十九話 無鉄砲でお人好し
「マズイんじゃねぇか、おい」
オージン側のモニターを見ながらサクラは逃走経路を探し、先回りでデルタを誘導する。
「逆だ、デルタ。こっちに行け」
サクラは言われた通りに話し合いを持ち掛けてはみたが、その言葉を切るように出るたび小型機が破壊された。分厚い隔壁が開き、いくつもの兵器が現れ機関銃をオージンに浴びせる。仮面を被ると銃弾を閃光で容易に撃ち落とし、宙に残った閃光の残像を足場にオージンは飛び回る。
デルタとシンシアの位置から十分に離れているのを確認して爆撃を開始。層の四分の一が損壊。爆煙の中から、黒い膜のバリアを纏ったオージンが飛び出し、巨大な槍形のオーラを練って放つと、戦闘機を貫いて全滅させた。
ふと隣のモニターで、エコーが何か言っているのに気付く。切っていた音声を付けた。
「あ? なに、ごめん。聞いてなかった」
「闘うのは止めよう。お互い傷付け合うなんて、何の意味もないよ」
「あー、はいはい。わかったわかった。ほんじゃ、もうこれで終いな。さいなら」
オージン側の兵器の操作に集中して、再び音声を切ろうとする。待って! ……なんなんだよ、もう。
「お願い、ビゾオウルさんに会わせて!」
「会ってどうすんだ。おめぇの話なんかどうせ聞く耳持たねぇぞ」
つーか、そういう問題じゃないだろ。エコーと話ながらサクラはオージンとの戦闘に四苦八苦する。もう勝てる見込みはないと解ったので、デルタを逃がすことのみに専念し、彼に近付かないようにオージンを足止めしようとするが上手くいかず、どんどんと距離を詰められていく。
「ビゾオウルさんは……ヒーローサイドが悪い人たちだと思ってるみたいだから、認めてもらうためにオレが頑張らないと。まずはその気持ちを伝えなきゃ。このままだと、また色んな人が犠牲になるかもしれない」
「あのさー……」
珍しく焦っているのも相まってサクラは苛立っていた。とりあえずコイツを黙らせよう、とエコーに反論する。
「分かり合えると考えてる時点でズレてるんだよ、お前は。そんなふうに無鉄砲でお人好しだから、ヒロイック能力者はみんないいようにやられちまったんじゃねぇのか? 手段を選ばない卑怯者の前では、ヒーローの正義なんてどこまでも脆いんだよ」
「それでも、オレはなりたいんだ。ヒーローサイドのことはまだよく知らないけど、漫画やアニメや特撮の、勇気一つでみんなを守れるようなあのヒーローたちみたいになりたい」
「あっそ」
がんばってねー。エコーが球体型ロボットの頭を開くと、搭乗席は無人で、「スカ」と書かれた一枚の紙が置いてあるだけだった。
エコーがロボットの中に触れると、ロボットも他の機械たちも同時に機能を停止した。ヒロイック能力者がダークネスを打ち消すって話は本当だったか。やっぱり生身で行かなくて良かった、とサクラは安堵して、上層にある自宅の一室でシャットアウトした画面から離れ、今度こそオージンだけに意識を集中させた。
残念だけど、あいつらが惚れ込んでるのはスーパーヒロイックって特性だけで、お前の甘い考え方や主張じゃないんだよ。自分以外は誰もいない個室でそう一人ごちった。




