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英雄気取りのエコーちゃん!!  作者: 増岡時麿
第2部 リターンズ
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十四話 兼業

「お前はすごい」



「うッス! ありがとうございまッス!」



 キースはタバコを吸いながら堆く積まれた原稿の山を見上げ、ご満悦の表情で口から煙を噴かす。

 数日間、どこまでやれるかエコーの技量を測るため、延々と漫画を描かせ続けた。商品化に際して直す点はいくつかあるが、少なく見積もっても単行本三冊分はある。



「この短期間でここまでの量を描き上げる逸材はそうそういない。紛れもなく天才やな」



「いやいや、それほどじゃないッス。照れるッス」



「調子に乗んな。今時の漫画家は漫画を描くだけが仕事じゃあらへん。ここからが本番や。付いて来い」



「どこに行くんッスか?」



「アニメの制作会社や」



「えぇええぇ!? アニメを作ってる所ッスかぁ!? 緊張するッス……」



「ああ、気を引き締めぇ。大事な取引先や」



 エコーを連れ出して出版社から出ると、キースは若りし頃に思いを馳せる。

 世界がダークサイドによって支配された現在、国を奪われて放任されたワールドツリー外部の人間たちは、各地域で自治団体が取り仕切ることになった。

 統治局による公的な措置はほとんどなく、実際はそれぞれの職業もあくまで個人の自称である。

 発展の進む街並みを見渡し、目頭がつんと熱くなってキースが語り出した。



「ウチは元々小さな代理店やったんやが、自分でモノを作って売ることの方が手堅い商売だと気付いたんや。その頃からの付き合いがあってな。大昔は、出版社がそこいら中にビルをおっ建てて、アニメやドラマの企画なんざ寝てても向こうからぎょ~うさんやってくるモンやったそうや。……でも今は違う。俺らみたいなポッと出は、自分から売り込まなきゃならへん。要するに営業や。今から俺のことは社長と呼べ」



「了解ッス! キース社長!」



 エコーは元気よくキースの言い付けに従い、悦に浸って能書きを並べる彼の話を聞きながら、しばらくして二人は制作会社に辿り着いた。



「勘弁してくださいよ、キースさん」



 プロデューサーの男は、持ち込まれた企画書を飽き飽きといった様子でそっと戻した。

 キースは手もみをしながらニコニコしている。



「ただでさえ、ウチの放送枠はあんたのとこで埋まってるんですよ?」



「へへ、そこをなんとか頼んますぅー」



 テレビの放映権は先着順であり、決められた番組表は無い。地域ごとによっても放送される内容がかなり異なる。

 個人が持ち寄った記録媒体の映像、企業の宣伝など、常時垂れ流しにされているのが現状であった。

 ジェノサイドの時、ビゾオウルの演説が全世界で放送できたのは、サクラの能力によって成せた業である。

 しかし、セブンによりコンピュータネットワークだけは半世紀前から再構築され、二十一世紀初頭に匹敵する情報化社会となった。

 アニメの配信もネットに重きを置いている。



「確かに、キースさんのおかげもあってこの業界は盛り上がってきてるんだけどさー。いや、引き受けたいのは山々だよ? だけどこう毎回三つも四つも持って来られたら作業が追っつかなくて。タイトルは連発できても、スタッフは急に増えたりしないんだよね」



「そこは心配ありません。このアニメは、ここにいる原作者にほぼ全部作らせますんで」



 腰の低くなったキースは、横に居るエコーを指差して言った。何も聞かされていないのでギョッとするエコー。



「なに? 新人? そりゃ、やってもらえるなら任せたいけど……天久木先生みたいに上手くいくかなぁ」



「大丈夫です。コイツ、物覚えの速さと器用さだけが取り柄なもんで」



「天久木……え、もしかしてあの天久木先生ッスか!?」



「うん。キースさんとこの漫画家さんだよ。知らなかったの?」



「知ってるッス! ゲレンデにホッカイロスキー、折れた電信柱で懸垂、ブリークエッジ、どれも大好きだけど、なによりあのダイナミックブレイバーの作者さんじゃないッスかぁ! ……あ、あの出版社にいるとは知らなかったッス」



 感極まってハイテンションの煌めきを纏い、立ち上がるエコーの腕を掴んで座られせるキース。



「おい、座れ。失礼な奴やなぁ」



「ご、ごめんなさい。つい、興奮して……」



「あはは、いいよ別に。ダイナミックブレイバーなら、天久木さんが自分でアニメを作ったんだよ、ここで」



「ほああぁ~……看板を見て、もしやと……オレが漫画家を目指したきっかけの一つッスよ、天久木先生は」



「けっ! あんな奴に憧れるんやない。ウチに来てから鳴かず飛ばずや。人気作家だったくせにヒットの一つも出ぇへん」



「そんなことないッス! ダイナミックブレイバーは読む度に元気を貰えるオレの中では超名作ッス!」



「あ、そう」



 納得のいかない面持ちでキースはグイッと出された緑茶を飲み干す。



「それなら話は早い。その天久木先生と一緒に働けるんや。願ってもない事やろ?」



 いいから黙ってやれ、と言わんばかりの威圧的な目つきで脅迫するキースだが、エコーは彼の悪意など意にも介さず、快く「やります!」と漫画家と兼ねてアニメーターの仕事も引き受けた。




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