十話 尋問
「ここ、座る」
出版社ビル内の奥の奥にある宣伝部へ案内されたエコーは、壁際一列に並ぶ机の一つに着いた。
他にも作業をしている人たちが居て、PCの画面を見ながら懸命にキーボードを叩いている。
キースは机の上に大量の単行本やライトノベル、数々の叢書などをドサッと乗せた。
「これ、今月ウチで出した書籍とグッズ。ほんで、いま開いてるページが大手通販サイト。ここにレビューをいくつか書いてもらう。予めアカウントも複数用意してあるから、別々に使うんやで? それが最初の仕事な」
「え、感想を書くだけでいいんスか?」
「そや。簡単なモンやろ」
「はい、すっごく楽しそうッス!」
さっそくエコーがコミック一冊を手にし、読み始めようとすると、キースがそれを制止した。
「あー、別に全部読まんでもええ。時間の無駄やからな。あらすじだけザーっと流し目に触れて、できるだけ多くの高評価を付ければええねん」
「……え。でも、作者さんに失礼じゃ……」
「んー? まあ、ほんまに最初やしな……キミは時間も余ってるし。じゃあええで、好きに読んでも。ええか、今回だけやからな? 慣れてきたら一時間以内で五、六件はやってもらうさかい。仕事で一番大事なのは速さや。さあ、お前らもジロジロ見てないで、はい、ちゃっちゃっ!」
歩きながら一人一人の作業を見張り、仮眠を取っているバイトの頭を叩いてキースは怒鳴り散らす。
全員おでこに冷却シートを貼っている。エコーは彼らを横目に、漫画をほんの数分で読み終えると、レビューの記入欄に感想を打っていく。
「とても、面白かった、です。ひ、び、き、と……」
琴線に触れたシーンや良かった点、著者への励ましなどを書いた後、律儀に自分のペンネームを付け加えた。これならやっていけそうだと、ふふっと嬉しそうに笑い、少しだけ元気になる。
その様子を窓から覗き見、ユキヒコは倉庫へと戻り、シンシアにエコーの無事を伝えた。
拘束した双子の能力者を、シンシアは怜悧な目で見据える。
「いい加減に吐きなさい。チンポしゃぶるわよ」
「さあ、なんのことかしら? ねぇ、シッピー」
「わたしにも解らないわ、フレン」
「とぼけても無駄よ。ビクターとの繋がりがあるのはもう解ったから、居場所を教えないさい。他にも所在を知っている能力者がいれば加えて告げるのね。チンポしゃぶるわよ」
「ああ、どうしましょう……。そんな事を言われても、私たちにおちんちんは付いていないわ。そうよね、シッピー」
「ええ、フレン。でも、きっと彼なら喜ぶかも」
「あら、ビクターはそんな人じゃなくてよ。……ぁ」
つい口を滑らせたシッピーの唇を塞ぐフレン。眉をつり上げ、シンシアが睨みを利かす。
「知ってるじゃないの。チンポしゃぶるわよ」
「ごめんなさい。少しお金に困ってて、あなたから奪おうと思ったの」
「そうなの。育ちの良さそうな風貌だったから」
「それがとんだじゃじゃ馬で失敗したわ」
「残念ね、フレン」
「ふざけている余裕があるのね。チンポしゃぶるわよ」
シンシアが彼女たちのイヤリングを外す。すると蒸気のようにオーラが溢れ出し、苦しそうにフレンとシッピーは崩れ落ちた。
「わたしの闇玩具と同じアクセサリー型。外せば自身で邪念のオーラを制御できない。苦しいでしょ? 同じ目に何度も遭ったからよく分かるわ。チンポしゃぶるわよ」
「寒い……寒いわ、シッピ―」
「わたしは暑いわぁ、フレン」
「ビクターについて話してくれたら返してあげます。チンポしゃぶるわよ」
「イヤ……死にたくないわ……」
「大丈夫、死んでもずっと一緒よ、フレン……」
「シッピ―……」
双子は哀愁を漂わせながら両手を握り合い、瞳を閉じた。
その所作を見ているだけで疲れたユキヒコが、もうやめてやれ、とシンシアに言った。諦念を余儀なくされ、眠る彼女たちに闇玩具を付け直す。




