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英雄気取りのエコーちゃん!!  作者: 増岡時麿
第1部 ライジング
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九話 開戦②

 真っ黒な物体が、五つのゲートから勢いよく溢れ出ている。

 ブニニニニニ!!ブニニニニニ!!

 通称、小鬼と呼ばれる。《闇傀儡(デモンズクラウン)》の下等種だ。小鬼たちは三人を視界に捉えると、そちらに向かって一斉に駆け出した。



 「プランDだな。急ぐぞ」



 ユキヒコが闇玩具を振り上げる。すると外に用意しておいた車が、引き寄せられるように障壁を越え、彼らの前方に降り立った。

 フィリップが運転席に。エコーとユキヒコが後部座席に飛び乗る。アクセル全開で走り出した。

 後方から小鬼の大群が土砂崩れのように迫ってくる。身を乗り出して構えるエコーを、ユキヒコが制止した。



「お前はまだ温存しとけ。フィリップ、速度落とすなよ」



 魔法のステッキこと、《取り柄がない超高性能(マスターオプション)》が黒みを帯びる。座席に足を乗せ、振り落とされないようにしっかりと掴まって、ユキヒコは自身の闇玩具を振るった。

 灰色の突風が駆け抜ける。小鬼たちの動きがピタリと止まった。まるでそこだけゆっくりな時間が流れる無重力空間が存在しているかのようで、小鬼が空中をスローモーションでもがいている。後から押し寄せる大群も、どんどんとそこへ突っ込み、山積みになった。

 エコーはフィリップから銃を受け取り、シリンダーを半回転させ、天に向けて引き金を引いた。

 打ち上げられた黄緑色の彩光弾が、開戦の狼煙となって、東側と西側で待機している者たちに告げる。



 「ユキヒコ、前よ! 前!」



 前方からも、小鬼が流れ込んできた。もう一度、ユキヒコが闇玩具で薙ぎ払い、動きを止める。

 車が能力の範囲へ入る前に、灰色の空間を凝縮させて小鬼をひと塊にし、一本釣りのように持ち上げて、後方に叩きつける。数体の小鬼たちが潰れて消滅し、空間が弾けた。



 強烈な爆発音が轟く。同時に障壁全体が一気に崩壊する。外に控えていた残りの救出部隊が乗り込んできたのだ。

 クローラ盗賊団勢と紅の百花繚乱勢が、ドームを両サイドから挟む形で襲撃する。ベベルの腕から人形が離れ、ジフの取り出したけん玉が巨大化する。



「やっておしまい、《小っちゃな木偶の坊(エンポリオ)》!!」



「一匹残らず叩きのめすぞ、野郎共!!」



 黒いオーラを放出させ、人形が動き出す。背中のジッパーを下ろして体から縄を抜き出し、鞭のごとく振り回した。

 ジフはけん玉をハンマーのように使って小鬼を潰し、鉄球並みの玉を放ってぶつけた。他の者たちも、各々が闇玩具を発動させ、次々と小鬼たちを倒していく。

 正面ゲートの前に、謎の結晶が散らばっている。満身創痍のウェンボスを、フカシギが見下ろしていた。



「糞みたいな能力だな。口ほどにもねぇよ」



 そう吐き捨てると、フカシギはとどめを刺すために、手に少量のオーラを込めた。



「……やっぱりお馬鹿さんだな」



「あん?」



 攻撃を仕掛ける前に、フカシギの動きが止まった。散らばった結晶が、隙だらけのフカシギに張り付き、全身を硬直させたのだ。

 オーラを結晶化する、火曜日限定のこの能力。これで相手を完全に封じ込めるためには、陣を描いたり、結晶を決められた配置にしたりと、色々と面倒な発動条件を満たす必要があり、実践には向かないのだが、それは相手にもよる。

 フカシギは結晶の柱の中で、苦悶の表情のまま固まった。



「これで二度目だぞ。同じ手に引っ掛かてんなよ、マヌケ。明日までそうしてろ」



 格好の修羅場と化したドームの周りを、一台の車が旋回し続けている。

 フカシギを食い止めた後は、形勢が逆転したが、多勢に無勢であることには変わりなく、五つのゲートはとめどなく沸いて出てくる小鬼たちの群れで塞がっており、いまだドームの中へ踏み込むことがままならない状況だった。



「あと何分!?」



 車によじ登る小鬼を闇玩具で叩き落としつつ、ユキヒコが訊いた。

 小型端末でエコーは時間を確認する。



「……九分」



 すでに十分を切っていた。零時までにジェノサイド装置を破壊しなければ、囚われた百人全員の命は無い。



「どうすんのよ! このままコイツらの相手をしてたら間に合わないわ!」



 不意に、エコーがドームの側面を見る。



「ユキヒコ! あそこの通気口からホールまで行ける!?」



 そう言って十メートルほど離れた場所を、指差す。



「すぐ近くの通路に出るはずだ! いいんだな、もうここで!」



 車体が傾き、急ブレーキで停まる。

 エコーは《取り柄がない超高性能(マスターオプション)》の先を踏み、ユキヒコが排気口に向かって力一杯振るった。

 エコーの身体がふわりと浮き上がり、弧を描くようにして宙を舞う。突出している鉄板へ綺麗に着地した。

 蓋とフィルターを剥がして、入る前に下を振り返る。



「任せたわよ! 思う存分、暴れてきなさい!」


「俺たちもすぐに行くからな。死ぬんじゃねぇぞ!」



 まだ何も終わってなどいないが、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。

 ここまで送り届けてくれた二人の仲間の言葉に、エコーは親指を立てて応じた。





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