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第九話 寺を再訪して奴隷開放を求めたら。またもや痛い目に…


慈善病院から出た俺は、あてもなく街をさまよった。


背中の傷は、神聖魔法で完全に治っている。

でも、心の中はまだざわつきっぱなしだ。


「……師僧の遺言、果たしたけど……

 『あかしの巫女』って、どうすれば会えるんだろう?」



何よりも俺は奴隷の身分だ。

刺青が、左肩に残っている。


パーティのラセリアから誘われた言葉が頭に残る。


「うちのパーティに入れよ。ヒーラーとしてな。」


でも、奴隷身分のままじゃ……。

奴隷が持ち主以外のところで働くには、

持ち主の承認が必要だ。

けれど俺の持ち主はもう、この世にいない。


師僧。俺、どうしたら……


歩き回りながら考えても、良い考えは出てこない。


そんなこんなしているうちに、よく知ってる場所へ出た。

あの寺の門前だ。

それほど昔のことでもないのに、妙に懐かしく感じる。


俺は、しばらく迷ったけど、意を決して、

開いている寺の門へと歩いていった。




門をくぐると、若い僧が驚いた顔をする。


「お前……生きてたのか」


俺は頭を下げる。


「……はい。

師僧の遺言を果たしました」


「遺言?」


「詳しくは許してほしいのですが。

言いつけどおりのことを終わらせました」


若い僧は、納得したのかしないのか複雑な表情で

俺を高僧猊下(げいか)の元へと連れて行った。




寺の庫裏の一室に、高僧猊下はいた。

この大きな寺で二番目か三番目に偉い人で、

大臣級の人たちが会いに来ることもあるという。


俺は奴隷なので、庭の地べたに座らされる。

高僧猊下はきざはしの上だ。

肩から脇へ斜めに、使い古した頭陀袋をさげている。

片手にもった数珠をいじりながら、年配の高僧猊下は

ゆっくりした動作で階段の最上段に腰掛けた。


この状況、物理的には「陛下(階段の下)」なのだけど、

それは国王や皇帝の専用敬称。

宗教での偉い人なのでここは「猊下」と呼ぶ。


見ると、若い僧が早口で事情を説明していた。

猊下は鷹揚にうなずいてから、静かに俺を見た。


「あいつの遺言書はワシも読んだ。

お前を奴隷から解放するという一文もあった。

盗難事件などでゴタゴタして果たせずにいたが、

せっかく寺に戻ってきたのだ、

この機会に刺青を打ち消そうではないか?」


願っても無いことだ。

俺は土下座して猊下に頼み込んだ。


でも猊下も、神様に会ったことあるんだろうか?

岩屋で修行して、境地に至った経験は?

もしかして、フート教徒としては俺の方が偉いんじゃ……




「慢」


フートの教義にそんな言葉がある。

人間は、自分が他人より優れていると思いたがる。

それを「慢」という。煩悩のひとつだ。


前世の記憶からもみつけた。

科学的に言うと「闘争本能」「順位付け本能」だ。

原始人が狩りをするとき、誰が誰に命令できるかを

ハッキリさせる必要があった。そのためにできた本能。

組織を運営する上でも、命令系統は必要になる。


だが、上に立つことは人間にとって快楽だから、

多くはマウントの快感自体が目的になってしまい……


!!

あっぶねえ!!


俺は今、「慢」に陥っていた。

俺を奴隷身分から開放するって言ってくれてる高僧猊下に

マウントしようとしてたんだ。


人間の上下なんて、実態の無い仮のもの。

環境が変われば順番も変わる。

…つまり、師僧の言ってた「くう」だ。

あるようであってじつは無く、実態は無いんだけどいちおうある。


うわ、もしかして俺、悟り開いちゃった?


!!

あっぶねえ、また「慢」だっ!




こんな思考のループを二度も三度もやってるうち、

準備が整ったようで、本堂の前の広場に

連れてこられていた。

周りには5~6人の僧侶や俗人たち。


「では、刺青の上書きを行う

証人は、不肖、拙僧が勤めることとする」


猊下が言うと、職人風の俗人が近づいてきた。

手に刃物を持っている。


不安にとらわれ、思わず後ずさろうとすると、

僧侶たちに、肩や腕を掴まれた。


刃物が…いや、刃物を持った人が近づいてくるんだけど、

俺には刃物しか見えてない。


た、た、たすけて……!!

Help~~~~~~っ


(第九話 了)


次は第十話 まさかのホリースクロール出現!!!

高僧「では、『法』もさずけておかねばならんな。これでも読んで勉強するがいい」



冒険に出るまで、あと2話!

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