洞穴の先に
「よーし、全員揃ったな」
今回賢治の家の前に集まったのは、賢治含め8人だ。
慊人、武文、小西、瀬尾に、賢治が誘った尚希と大毅、小西が誘った原岡。
今回はその7人でどうやらその場所に行くらしい。
慊人は大毅と話したことも面識もないので、少し戸惑ったが、自己紹介をし合ってなんとか打ち解けた。
「面白い場所があるってホントか?賢治」尚希が聞いた。
「ああ、まぁ俺もまだ入ったこともないがな。多分面白いと俺は確信している」
「ほんとかよ」笑いながら尚希が言ったが、賢治は馬鹿にされたかの感じで、ムスっとした。
「面白くないって思ってんなら、無理やり来なくてもいいんだぞ」
「どうしても来てほしいって言ったのはお前だろ。だいたいお前はいつも・・・」
「まぁまぁ2人とも。行ってみないと分からないんだから、文句は言わない」
小西がそこに割り込むようにしていった。尚希と賢治はよく言い合いをするが、そこに仲が悪いかのような感じはない。むしろ喧嘩をしてこそ彼らは仲がいいんだと確信できるようだった。
「とにかく自転車は俺んちに置いといてもいいから、こっから歩きで行こう」
「えー歩きでか・・・めんどいな」武文が言った。
「でもあんなところに自転車置いとくと、すごく邪魔になるだろ」
「今日はすっごく暑いからなー」慊人は太陽を指差しながらつぶやいた。
「まぁとりあえず行くぞ」
賢治を先頭に、8人は賢治の言うその洞穴に向かった。
どうやら500mほどいったところにその場所があるらしいことを、尚希と大毅は知らなかったので、
「どこまで行くんだよ!近くにあるって言ったじゃん!」と文句も言っていたが、全員総スルーだった。
「よし。ついたぞ。この洞穴だ」賢治が立ち止まった。そしてその穴を指差し言った。
「この穴から入れと・・・」大毅がそう問う。
「ああそうだ」賢治がしれっと言い流す。
「ふざけんな!入れるかこんな穴!せめぇ!」
「大して狭くないだろ。頑張れよ」賢治をかばうように、武文が言った。
「っち。しょうがねぇなぁ・・・」大毅はとことん付き合うと賢治に言っていたようなので、いやいやでもついて行くしかなかったのである。
「じゃあ、誰が最初に入るか、ジャンケンで決めるか」慊人がそう提案すると、女子勢は少し悩み始めた。
「うーん。どうだろ」そういったのは小西だった。
「なにがだ?」慊人は自分の意見を否定されたみたいだったので、少しショックだった。
「普通こういうのって最初に入るの男子からじゃない?何女子も先に入る可能性があるみたいに言うのよ」
「あ、そっか」そう言って武文が続けた。
「まぁまぁまぁ。こういうのは‘普通‘レディーファーストと言いますけど、こういう場合は別だから、な。俺たちでまず決めようぜ」女子を皮肉ったように武文は言ったが、皆ほとんどその皮肉はスルーしていた。
「まぁそうだな。じゃあ俺と慊人と武文と尚希と大毅でジャンケンな」賢治はその時にはすでに手を挙げていた。
「ジャンケンホイ」
あっけらかんに5人はジャンケンして、結果的に一発で慊人が負けた。
「な・・・」さすがにビックリして、自分の拳を見つめた。グーだった。
「はは、最初にジャンケンの提案をするのは慊人、そして最初グーを出して負けるのも慊人だからな」
尚希がそう言うと、周りからハハハという笑いが広がる。
「まぁ慊人について何も知らない大毅もパーを出したんだから、まぬけな話だ」
そこで大毅もハハハと笑った。
「んじゃあ入るぞ」その穴に慊人は入ろうとした、いうほど狭くはなく、しゃがむ必要はあるがギリギリ人間が入るサイズだ。
「中は暗いなぁ。懐中電灯持ってきてよかったぜ」慊人はバッグから懐中電灯を出し、そして電気を付けた。
「助かるよ。慊人が懐中電灯を使ってくれるから、俺たちには必要ない」武文が言った。
「ずるいなぁ」慊人がそうこうしている間に、後ろの順番も決まったみたいだ。
女子の方は、瀬尾がジャージで来いと言われていたのに、普通の私服姿できたものだから、無理やり汚れてまで入れよと小西に言われていた。小西と原岡は高校のジャージ姿できた。
洞穴のなかは、まさに次元の狭間という感じだ。こんな場所があったのか。この街にこんな暗く狭い場所が、と、慊人は心の中で思っていた。実際、そう言った体験に乏しい慊人は、更に興奮して暗く見えないあたりを見回しながら、「みんないるか?」と少し大きめの声で訊いたりもした。まるで何かの隊長気分だった。高校生ながらこれはなかなか痛々しいとも思った。
違和感を感じるので、一度消してみると、少し先に光があるように見えた。そろそろ出れるのかと思うと、少し楽になりそうだった。
「見えたみたいだ。光だ」
「ということは、もう到着しそうってこと?」小西が慊人に聞いた。
「ああ。少しペースをあげたくなってきた」
「早く行ってくれ。腰が痛い」大毅がそう言って慊人を急かした。