過去編2ー②
「うわっ。あまい」
「ね。ホントに飴なのよ。一体どういうつもりなのかしら……」
次の日の学校。
飴だと言ったら、エコーが舐めたそうな顔をしていたので舐めさせてあげた。
常に身に付けるには、少し不恰好だったので、シンシアは服に合うドレスグローブを嵌めて闇玩具を隠した。
「ダークネス能力者になったからって、いい気にならないでよね」
そしてブーリが突っ掛かってくる。いつものことだ。シンシアは無視して話題を変えた。
「そういえば、聞いてくれる、エコー? お父さまとおにいさまったら、わたしの誕生日の時に同じモノをくれたの。その場で一緒に開けたから二人して焦っちゃって。どっちか変えてこようかって言ってくれたんだけど、わたしは……」
シカトされ、ブーリは矛先をエコーに変える。これも毎度のこと。
「ねぇ、エコー。恥ずかしくないの。そんな風に他人から貰った洋服着て通ってるのなんてあんただけよ。しかもそれわたしのヤツとデザイン似てない? ねぇ、なんでいっつもマネばっかりするの?」
エコーがびっくりした顔で自分を見ている。一体どんな表情をしているのだろうか。
視線を移し、睨み付けるようにブーリを下から上へ眺める。……いつ見ても醜い子だ。本人は気付いていないのだろうが、下の方から立ち込める生々しい臭いが不快でしょうがない。
「ーーっさいのよ、ブタ」
「は……? い、いいいま何て言った?」
思わず口に出た言葉にブーリが反応する。肩で息をして、真っ赤に染まった顔が今までにないような怒りを表していた。
それがなんだか面白くて、今度は大声でシンシアが怒鳴る。
「聞こえなった? ブタって言ったのよ、このブタぁあああッ!!」
唇を四角に裏返して、歯を剥き出したままブーリが突進する。ーー見えない壁のようなモノにぶつかって後ろに倒れた。
割れた壁が氷だとシンシアは気付いた。無意識の内に闇玩具を発動させたのだ。ブーリが腕を抱えて汚い声で泣いている。氷の破片に付着した血を見てシンシアは笑った。ざまあみろだ。普段の行いから彼女はこうなって当然の子なのだ。
「シンシアやめて!」
エコーに背中から抑えられ、シンシアはハッと我に帰る。
その後は担任に呼ばれ、他の教員にもこっぴどく怒られた。特に闇玩具を使って人に危害を加えたことが不味かったようで、ザガイン家の名誉もあり、このことは能力者機構や親には報告しないので、以後気を付けるようにと念を押され、これからシンシアには学校で厳重な監視を付けると無理矢理決められた。
指導室の外で向かえに来たエコーにも構わず、シンシアは腹立たしく早足で教室へと向かう。後ろからエコーも追いて行った。
「あいつみたいにいつも悪いことしてる奴より、わたしみたいに気持ちを抑えて我慢してる子の方が不穏分子になるそうよ。酷い話だと思わない!?」
「あ、えっと、とりあえず落ち着いて。シンシア……」
途端、スッと頭が冷えてまた我に帰る。
……何をそんなに苛立っているのだろうか。ブーリが因縁を吹っ掛けてくるのなんて今に始まったことじゃない。それに今回のことは、どう考えても自分の方に非がある。
「……ごめんなさい。あなたに当たるなんて、最低だわ」
「ううん。あたしは大丈夫だよ」
軽くなった胸に手を置いて深呼吸した。不思議とエコーと話していると落ち着く。
あの、それからね。エコーが頭を掻いて言いにくそうに口を開いた。
「ぶ、ブタって言うのはちょっと。ブーリちゃん確かに少し太ってるけど、気にしてるみたいだし」
闇玩具を撫で、そうね。今度会ったら謝っておくわ。と、シンシアは返した。
翌日、ブーリは学校に来なかった。また次の日は休日だったので、シンシアは能力者機構へ見学に行くことにした。
まだ組織の仕事を任される年齢ではないが、能力について困ったことがあればいつでも相談するようにとある。
本部は上層部のさらに上。そこへ繋がるワールドツリー中心のエレベーターに乗り、シンシアは向かった。




