねぇのかよ」

「・・・・・・お腹すいたから」

「はぁ・・・」

 俺は今頃カンカンになって怒っているであろう料理長に同情しながら、ため息をつく。

 こいつの食材盗みはほぼ日常茶飯事なのだ。

 音も立てずに厨房に入り込み、手際よく食べ物を盗って隠れて食べる。

 抜き足差し足はお手の物、さらに気まぐれで自分の気の向くままに行動する彼は、まるで猫のようだった。

 ――いや、実際こいつは猫なのだ。

 雨の影響でディキャットに目醒めた能力は“猫化”。

 猫のようにしなやかな身のこなしと鮮やかな行動。

 気まぐれな性格もまさに猫そのもので、聴覚や嗅覚なども猫並みらしい。

 そしてオレンジ色のフードの下には、猫の耳が隠れている。

 しっぽだけはふかふかのズボンから外に出しているのだが、前に“なんで耳は隠してしっぽは出してるんだよ”と聞いたところ、

「しっぽ・・・窮屈・・・」

 という返答が返ってきた。

 耳も隠してたら窮屈だと思うんだけど、デイキャットの感覚ではそうでないらしい。

 うん、よくわからない。

 耳が隠れるという感覚についてつらつらと考えていると、服の裾が引っ張られる。

「なんだ?」

「シェト・・・食べる?」

 デイキャットが食べかけのパンを差し出してくる。

「・・・デイキャット、お前、パンに飽きただけだろ」

 金の猫眼がわずかに揺れる。

 図星か。

「いつも言ってるだろ、パンだけだと飽きるからおかずと一緒に食えって。つまり夕飯まで待てって」

「・・・・・・・・・」

 不服そうに俺を見つめるデイキャット。

 いや、そんな顔されてもなぁ・・・。

 しょうがないからパンを受け取って残りを平らげる。

 機嫌をよくしたのか、デイキャットは俺の足にすり寄ってきた。

 ゆらゆら揺れるしっぽを見ながら、あぁこれで俺も共犯か、としかられる覚悟を決めたのだった。


 デイキャットが床に丸まってうたたねをし出したので、俺は本の続きを読み進めていた。

 本の中の物語では、主人公が故郷を離れて旅を始めるところだった。

「・・・!」

 突然デイキャットが起き上がり、俺にぴったりとくっついてきた。

「シェト、隠して」

「・・・はぁ、了解」

 俺はため息をつくと、意識を集中させる。

 廊下からは荒々しい足音が聞こえてきた。

「デイキャット!ここにいるのか!」

 入ってきたのは予想通り、カンカンに怒った料理長だった。

 俺たちは入り口から入って真っ正面の本棚の前にいたが、料理長はしばらく図書室の中を見て回ったあと、俺たちに気づくことなく図書室から出ていく。

「その場しのぎだと思うんだけどなぁ」

 どうせごはんの時に怒られるだけだろ、と俺は集中を解く。

 料理長が俺たちに気づかなかったのは、俺が能力を使ったからだ。

 超能力サイキック―それが俺に目醒めた能力。

 超能力というと、瞬間移動したり心を読んだり、そういうことができそうなイメージがあるが、残念ながら俺にはそういったことはできない。

 せいぜい物を浮かせたり、狭い範囲でならバリアを張れたり、さっき料理長に使ったように自分とその周りのものを見えなくしたり、あと少し細々としたことができるくらいなのだ。

 しかも長時間は使えない。

 俺の神経が持たない・・・。

「? どうしたんだ、もう大丈夫だぞ?」

 料理当番が去ってからも俺から離れようとしないデイキャット。

「シェト」

「なんだ?」

「遊ぼ」

 気まぐれにもほどがあるだろう、と俺は心の中でぼやいた。



 デイキャットと遊んでやっていると、バタバタと走る音が近づいてきた。

 また料理長かなと思ったが、図書室に入ってきたのは、息を切らした赤毛の少女だった。

 赤い髪を黄色いリボンで1つに束ねている。サロペットを着ているが、上部分をなぜかいつも脱いでいて、上半身を覆っているのは黒のノースリーブだけだ。

 見てると若干寒い。

「あ、やっぱりここにいたのね!」

 つかつかと歩み寄ってくる少女の名前はミヤビ。

 同じくこの孤児院で暮らしている。

「そんなに急いで、どうしたんだよ」

「それがね、クルトが…」

 ミヤビは困ったように眉を下げる。

 ミヤビが言った“クルト”とは、俺の1歳上のレインチルドレンだ。

 俺やデイキャット、ミヤビにとって兄であり親友である存在。

「クルトがどうしたんだよ」

「あのね…クルト、この孤児院を出ていくみたい」

「!?」



 俺たちは今、この孤児院の院長の元へ向かっている。

 ミヤビ曰く、噂を耳にしただけだから詳しいことは院長に聞いた方がいいらしい。

 院長室の扉が見えると、俺、ミヤビ、デイキャットの順に部屋に飛び込んだ。

「アルボ! ちょっと聞きたいんだけど!」

 勢いよく突撃してきた俺たちに、この孤児院の院長であるアルボは目を丸くする。

 白髪交じりで、腰が少し曲がったおじさんだ。

「なんだ、いったいどうしたのだ?」

「アルボ、クルトがここを出ていくって…あれ?クルトじゃん」

 よく見ると、アルボに向かい合う形でクルトがソファに座っていた。

「やぁ、シェトにミヤビにデイキャット。ずいぶんと元気だね」

 くすくす笑って、クルトが手を振る。

 少し癖のある色素の薄い茶髪と、穏やかな笑顔が癒し系だ。

「クルト!ちょうどよかった…。なぁ、ここを出ていくって本当かよ…!」

「あぁ、もう聞いたのかい?」

「じゃあ本当に…」

「うん。今そのことで院長と話してたところなんだ」

 その言葉に、アルボを見ると大きく頷いた。

「クルトは明日、町外れにある小さな病院に引き取られることになった。病院ではクルトの“怪我や病気を治す力”は非常に重宝する」

「レインチルドレンに治されるってことに抵抗がある人は多いけど、僕が引き取られるところは極端に医者が足りないらしくて。なんていうか、猫の手も借りたいってやつなんじゃないかな?」

 “猫の手”という単語にデイキャットは自分の手を見つめ、頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 そういう意味じゃないよ、とクルトが微笑みながらデイキャットを撫でた。

「でも明日って・・・急すぎない・・・?」

 ミヤビが寂しそうにクルトを見つめる。

「うむ、それだけ状況が深刻だということだろう」

「僕の力で人の役に立てるなら急でも行くさ」

 レインチルドレンを畏怖する人々としては、クルトのような一見とても役に立つ能力を持つ子どもであっても、あまり引き取りたい対象ではない。

 その中で、こうして引き取るという選択肢が選ばれた意味を、クルトは理解しているんだろう

「そっか・・・。じゃあもう会えないのかな」

「そんなことないさ。遠いところへ行くわけでもないんだし、また会えるよ」

 昔から変わらない、見ている人が安心してしまうような笑顔を向けられると、ホントにそんな気がしてくるから不思議だ。

「でもしばらく会えなくなるから、今夜は俺たちで見送りパーティでもしようぜ!いいよなアルボ!」

 俺がアルボにせがむと、しょうがないな、と小さく笑って許可してくれた。

 その夜俺たち4人は、ほかのみんなが寝静まった後もずっと遊んでいた。



「じゃあ、行ってくるね。また会おう」

 そう言って雨の中、クルトは引き取られていった。

 昨日の騒ぎが嘘のように、俺たちの気持ちは沈んでいく。

 また会えると言っても、やっぱりずっと一緒だった人と別れるというのは寂しい。

 朝食に用意されたパンやおかずも、なんだか味気なく感じてしまう。

 それはミヤビも同じなのか、パンを口に運ぶ手がのろのろとしている。

 デイキャットだけはいつものようにパクパクと食べ進め、もう皿にほとんど残っていない状態だ。

「デイキャット・・・お前よく食えるなぁ・・・」

 おいしいか?と聞くと、一端食べる手を止めて俺の方を見る。

「おいしくない・・・。けど、クルトがちゃんと食べろって言った・・・」

 だから食べる、と言って再び食べ始める。

「そっか・・・」

 くしゃりと頭を撫でてやると、デイキャットは気持ちよさそうに目を細める。

 そうだよな、いつまでも沈んでちゃダメだよな。

「よし、食うぞ!」

 自分に活を入れて、俺はパンを頬張った。



『やぁ、君はなんて名前なの?』

 声変わりする前の、まだ幼さが残る声音が耳に届く。

 あぁ、これは夢か。

 まだ孤児院にいる子どもが少なくて、友達もいなかった頃の俺が、その声に答える。

『…シェトだよ』

『かっこいい名前だね。ぼくはクルトっていうんだ』

 今日からここで暮らすことになったんだ、よろしく。

 そう言って、幼いクルトが俺に手を差し出す。

『?』

 俺はその手の意味がわからなくて、クルトを見返したんだっけ。

『あれ? 知らないの? ともだちになるときにはあくしゅするんだよ』

 こうやって、とクルトが俺の手を取り自分の手と重ね合わせる。

『ともだち…』

『そう。これでもう、シェトとぼくはともだちだよ!』

 俺の、初めての友達。


 のろのろと瞼を上げる。

 クルトが孤児院を去ったその夜。

 相変わらず窓の外からは雨音が響いている。

 俺は顔を横へと逸らし、隣のベッドを見た。

 昨日まで、クルトが使っていたベッドは、今は綺麗に片付けられている。

 もぬけの殻になったそれを、見ていると胸が塞ぐようで。

「はじめての、ともだち…」

 俺はシーツを頭まで一気に被る。

 もう一度あのころの夢が見られたらなんて思いながら、再び眠りについた。



 クルトがいなくなって、数日後の夜。

 ベッドで寝息を立てていたところを、誰かに揺すり起こされた。

「んー…。なんだよ…」

 まだ朝じゃあないはず。

 目を擦りながら身を起こすと、デイキャットがベッドの傍らに立っていた。

「こんな夜中にどうしたんだ…?」

 ちなみにデイキャットとは相部屋だ。

 クルトがいた頃は3人部屋だったが、今は俺とデイキャットしかいない。

「起きて」

 デイキャットは俺の服を引っ張る。

「え、なんで…」

 戸惑う俺を、デイキャットはぐいと引っ張る。

「起きて。外行く」

 なかなか覚醒しない俺に、デイキャットは鋭い爪をチラつかせ始めた。

 うん、ひっかかれるのはごめんだな。

「わかったから、起きるから…。でもなんで外なんかに…」

 夜だろうが構わず雨は降っているのに。

 のそのそと俺がベットから降りたのを確認して、デイキャットは廊下に出ていく。

 ついてこいという意味だろう。

 みんなが寝ている時間なので、物音を立てないように廊下を進むと、デイキャットはある部屋の前で止まる。

「待ってて」

 デイキャットは小声でそう告げると、音もなく部屋に入っていく。

 この部屋は確かミヤビのいる部屋だ。

 一応女部屋なんだけど、デイキャットはそこらへんわかっているのだろうか

 まぁでも、デイキャットはなんか女子に優遇されて可愛がられてるから平気か…。

 多分俺が入ったら容赦なくミヤビが工具をぶん投げてくる。

 そんなことを考えているうちに、デイキャットがミヤビを連れて部屋から出てくる。

「あれ、シェトも…。いったいどうしたの?」

「わかんねぇ。デイキャットに起こされたんだよ。外に行くって」

「外…? デイキャット、何で外なんかに…」

 言っている間にデイキャットは玄関方面に向かって歩きだしていた。

 なんだか足取りが速い。

 俺たちは顔を見合わせると、静かにデイキャットの後を追った。


 玄関に着くと、デイキャットは靴を履かずに外へ出ようとしていた。

「こらこら」

 俺はデイキャットの首根っこをひっつかみ、座らせる。

 デイキャットは靴を履くのが嫌いなのだ。

 急いでいるのはわかったが、さすがに素足でぬかるんだ地面を歩くのはよくない。

 靴箱からデイキャットの靴を取り出し、それを履かせながら聞いてみた。

「なにをそんなに急いでるんだよ」

「…外から、声が聞こえた」

「声? 誰の?」

「…クルト」

「「!?」」

その名に俺とミヤビは目を丸くした。

「は?そんなわけないだろ…。だってこの間引き取られていったばっかりじゃ…」

「でも聞こえた」

 デイキャットの猫眼が鋭く光る。

 本気らしい。

 実際、猫化しているデイキャットは、常人よりも優れた聴覚を持っている。

 雨音に紛れた人の声くらい聞き分けられるのかもしれない。

 でも何でクルトがここに…?

「とりあえず、声が聞こえた方に案内してくれ」

 コクリと頷くと、デイキャットは雨の中に飛び出していく。

 外に出てしまえば雨音で足音もかき消されてしまうので、俺たちも気にすることなく走った。

 バシャバシャと水溜まりに足を突っ込みながら、デイキャットの後ろ姿を追う。

 しばらく走ると、孤児院の裏へ出た。

 そこにいたのは―…。


「ク…クルト!」

 クルトが身体中に傷を負って、固く目を閉じて倒れていた。

 デイキャットがクルトを仰向けにする。

 一応胸は上下しているので息はあるみたいだけど、かなり荒い。

 服は泥にまみれて、所々血が滲んでいた。

「嘘…なんでクルトがこんなことに…!?」

 ミヤビが信じられないと言いたげに、手で口を覆う。

 信じられないのは俺も同じだ。

「と、とりあえず孤児院の中に…」

 クルトを抱えようと伸ばした手が、ぎゅっと捕まれる。

「い、い…運ばな、くて…いい…」

 いつのまにか目を覚ましていたクルトが、俺の手を握ったんだ。

 その目は虚ろで、いつもの笑顔は欠片も見られない。

「クルト!しっかりしろよ!いったいなにが…」

「シェト…悪いけど、雨を払ってくれ、ないかな…。雨に当たるのは、嫌だ…」

 苦しそうに言葉を紡ぐクルトに、俺は小さく頷くと、意識を集中させる。

 パァッと、俺たちの頭上に雨を弾くバリアができた。

「ありがと…」

 クルトの表情が少しだけ和らぐ。

 お礼なんて言わなくても、こんなものならいくらでも張ってやるのに。

「クルト、なにがあったんだよ…。引き取られた先で、やられたのか?それに、怪我治せるはずじゃ…」

 ミヤビとデイキャットも同じく理解できずに眉根を寄せていた。

「怪我はね、もう…いいんだ。治しても、僕は…そんなに長くは持たない…」

 意味がわからなかった。

「治し、たとしても…またあんな目にあうのは、嫌、だし…」

 あんな目にあうなら、もうここで終わりたい。

 クルトは顔をくしゃくしゃにして呟いた。

 俺は、クルトのそんな顔は見たことなくて、見たくなくて、吐き出すように声を荒げた。

「なん、でだよ…!誰が、こんな…!」

「シェト、ミヤビ、デイキャット」

 落ち着いた声で名前を呼ばれて、クルトを見る。

 そこにはさっきの苦しそうな表情はなく、いつも俺たちに見せていたような、笑顔が浮かんでいた。

「僕が、逃げ帰ってきたことも…今から言う、ことも…誰にも、院長にも…内緒だよ…?」

 最期の力を振り絞るように一息つくと、一気に言葉を紡ぎだした。

「この国は、危ない。どこまでも狂っている。君たちだけでもいい、早くここから出て、遠い国へ、この国の目が届かない遠いところへ、逃げ、るんだ…!」

 言い終わると、クルトは激しく咳き込んだ。

 口の端から血が伝う。

「クルト、しっかりして…!」

 ミヤビがぽろぽろと涙を流して叫ぶ。

 デイキャットは唇を噛みしめて小さく震えていた。

「最期に、みんなに会えて…よかったよ…」

 気づいてくれてありがとうね、と。

 やるべきことはやった、と安堵するように小さく、本当に小さく息をつく。

 そして、虚ろな目で空を見上げて呟いた。

「1度いいから、4人で青い空…見てみたかったなぁ…」

 そしてクルトはそっと目を閉じた。


 その瞼が開かれることは、なかった。


この度は「RainFall」を読んでいただきありがとうございます。

やっと本編です。

作者の霄そらです。


第一話、どうでしたでしょうか?

初めての主人公目線での小説なので、かなり手間取っております。

シェトがこれからどんな冒険にでるのか、楽しみにしていただけたらと思います。


キャラの絵などはサイトにおいてありますので、気になる方はそちらも見ていただけたらと思います


それでは長々とあとがき失礼いたしました。

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