過去編2ー④
最悪の気分だ。
昨日、能力を使いすぎたせいなのか、今朝から胸がムカムカしている。
教室で騒いでいるクラスメイトがうるさくて、今にも叫び出してしまいそうだ。
「大丈夫? シンシア」
心配そうにエコーが話し掛けて来てくれる。大丈夫よ、と暗い声で返事する。教室を見渡すが、今日もブーリの姿は見えない。
「ブーリは元気……?」
「うん。毎日食事持ってきてくれるし、ケガも大したことなかったみたい。シンシアがごめんって言ってたこともちゃんと伝えたから」
「……そう。よかったわ」
何故、ブーリのことを気に掛けたのだろう。学校に来る前はあのブタが、と憎悪を抱いていたのに。どうせ仕返しに来るだろうから、返り討ちにしてやろうと、少しそれを楽しみにしていた。
そんなことを考えていた自分にゾッとする。本当にどうしちゃったのかしら、わたし……。
苛立ちは収まり、それからは普段と変わらず授業を受けた。
下校した後、家に帰ると、兄がプレゼントを渡してきた。
この前のヤツ、父さんと被ったからさ。やっぱり悪いと思って別のも買ってきたんだ。綺麗に包装された箱を差し出される。ーーシンシアはそれを壁に向かって乱暴に投げ付けた。中身はガラス製のインテリアだったようで、箱の中から液体が染み出している。
「いいって言ったじゃない!! 余計なことしないで!!」
驚いた顔の兄を置いて、喚き散らしながらシンシアは自室へ行くと、机に向かって頭を掻きむしり始めた。
……なんであんなことをしたのよ、最低。きっとこれのせいだ。
雑にドレスグローブを外し、指輪の闇玩具を取ろうとする。手から離して床に転がる。すると、シンシアは全身から黒い湯気のようなモノが立ち昇っているのに気付き、次の瞬間にはまるで激しい炎のように溢れ出した。
悲鳴を上げてのたうち回る。胸の奥から得体の知れない何かが込み上げてくるようで、それが鋭い無数の針となって身体を突き破ってくるような感覚。すぐに兄が駆け付けた。
目を見るんだ。落ち着いて息を吸って吐いて。泣いても駄目だ。怖いよな、もう大丈夫だ。
夜になり、父がエコーを家に連れてきた。
「能力者機構の連中でも構わんが、この子といる方がお前にはいいだろう」
父はそう言って、部屋でエコーと二人きりにしてくれた。
ベッドに横たわるシンシアの手を、エコーは黙って長い時間握った。それからしばらくして話せるまで回復すると、少しだけ喋って、シンシアは安心したように笑い、そのまま深い眠りに落ちた。
自覚が足りなかった。これは紛れもなく、相当大きな力が自分の中にある。自力では制御しきれないほどの。それもドロドロとした人の嫌な心の力だ。
いまだに認めたくない。人の善悪が生まれながらにして決められているなど。人間はそこまで単純じゃない。自分がこの手でそれを証明しようとさえ思ったこともある。
けれど、こうなってしまった以上は認めざるを得ないのかもしれない。
エコーといると気分が良かったーー




