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英雄気取りのエコーちゃん!!  作者: 増岡時麿
第1部 ライジング
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プロローグ

 ジリリリリリリィィィィィン!! ドゥルルルルルルゥゥゥゥン!!



 早朝。

 けたたましい目覚まし時計の騒音が狭い部屋中に響きわたった。

 少女は全身をビクリと震わせ、背中を起こして時計のアラームを切り、目を擦りながら大きく伸びをした。ふらっと立ち上がって洗面所代わりに使っている台所へ向かい、思いっきり顔を洗って歯を磨いた後で早々に着替えを始め、行き付けのお店で貰ったパンの耳を朝食としてつまんだ。

 そこでハッと何かを思い出して時間を確認し、あわててテレビの前まで足を運び、腰を下ろして電源を付けた。彼女には毎朝楽しみにしている番組があるのだ。



「よいこの諸君、テレビを見るときは部屋を明るくして離れてから見てくれたまえ!」



 なにやら派手なコスチュームをした男性が視聴者に向けて注意を促している。これはいわゆるアバンタイトルというモノだ。



「必殺ッ!!パッショナブルアターック!!」



 その男は亀のような人間大の化け物に目掛けて安っぽいエフェクトのかかった右ストレートを放った。

 しかしどうやら防がれてしまったようで、驚愕した表情を見せた瞬間にカウンター攻撃で吹っ飛ばされてしまった。



「グヘヘヘヘ。ど根性マン、貴様ごときの力なんぞ俺様の前では通用せん。もはやここまでよ。今こそ我らキョジャク団がお前に引導を渡す時。死ねぇい!」



 亀は懐から小型の銃を取り出し、これまた安っぽいエフェクトのかかった青い光線が発射された。男の目の前で爆発が起こる。

 土煙の舞う中で、倒れている男の姿が現れた。少し苦しそうに呻き、片手を地につけて身体を持ち上げようしている。

 男は口元の血を拳で拭うと、満身創痍の身体でヨロヨロと立ち上がり、そして不敵な笑みを浮かべ、強がるような口調で言い放った。



「――なにを、まだまだこれからだ。ヒーローはこんなところで諦めたりしないのさ!!」



 そこでオープニングが始まる。この後の続きは観なくても大体は予想が付く。

 きっと派手なコスチュームの男は気合いで覚醒し、必殺技を上回る必殺技を繰り出して敵を打ち破り、見事に勝利して事件を解決し、町に平和を取り戻すのだ。

 終いには闘った敵と和解し、次回では何事もなかったかのように仲間に率いれている。これが毎度お馴染みの展開である。


 

 そんな分かりきっている内容なのだが、テレビの前の少女は目を爛々と輝かせながら食い入るようにして画面に見入っていた。



 この辺りの地域で4クールごとに再放送される昔の特撮ドラマ。

 正義が悪に勝利するご都合主義のストーリー。己の危険も顧みず人々のために闘う勇者たち。さらには敵でさえも全力で救おうとする。

 そんな彼らは少女にとってヒーローだった。


 

 ああ、なんてカッコいいんだろう!自分も彼らのように困っている人を助けられるようなヒーローになりたい!

 辛いことがあったとき、挫けそうになったときには、いつも元気を与えてくれる。



「苦しくてぇ悲しくてぇ泣きそうでぇ負けちゃいそうでぇー、ゼツボーに飲み込まれそーでもー、信じるんだぁ~!熱ぅい心に燃えたぎるヒーローの~たーましぃ~をぉ~!」



 オープニングに合わせて流れるテーマ曲を歌うのも、一つの楽しみだった。

 それからAパートが始まり、立ち絵ばかりの戦闘シーンにも関わらず、ハラハラドキドキと胸を踊らせながら次の展開を見守る。――突然、ど根性マンの顔が上下にブレ始めた。

 画面が砂嵐で埋め尽くされ、耳障りなノイズが入る。



 ちなみにこのブラウン管テレビは、仲のいいおネエの友達に修理してもらうまでガラクタ同然だったが、故障のはずはないと少女は思った。

 というより、この時間にこうなることは予め知っていたのだ。

 戸惑いはしなかったが、やはり少しだけ残念だったのか、少女はしょんぼりとしてしまった。



 ――そして、それは始まる。



「ダーハッハッハッハ!!おはよう、諸君!!世界の支配者こと、ビゾオウル・ナルゥシュ・マホヒガンテだ!!遂に、ついについにつうぅぅいに来たぞ!待ちに待ったこの日がぁあああ!!」

 


 テレビ画面にはヒーローの代わりに、白衣を纏った科学者風の老人が現れた。

 その面立ちは皺だらけの崩れた顔と、若い青年の整った顔が、真ん中の縫い目を境に半分ずつ別れている。

 老人はサングラスを通して見える血走った眼球をギョロっとひんむき、大口を開けて銀色に輝く歯を見せつけながらカメラに向かってなにやら演説している。



「我らダークサイドがヒーローサイドの能力者たちを残滅させて、すでに十数年!!もはや我々に対抗できる勢力など存在しない。……っっっだあああがしかし!! 愚かなるヒロイック能力者共の思想に毒された連中が後を絶たず、いまだ反逆行為を繰り返しているのもこれまた事実!!」



 わめき散らすように話す声は若々しく、年相応のモノとは思えないほど透き通った美声であった。



「ゆえに、諸君!!この世界に真の秩序を築くためには、奴らに真の恐怖というモノを教えてやらねばならんのだ!!」



 画面が切り替わり、謎の物体が映し出される。

 真っ黒な球状体のそれは、壁と一体化しているように見え、沢山の太いチューブに繋がれ、生々しく心臓のように拍動している。



「今宵、わしはもちろんのこと、全人類の悲願である最強のダークネス能力者、スーパーダークネスの『オージン』が誕生する!!」



 老人はそう高らかに宣言した。


 

「異端を迫害するためだけに使われてきたこのジェノサイド装置の正体、それはぁ!! 魔神を生み出す胎嚢だったのだぁあああ!!……ごふぉ!? がはぁ!!」



 叫んだ後で咳き込み、取り巻きが二人ほど駆け寄ってきた。老人は支えられながら、唾を撒き散らし呵々大笑した。



「ダッハッハッハッ!!楽しみだぞ、下民共よ。常日頃、わしの目が届かぬところで、好き勝手しておる貴様らの行く末もこれまでだ!!」



 そこで一旦演説は終わり、通常のローカル放送に戻ったが、ど根性マンは次回予告すらなく、すでに別の番組が始まっていた。



「うしっ」



 少女はすくっと立ち上がり、クローゼットの中をまさぐる。まだ着替えが済んでいなかったのだ。

 普段はこれから働き口へ行くための支度をするのだが、今日はその限りではない。

 ピンバッチを付けたカジュアルなジャージっぽい上着を羽織ってチャックを閉め、首に真っ赤なスカーフを巻く。それからゴーグルを頭に乗せ、両手に革製の茶色いグローブを嵌め、スカートの上におもちゃの変身ベルトを装着し、ブーツを履いて外に出た。



 庭から彼方の空を見上げる。

 巨大な樹木のようなあの建造物は、遠く離れた辺境の町からでもはっきりとその全貌を窺える。



 この一年間、ずっと思い描いてきた。漫画やアニメや特撮ドラマで活躍するヒーローのようになりたいと。そして失った同胞たちの分までも、世界を救うために戦い抜くと心に誓った。

 そんな憧れと決意を胸に抱きながら、少女はまるで自分を激励するような言葉を口にする。


「行くよ。がんばろ、エコー」



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