過去編2ー③
本部には初めてくるが、思っていたより古風な所だった。モダンな統治局と比べると殺風景に感じる。
受付を済ませて担当の人が来るまで待合室のベンチに座って待つ。自分だけしか客がいないのか。そう思っていると、女の子が入って来た。自分の前にある一列目のベンチに座る。
歳はそんなに違わないだろうが、説明会では見掛けなかった子なので、自分の先輩にあたる人かもしれない。
しばらくして担当者と思われるいかにも事務的な格好をした女性が茶封筒を抱えてやって来た。彼女はシンシアの名前を呼んだ後、前にいる少女に気付いて話掛けた。
「あら、サクラさん。これはこれは珍しい。もしかして仕事を手伝いに来てくれたのかしら?」
「違うー。暇になったからセブンに会いに来ただけだし」
「会長なら出張からまだお戻りになられていませんが」
「ああそう。じゃ、いいや」
残念そうでもなく言って、欠伸をすると、少女はそそくさと逃げるようにその場から立ち去った。
確か能力者機構では、十歳からさっそく仕事をすることになる。しかし、今の子はいかにもサボっているように見えた。もしかして、いい加減な組織なのか。シンシアは先行きが不安になった。担当者は少女を見送ると、シンシアを個室のブースまで案内した。
封筒から出した書類は、シンシアの個人データを印刷した紙とアンケート用紙だけで、肝心の闇玩具に関するモノはなかった。
能力の情報は極秘なので安易に持ち出せず、詳細を確認できるのは長官クラスの者からだそうだ。なので、シンシアの闇玩具、《純哀なる安っぽい原石》については口頭で説明してくれた。
オーラを冷気に変える。この手の能力は過去にもよく例はあったので、考察するのは簡単らしい。
自宅に帰り、シンシアはさっそく能力の使い方を研究した。
まず、これはどんな闇玩具でも能力者ならみんなやっている感情のコントロール。ダークネスは悪意から派生して、怒りや悲しみにも作用する。
シンシアはペットボトルに入った水を用意した。過冷却の練習だ。一定の温度を保ちつつ、絶妙なタイミングでズラさせなければならないので、かなり高度なテクニックが必要になる。
しかし、これが一番安全な特訓だとシンシアは判断した。ーーというか、せめてもう少し説明書を詳しく書きなさいよ!
そんな風にちょっとでも苛立つと、すぐに失敗する。キンキンに凍ったペットボトルを床に叩き付けた。
最近の自分はおかしい。明らかに情緒不安定で怒りっぽくなった気がする。
ダークネス能力者になったからか? もしそうなら能力なんていらないから普通の人間に戻りたいが、なろうと思ってなったモノではないから、そう簡単にもいかないだろう。
それに家族は名誉なことだと褒め称えるし、同級生からも尊敬の眼差しで見られる始末。よくわからない。みんなヒーローサイドのことを善く思っているのではないか。
それなら彼らを破滅まで追いやったダークネス能力者のことを非難するべきでは?
ふと、エコーの顔が頭に浮かんでシンシアは微笑した。




