十一話 葬儀
オージンに殺された者たちは各親族たちの墓に埋葬され、遺体の発見や回収のできなかった能力者も含めた葬儀が行われた。
能力者機構の中央広場。メンバーたちが整列して黙祷を捧げる。セブンは跪き、一輪のぺんぺん草を慰霊碑の前に置いた。
「ホント、馬鹿よねあんたたち。みんなアタシよりいつも先に逝っちゃうんだから。満足な人生だった? 犬死にするだけムダだっつーのにさ。自己犠牲もそこまで行けば表彰モンよね。だけど、ブタが死ぬまで頑張ったところで英雄にはなれないから調子に乗らないでね。英雄という名のイコンになっていいのは、エコーちゃんだけだから。彼女こそ、真の愛国者……!」
精悍な顔で敬礼し、供えたはずのぺんぺん草を自ら拾い上げて懐に仕舞った。振り返って悲しみに暮れる部下たちに促す。
「はい、終了~。ほら、とっとと持ち場に戻る! 仕事は速さが大事よ!」
工房『ブタ箱』の会長用デスクに腰掛けて足を組み、ご満悦の表情でシンシアとユキヒコを褒め称えた。
「見直したわ、アンタら。新しい人材まで回収してくるとは、なかなか優秀なブタね。これでマザーベースも一段と賑わうわ」
フレンとシッピーは二人で一つの個室に放り込まれ、刺繍と編み物を担当することになった。
顔を見合わせて笑い合い、案外楽しそうにやっている。
「で、あんたの糞SSは?」
言われて携帯をセブンに渡すユキヒコ。なんなら、戻る気もなかったが、セブンは締め切り前のメンバーを絶対に逃がさないとシンシアから忠告され、しょうがなく急いで仕上げた。
タッチスクリーンをスクロールさせ、ざっと読み流すと、セブンは携帯を放り投げた。
「カッカ、ドゥディカー!!」
「ああああああああ!? 俺のケータイ! なにすんだコラ!」
「てんで話にならないわよ。あーあ、ま~た能無しのブタが一匹増えちゃった~」
ユキヒコは闇玩具で下に落ちた携帯を拾い、壊れていないか確認。
「……まあ、どうでもいいや。あとな、コイツのこれマジで鬱陶しいからそろそろ直してやれよ」
「嫌よ。見なさい、この顔。まったく反省してないわ。また何か余計なこと言い出そうとしてるでしょ?」
「会長、ビクターの情報を開示させてもよろしいでしょうか? 及び、捜査隊の派遣も。チンポしゃぶるわよ」
「ほらこのブタ、満更でもないのよ。まったく、度しがたいほどのド変態ねっ!」
「これまで消息が掴めませんでしたが、あの双子を捕らえる際に彼の能力だけ確認しました。私かユキヒコ、それかエコーを狙っている可能性が示唆されます。実際に攻撃を加えたところから、こちらに敵意があるのはまず間違いありません。早急に手を打つ必要があるかと。チンポしゃぶるわよ」
「興味な~い。ビクターって、誰だっけそれ? ま~たそうやって不祥事にかこつけて休もうとするぅ。好きにしたら? 大体、アタシにいちいち許可取ることじゃないわよ、それ。この前のことだって、一切関わる気なかったし。ぶちゃっけデルタなんか人の目を盗んで勝手な行動ばっかしてたしね。あんなオモチャ与えるべきじゃなかったわ」
セブンは能力で端末を用いずに自作OSを起動し、宙にウィンドウを浮かばせる。スケジュール表を吟味しながら顎をしゃくった。
「その代わり作業量は増やしてもらうわよ?」
「やむを得ません。チンポしゃぶるわよ」
「アンタはもっかいやり直し」
「はぁ?」
「はあ、じゃない。アタシとしたことが自由を与えたのが間違いだったわ。やっぱり、まともなの書けるまでここから出さないから」
「冗談じゃねぇ! なんのためにそこまでしなきゃいけねぇんだ!」
「え、何それ。ここでアタシの目的を発表するわけ? いかにもブタが考えるクソみたいな流れね。乗っちゃう? この最高につまらない展開を許して言っちゃう?」
「なんの話だよ! いいから帰らせろ!」
「しょうがないわねぇ~。そこまで聞きたいなら、教えてあげるわ」
椅子から立ち上がり、胸を張ってセブンは高らかに宣言する。
「このセミヌードちゃんが求めるのは、人類史上最高傑作を生み出す天才よ。三十年前、ワールドツリー能力者機構って改名した時から、この組織はアタシの私物なの。だから、アンタはアタシの命令を聞かなきゃいけないわけ。はい、説明終了」
「……ちょっと待て」
「あー、余計なこと聞かなくていいから。歳はどうとか、昔なにがあったとか、ダークサイドとの関係とか、アタシの口からそんな糞設定を語らせないで。解りやすく三行でまとめてあげたでしょ」
「わかった。なら、俺は天才じゃないから帰っていいな?」
「誰もアンタに期待してるなんて言ってないわよ。アンタはあくまでお膳立ての一部。主人公の力を際立たせるためには、他のブタ共が必死こいてる様を描かなきゃいけないでしょ? そう、全てはエコーちゃんのため!」
「なんで、そこでエコーが出てくるんだ」
「あたりまえよ。だって、エコーちゃんこそがアタシの求めていた存在だから!」
「あいつが? 傑作を生み出す天才?」
「そう、有象無象の能無しを圧倒する唯一無二ののマスターピースをね。漫画家志望だっけ? スーパーヒロイックが作るモノならなんでもいいけど、彼女みたいに元気いっぱいな子にはぴったりね。この話で褒められる点はそこだけよ。きっと、胸に秘めた情熱をそのまま絵で表してくれるに違いないわ……これがE3計画。エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ………って、それはゲームの見本市! エコーちゃん可愛い、エコーちゃん最高、エコーちゃん舐め回したいの略よ」
「あ、そういえば忘れてたな。あいつ今、編集者のとこにいるんだっけ?」
「大丈夫よ、代わりにベベルさんたちが見守ってくれてるから。チンポしゃぶるわよ」
シンシアはすでに措置を済ませてあった。エコーのことに関しては抜かりないな、と引き気味で、ユキヒコは迎えもついでにベベルに頼もうと電話帳を開いた。
目を丸くしてセブンは訊く。
「編集者……? え、なんの話?」
「ああ、お前にとってはいい話かもな。エコーが本気で漫画家目指すんだと。だから紹介して――」
「どこのレーベルよ!?」
「なんだっけ? バドル、ナスト……?」
「ぁあぁああ!? 馬鹿じゃないの!? ステマ工作自社買い他社攻撃、あらゆる汚い手段を講じて客を騙くらかすことしか考えてない超超超超ちょぉぉぉおおおおおおーーーーッ有名な悪徳出版社じゃない! 作家の扱いも最悪で有名よ! 今時この界隈ならアホでも避けて通るわ!」
「……し、知らねぇよ、そんなの。詳しくないし」
「ブリザガ!」
「はい、知ってました。チンポしゃぶるわよ」
「じゃあ、なんで止めなかったのよブタァッ!!」
「特に警告もされなかったので。チンポしゃぶるわよ」
「このブタ野郎ぉ……性も懲りずに……! いつか汚らしいオッサンをい~っぱい集めて腹ボコ輪姦レイプさせてやる!」
わなわなと全身を震わせ、がっとユキヒコに向き直った。
「このクソアマも大概だけど、諸悪の根源はアンタよね。このオトシマエどう付けてくれるわけ?」
「急にそんなこと言われても……知ったこっちゃねぇし、良かれと思ってやったんだし。どうしろっつーんだよ?」
「連れ戻しなさい!!」