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英雄気取りのエコーちゃん!!  作者: 増岡時麿
第2部 リターンズ
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十三話 ネムレス

「みなさん、お集まり頂きありがとうございます。チンポしゃぶるわよ」



 ワールドツリー下の中央広場。デルタに代わり、参謀長となったシンシアはウェンボス、クローラ盗賊団、紅の百花繚乱を集結させた。

 結局、能力者機構から捜索隊を出すことは許可されず、やはりセブンの目を盗んで行動することにした。

 カガリが全員にリストを配る。



「ビクター本人と闇玩具の特徴です。非常に強力な能力ですが、閉じ込められた場合でも複数人居れば攻略が容易になります。他の二名とも手を組んでいる可能性がありますが、あなた方の力なら恐るるに足りません。各人、誰と当たっても対抗できるようにチームを編成し、手分けして捜索を。よろしくお願いします。チンポしゃぶるわよ」



 その言葉を皮切りに、全員街の周辺へ散らばった。これでなんとかなればいいけど、と指揮を執るシンシアは不安を抱えながらも、ワールドツリーの外でエコーに協力してくれた仲間達を頼もしそうに見送る。

 ビクターが統治局の刺客かどうかは判然としないが、フレンとシッピーのように、こちらの組織に引き入れればセブンが勝手に管理してくれる。

 上手くいけば戦力の増強も可能。俄然やる気となったシンシアは、さらに次の対策を講じるため、ワールドツリーの上層へ向かった。

 能力者機構の工房。ユキヒコから土産と共にエコーの言づてを受け、セブンは力なくへなへなと椅子から滑り落ちた。



「さすがはエコー殿。義理堅し!」



 ムドウが感心して熱く唸る。セブンは四つん這いのままクッキーを渡され、それを影で覆い、異空間へ転送した。



「とりあえずこれは一生保存しておくとして、……オワタ……なにもかも……」



 立て直して椅子に直るが、仰け反って口を開けたまま惚ける。E3計画は暗礁に乗り上げて沈没寸前であった。

 恐る恐るスヲルタが釘を刺す。



「か、会長……締め切りがそろそろ」



「腰痛が痛いから休む」



「そんなことでは他の者に示しが付きませぬぞ」



「うるさいわね。そういうアンタはどうなわけ?」



「フッフッフッ、ぬかりなし」



 ムドウの専門は哲学書の作成であり、当人も苦には感じていない。過去の偉人が伝えてきたことを自分なりの考えでまとめて論述することは、むしろ有意義であった。

 セブンは手渡されたコピーを一瞬で読み切り、ムドウに返した。



「ま、いいんじゃないの」



 あっさりと太鼓判を押され、一礼をして立ち去るムドウを恨めしそうに見るメンバー達。

 完全にふぬけている。今ならいけるかもしれないと、頃合いを見計らっていたユキヒコはすかさず携帯に書き溜めた小説を提出。



「何、このテキトーな糞文は? 具体的に言えば、幽助が雷禅に向かって霊丸撃った後の背景ぐらいテキトーよ」



 理解不能な苦言を呈した後で嘆息し、



「もういいわよ、これで」



 と、ついに合格が貰える。やっと解放されたと逃げるように背を向けたユキヒコの肩をセブンが掴む。



「待ちなさい。次があるでしょ」



「ま、まだやらせんのかよ!?」



「当然。こんなの基礎以前の問題よ。リーザを攫って空港から逃げ出した程度ね。なんなら、チュートリアルですら始まってないのよ、アンタは。解る?」



 セブンは六冊の小説と、高等部の学生が使う現代文のキーワード集をユキヒコに与える。



「……ええ。なにこれ」



「問題、創作において一番大切なモノは?」



「知るか」



「情熱よ。情熱無き作品に傑作無しってよく云うでしょ。そして二番目が技術、三番目が常識。というわけで、アンタはまずこの参考書一読して常識程度のボキャブラリーを身につけ、この小説数冊も何度も読んで、研究して、それからオリジナルの執筆に取り掛かりなさい」



「はぁ……また読むのかよ」



「アタシ、勉強できない奴嫌いなのよねぇ~。下積み無しで始めていいのは情熱有りきの天才だけだから、能無しは黙って研究しなさい」



 シンシアの忠告など無視して帰れば良かったと後悔し、今度はどうやって抜け出そうか愚策を絞り出す。キチガイのフリしたら追い出してもらえるかな?



「それと、必需品がもう一つ」



 ブゥンとユキヒコの携帯からバイブレーションが鳴る。

 セブンが勝手にダウンロードしたアプリが自動で起動し、黒い画面に白い文字で『NANE LESS』と表示された。



『ようこそ、ユキヒコ・ピンライタ様。査定を開始します……おめでとうございます。ランクDです』



「あ?」



「このセミヌードちゃんが開発した情報処理機構AI、通称『ネムレス』よ。……ていうか、ちょっと待ちなさい。認証ついでに容姿の判定もしたけど、ランクD!? 嘘でしょ、この顔面で!? D級妖怪の間違いじゃないの!?」



 ユキヒコの携帯を奪って、彼の顔と画面を交互に確認するセブン。



「うわぁ、釈然としねぇ……まあいいわ。これからは作品が出来上がったら、このネムレスにPDFファイルで読み込ませる。その後でアタシに提出しなさい。高いランクから順に、S、A、B、C、Dで評価してくれるわ。プラスとかマイナーのバラツキは無し。いつまでもランク圏外なら延々とやり直しよ。いいわね?」



 ユキヒコは能力者機構に入った最初の頃から、先日に至るまでセブンのことは何も知らなかった。どこかで知る機会はあったが、別段気に留めなかっただけかもしれない。

 サブカルにもゲームやCDの転売をしていたくらいで、大して興味が湧いたこともなかった。

 だが、このネムレスに関してはユキヒコでも知っている。

 PC所有者の利用者率はほぼ百パーセントは行くだろう。今やオフィスソフト以上に重宝される有名なフリーAI。

 昔の家でも使ってはいたが、せいぜいセキュリティソフトとして扱っていただけで、ましてや創作に用いたことなど一度も無い。

 そのネムレスの開発者がまさかコイツとは……と、ユキヒコは訝しげにセブンを見つめた。



「なによ、その顔は……ああ、このネムレスはアバター化が可能でアンタの好きなようにキャラメイクもできるから。名前や性別も変えていいわよ。そこは自由ね。各辞書にもなっているから存分に活用しなさい」




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