序章
「この夏休み、俺たちで見知らぬ場所を探検してみないか?」
まず最初にそう言ったのは賢治だった。賢治は何かと変なことを提案し、慊人たちもそれに何かとついて行っている。しかし慊人達ももう高校1年生なので、流石にそれは幼稚ではないか?という意見も出た。
「は?見知らぬ場所?そんな遠いところまで行くっていうのかよ。素直に旅行行きたいって言えよ」
そう言ったのは武文だった。しかし賢治は首を振った。
「いやいや、旅行とかじゃなくってさ、誰も知らないような場所を俺たちで行くんだよ。楽しそうだろ?」
慊人は確かに興味があったが、第一そこまで遠いところには行きたくなかった。
夏休みはほとんどゆっくりして、たまに友人とだらだら遊びたい__そういった感じだった。
「まぁ、近場なら別にいいけど、県内ならなんとか付き合ってあげてもいいわよ」
そう言ったのは小西優麻だった。小西もこのグループの一員であり、女子のリーダー格とも言える。
「近場も近場。本当にこの近くに誰も見たこともないような場所があるんだって」
なんだか怪しいな・・・と、慊人は感じたが、何気に賢治の言うことには信憑性があった。
それは今まで賢治と絡んできたことによってよくわかっている。
「この街にあるのか?」慊人が聞いた。
「ああ、それも俺んちから500mぐらい離れたところに洞穴があるんだけどよぉ、そこにどうやらあるらしいんだ」
「あるって何が?」小西が質問した。そこで賢治の顔色が変わり、生き生きとしていた。
「お前ら全員が知らない場所だよ。な?な?面白そうだろ?」
賢治は1人1人に聞いたが、慊人含めほかの皆は、あまり賛成はしていなかったように思えた。
特に瀬尾奈々は、嫌そうな顔をしていたように思える。
「でも、洞穴って、汚れちゃいそうじゃない・・・。そんなとこに入るの、私嫌なんだけど・・・」
これまでの流れを完全に打ち切るように、瀬尾は言ったが、そこに小西が割り込んだ。
「そんなの気にしなくていいって。ジャージで来たらいいんだよジャージで。あたしは少し興味持ってきたかも」小西はなぜかいきなり興味を持ちだしたみたいだ。
男勝りの体力を持った小西は、やはりこういうのは好きなんだろう。
「んで、皆結局行くよな?小西と俺は確実に行くぜ」賢治が決め付けるように言った。
「まぁ、瀬尾が行くのなら俺は行くぜ。瀬尾は行くのか?」
武文が瀬尾を向いて聞いた。武文は何かと瀬尾を仲が良く、付き合っているかのような感じだ。
「優麻ちゃんが行くなら私も・・・」便乗するように瀬尾が言った。
「んで、慊人はどうすんだ、行くのか?」武文が聞いてきた。
「うん。皆が行くなら行くしかないわ」やはり慊人も便乗したような口調だ。
キーンコーンカーンコーン
どうやら下校会のチャイムがなったみたいだ。
「じゃあ、今日とりあえず放課後、俺んちの前集合な」賢治が集まっていた慊人の席を離れ、自分の席に帰っていった。
「わかった」皆がそう答えると、教師が教室に入ってきて、夏休みの生活などどうでもいいことを話す。
「とにかく大きなことがないようにな」
大きな事、と言われて慊人はゾクッとした。
そうだよ。もしかしたら賢治が言うその場所って、入ったら最後、抜け出せないだとか
危険な生物がいるだとかで、もしかしたらとんでもないことになるのかもしれないのだ。
だが慊人は、もう行くしかない、と思った。
昔慊人は、ノリが悪かったために1人、命が助かったという体験がある。
今年の5月のことだった。
慊人は一度、あるグループに入っていて、それがとんでもない不良グループだったのだ。
そしてある日、その不良グループの1人がこういったのがとある事件の始まりだった。
「なぁ皆、明日の日曜日、暇か?」
そう言ったのは、その不良グループの中の1人、進藤だった。
進藤は、これまでも何度か妙な事件を起こしてしまったこともあり、クラス1の不良とも言えた。
皆が一同に暇だと答えるが、慊人1人のみが、その日は用事がある、と言ったのだ。
しかし、そこまで責められることもなく、「ノリの悪い奴だな」と言われただけで、そのあとは淡々と話が進んだ。そして、その後進藤がこう言ったのだ。
「そんなら、ドライブに行かないか?俺の親父、新車買ったから最近乗り回してんだけど、日曜は夜から飲み会があるらしい。必然的に家に車が残るんだが、その車でドライブに行かないかっていう話だ」
「ドライブって、誰が運転すんだよ」1人が言った。
「そりゃあ、俺しかいねーだろ。お前らに俺んちの車運転させるかよ」笑いながら進藤が言った。
「でも、免許とかねーんだろ?そもそもお前車運転したことあんのか?」
「家の周りを何周かする練習ならしたことはある。大丈夫だ。事故ったことはない」
そこで皆がホっとしたようだ。大きな事故にはならないようだと安心したからだ。
そしてメンバーの1人が慊人を向いてこう言った。
「なぁ、お前は本当にいかないのか?」
さらに行くきをなくした。進藤が何をしでかすのかわかったものではないからだ。
「ああごめん。何度も言うけど俺、用事があるから___」
「ふーん」進藤が言った。
「まぁいいや。じゃあ明日俺んちの前集合な。綺麗で毎日洗ってる車見せてやるぜ」
慊人はその場を離れた。
その日曜日の午後6時頃。慊人がテレビを見てみると、速報でニュースが入った。
なんとも思わず見てみると、そこには見慣れた場所があった。
近くの山、その山から、高校生グループのみが乗った乗用車が落ちたというニュースだ。
慊人は冷や汗をかいた。それが進藤たちのグループだとわかるのは一瞬のことだ。
それと同時に、妙な安堵感に見舞われた。あの時行かないでよかった。心の底から安心した。
進藤含む4人が死亡、しかし1人は今も生きていた。だが、いつ目覚めるかわからない状況で____
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慊人は本当に行くべきなのかと思った。
自分だけいかずに、また行く時があれば、賢治達が1度行ったうえで言ってもいいんじゃないのか。
危険を犯すこともない・・・それがそんな洞穴ならなおさらだ。
でもその時慊人は、何かに導かれたように、行きたくないという衝動は完全に消え去った。
なぜか、好奇心で言ってみたいと思ったのだ。なぜだろう。
あの洞穴に、何かがある気がする・・・
何も知らない慊人たちは、自然と導かれるのだ。