三十話 VS オージン
「セイ子ちゃん」
見慣れたビゾオウル邸の前に、オージンが待ち構えていた。
スーパーダークネスのオーラで覆い尽くされた空から、木漏れ日のような光が漏れている。
「違ってたらごめんね。オレみんなから聞いたんだ。セイ子ちゃんがたくさんの人を……」
「エコー。お前は人を殺したいと思ったことはあるか」
唐突に質問を投げかけるオージン。思いがけない問いにエコーはすぐに応じられなかった。口ごもり、それでもオージンを見据える。
「それどころが他人を憎むことも妬むこともないだろう。普通の人間は、そういった感情があって然るべきなのだ。お前と我々では根本的に異なる。顕在化されたそのオーラがいい証拠だ。だからいつまで経っても相容れないのだ。そのことにお前も気付いているはずだが。ここに来るまで、今みたいにお前は、敵として対峙した連中に語り掛けてきたな。誰か一人とでも分かり合えることができたか」
これまでのことを振り返る。ワールドツリーを追い出された後、ジフやベベル、ウェンボスと出会い、一度は争ったが、今では彼らは仲間として自分に協力してくれている。
思い返してみれば彼らは元々人がよかった。悪事を働いているように見えたのは周囲の誤解や偏見に過ぎず、エコーは人知れず治安を守る彼らの行いに同調し、少しだけ手を貸しただけだ。
この事件で闘った不滅型闇傀儡や能力者機構の面々とは、分かり合えたのだろうか。ムドウとは共感できるところがあったが、結局は闘って打ち負かす他になかった。
「……できなかった」
「そうだろう。こんなことは無意味だと思わないか。結局のところ、ヒーローサイドとダークサイドが共存することなど不可能だ。この世界にはお前たちが積み上げてきたモノがある。お前にはそこで生きていく資格がある。ゴミ共にはワタシが相応しい地獄を用意してやった。それぞれ身に合った所へ棲み分ける必要があるとは思わないか」
「思わないよ。それが世界を救うことになるなんて思わない」
「だからその考えを拭えと言っているのだが」
「だって、セイ子ちゃん、約束してくれたよね!? 一緒に世界を救うため闘ってくれるって!」
「協力することには応じたな。ワタシ自身が世界を救うと断言した覚えはない」
「そんな……」
「フン。どうとでも言えるがな。実際にはな、ワタシはゴミを片付けて世界を立て直すことが目的ではない。ただ単にこの力を使って気に入らない連中を虐殺したいだけだ。そのためにお前の良心を踏みにじることも厭わない。どうだ、こんなワタシとでも分かり合えると思うのか」
ダークネスによって作られた闇傀儡にですら同情し、言葉を交わそうとするエコーに迷いはなかった。
「じゃあさ、オレがみんなを説得するよ」
頑として答える。
「セイ子ちゃんがもう悪い人たちを傷つけないでいいくらいに頑張るから。ビゾオウルさんや統治局の人たちともう一度向き合ってみる。ヒーローサイドがどんな人たちだったかはよく知らない。でも、オレが信じるヒーローは、悪い人たちがみんな死んでいいなんて、絶対にそんなこと言ったりしないよ! だから……」
「話にならんな」
エコーの言葉を遮り、禍々しいオーラを指で弾かせ、オージンは仮面を具現化した。
「お前がゴミ共を改心させたところで奴らの罪は消えないだろう。そうやってお前たちヒロイック能力者が甘やかして野放しにし、ゴミ共がつけ上がった結果がこの現状ではないのか。どう足掻いたところでワタシは奴らを一人残らず殺し尽くす。それを拒むのならまずはワタシを倒してみせろ」
「わかった。オレが勝ったらもうこんなことは止めてもらうよ」
「いいだろう」
仮面を被り、戦闘態勢に入った。エコーもベルトのバックルを叩き、スーパーヒロイックを発動。その瞬間、オージンはいっきに間合いを詰め、あざ笑ってクイクイと指でエコーを挑発した。
掴み掛かろうとしたエコーの後方に避け、狂ったように両腕を振り回す。
「クロクロクロクロクロクロクロククロクロクロクロクロォォォォオクッ!!」
荒れ狂う黒い閃光がエコーを襲い、容赦無く全身を貫いた。




