過去編2ー①
「説明会?」
「そ」
まだ昼休みにもならない時間に、シンシアが帰り支度を始めていたのを不思議に思ってエコーが聞いた。
「なんの?」
「わたしね、ダークネス能力者になったの」
二年に上がったばかりの頃だ。なんの前触れもなくシンシアは能力者機構に呼び出された。
自分とは年の違う数十人の子どもたちも集められていたようで、そこで行われた儀式には、能力者機構の長官や統治局の者と思われる者も何人かいた。
ーーそれから不滅型《闇傀儡》のムキシツ。あまりにも恐ろしいその姿に子どもたちは皆、怯えていた。ワールドツリーに三体いると云われる不滅型《闇傀儡》はシンシアも初めて見掛ける。
儀式はすぐに終わった。ただムキシツが指を示した子どもだけが残され、彼女に触れられた後(年上が泣きわめいて嫌がる様は見苦しかった)、能力者機構にダークネス能力者として任命され、説明会の日時を伝えられただけだ。
説明会は始業式から三日後だが、夜中の午前二時からの予定なのだ。前日は早めに学校を抜けて備えなければならない。
そうしてダークネス能力者として収集された子どもたちは、講堂で説明会を受けた。
内容は口外無用で、初めにダークネス能力者は能力者機構に入らなければならない、能力を悪用してはいけない、それからもう聞き飽きたのだが、ヒーローサイドについての正しい理解。
これらの旨を話された後は、ダークネス能力者の歴史やその犯罪事例などを事細かに教えられた。その時点で寝ている子どもは少なくない。……せっかく学校を休んだのに。どうせ彼らは構わず遊んでいたに違いない。と、シンシアは思った。
以上が五時間ほど続いてようやくダークネス能力者の代名詞なるモノが渡される。
ーー闇玩具。
能力を使うための道具というよりは、能力を制限するためのモノだそうだ。
これを媒介にして発動できるのは、主に《闇傀儡》や暴走した他のダークネス能力者を捕らえるための能力。
下手にオリジナルの力を発現させる前にダークネス能力者を早期発見し、枷を付け、システムに組み込む。要はそういうことだ。
そんなこんなで晴れてダークネス能力者になったシンシアは、自宅に帰りもう一度、闇玩具の入っていた箱から説明書を抜き出して読み返した。
《純哀なる安っぽい原石》 A級闇玩具
周囲のあらゆるモノを凍らせる能力を持つ闇玩具。
P.S 宝石みたいなのは飴なので舐めても構いません(ちなみにリンゴ味)。無くならないけど、すっごく硬いから噛まないでね。血糖値には気を付けてね。
エンテルポルカの玩具店より
シンシアは思った。純哀とはなんぞや? と、
辞書にも載っていない言葉なので、おそらく当て字なのだろうか。それに安っぽいは一言余計じゃないのか。
まさか他の子の闇玩具もこんなふざけた名前ではあるまい。大層な説明会をした割りに辺鄙な代物を渡されたものだ。
それにずいぶんとざっくりとした説明書だ。色々と突っ込みたいところだが、それより気になるのは、ーーA級闇玩具だということだ。
聞いた話によるとB級以上は殺傷能力がある危険なモノで、しかもこれは指輪型のアクセサリータイプ。シンシアに潜在するオーラがよほど強力だったのか、常時外さず身に付けるようにと指示された。
不安になって兄に相談すると、「キミなら慎重に扱えると考えたんだろう。優秀だと認められた証だよ」と、半ば誤魔化されたように褒められた。
相変わらず意図が読めない人たちだ。意地汚いと思ったが、好奇心を抑えきれず、シンシアおもむろに闇玩具の宝石部分をチロっと舐めてみた。
「甘っ!?」




