二十九話 VS シンシア
大階段は氷で覆い尽くされ、シンシアがなおも《純哀なる安っぽい原石》にオーラを送り続けている。
氷の巨人が、拳をエコーに向かって叩き付けた。紙一重で避けたエコーが、本体のシンシアに向かって飛ぶ。
身体の周囲に氷の膜を張ったシンシアは巨人を操作し、近づいたエコーを殴り飛ばして距離を離した。
両足を冷気で纏い、壁を滑り四方八方に移動を繰り返すシンシアに翻弄されながら、巨人の攻撃をかわし続けるエコー。
シンシアが大階段に降り立った。力尽きかけている痛々しいエコーを心配そうに見て、口を結ぶ。心を鬼にして再び攻撃を開始。
「ぅあああああああああああああ!!」
巨人がシンシアと共に咆哮を上げて強烈なパンチラッシュを繰り返す。大打撃を受けながら、それでもヒロイックを発動させないエコー。
オーラが暴走し、ただエコーを守りたいという気持ちと矛盾したこの状況に、シンシアは正気を失っていた。
粉塵が舞う中、エコーが姿を現し、シンシアに向かって走り出す。もう一度、闇玩具を構えたシンシアは涙を流しながら、ゆっくりと目をつむった。
氷の膜を破り、エコーはシンシアを抱きしめた。彼女の右手を上から握り、ヒロイックを発動させて指輪の闇玩具にそっと触れた。
強制的に能力が解除され、凍った空間と氷の巨人が破片となって撒き散り、雪のようになって宙を舞った。
「……ダメよ。エコー、もう行かないで……今度こそ本当に殺されちゃう……」
懐かしいこの温もりを失いたくないと願うシンシアの想いが最後に躊躇わせた。エコーが巻き込まれないようにと苦心しながら今まで行動してきたことが全て裏目に出て、結局彼女はいつもどこかへ誰かを救うために行ってしまう。
それがエコーの本意と知りながら、そのために自分の身を犠牲にしようとする彼女に対する恐怖心。利己的な自分とは本質的に違うのだと、認めざるを得ない。
それも今はどうでもよかった。ただ友達として、ずっと側に居てほしかった。
「ありがとう、シンシア」
耳元でそうお礼を言うと、崩れ落ちたシンシアを置いて、エコーは最上階への階段を駆け上がって行った。
振り返ることもせず、放心して、うなだれたままシンシアはエコーの名前を呟いた。




