七話 ガーランド
数時間前よりも、だいぶ人が増えてきた。
演説中のビゾオウルがいる場所から離れた向かい側のギャラリー。歩み寄ってくる男に気づき、シンシアは頭を下げた。
「ご無沙汰してます。ガーランドさん」
スーツのポケットから抜いた手を鉄柵にかけ、男は彫りが深い目を細めた。
ビゾオウルは釈明のため、自分が思いつく限りの詭弁で、視聴者に訴えかけている。
デルタから聞いた。と、ガーランドが口を開く。
「キミがオージンを始末するそうだな。まだここにいてもいいのか?」
シンシアは露骨に顔をしかめた。何故、よりにもよってこの男に、そんなことまで話すのか。
デルタを捜すようにギャラリーを見渡すが、彼はまだ戻ってきていないようだった。
「……はい。もうしばらく。ガーランドさんはどうしてここに」
「ただの見物だよ。私も明日には生きているかどうかも判らん身だ。冥土の土産に拝んでおこうと思ってな」
ギャラリーには、いまや闇玩具か銃火器を武装した者がほとんどで、その他は巻き込まれないようすでに避難しているか、これから始まることを心待ちにしている酔狂な連中いるだけだった。
「誰もがこの日を待ち望んでいた。あの娘にとって最高の舞台になるといいが」
感慨深そうに言って、ガーランドは煙草をくわえて火をつけた。
「よかったのですか」
「何がだ」
「オージンは最終計画に不可欠な人柱だと聞いていました。本当に我々の判断のみで討伐してもよろしいのかと」
「構わんさ。試してみればいい。どのみち徒労に終わるだけだ」
これまでよりも短い演説を終えたビゾオウルが、取り巻きに労られ、椅子に腰かけたまま医療器具だらけにされた。
息切れしながらも、懸命に酸素マスクを吸っている。
「もはやアレは不滅型の《闇傀儡》と遜色ない。側にムキシツも控えさせている。仮にキミたちが勝ったところで、スーパーダークネスは統治局が回収する。今となっては、オージンの代わりになる器などいくらでもあるからな。アレの役割は必要不可欠だが、あの個体自体はさほど重要でもない」
ビゾオウルが側の真ん丸ロボットにがなっているのが見える。サクラはそれに生返事で応えているのだろう。
「それより彼女だ。たしか一年ぶりだったかな、キミは」
「承諾はもらいました。オージンはスーパーダークネスもろとも葬りますので、そのつもりで」
訊ねたガーランドに応えることなく、それだけ言い残し、シンシアはその場を後にした。
「フン……。父親とは似ても似つかんな」
そう独りごちってガーランドは半端に残った煙草を踏み潰し、壁にもたれる。
ジェノサイドまで、残りわずか三時間。ドーム内は、緊迫した空気に包まれていた。