第五話 原始人の記憶で石斧作って魔獣ぶっ倒す!
魔獣の咆哮が、森全体を震わせた。
黒い毛に覆われた巨体。
牙は剣のように長く、目は赤く光ってる。
熊より大きく、狼より速い。
……ただの獣じゃない。本当の魔獣だ!
ラセリアが剣を構え、叫ぶ。
「全員、散開! 奴隷は後ろに下がれ!」
俺は岩のくぼみから出る。
「いや……俺も戦います」
ラセリアが振り返って睨む。
「ふざけんな! 奴隷に何ができるってんだ」
俺は巻物を懐にしまい、地面に落ちていた岩と木片を拾う。
「……できることがある」
前世の記憶が、蘇ってきた。
原始人の猟師だった一生だ。
石斧の作り方。
手じかにあった木の蔓で固定すれば、即席の武器だ。
俺は素早く岩片を叩き割り、木の枝に蔓を巻きつける。
……30秒もかからなかった。
完成したのは、粗末な石斧。
ラセリアが呆れる。
「何やってんだ……」
魔獣が突進してくる。
俺は叫ぶ。
「今だ!」
ラセリアが大剣を振り上げ、魔獣の頭を狙う。
リリーシャが土魔法で地面を隆起させ、足止め。
ミランダが狐火を飛ばす。
ドルガンが盾で受け止める。
ヤミカが影から苦無を投げる。
……連携は完璧だ。
でも、魔獣は強かった。
盾を弾き、狐火を払い、土壁を突き破る。
俺は走る。
原始人の記憶が、体を動かす。
岩の陰に隠れ、魔獣の死角を取る。
石斧を振り上げ、首筋に叩き込む。
ガキン!
手ごたえはあった。
でも、首は落ちなかった。
骨が硬い。
魔獣が咆哮を上げ、振り向く。
俺は後退しながら、叫ぶ。
「今だ、背中を狙え!」
ドルガンがハンマーで魔獣の背骨を叩く。
リリーシャが土で足を絡め取る。
ラセリアが大剣で首を狙う。
俺はもう一度、魔獣の横から飛び掛かり、
石斧を振り下ろす。
ズドン!
背骨の一部が砕けた手ごたえ。
魔獣の動きが鈍る。
その隙に、ラセリアの剣が閃く。
首が、落ちた。
……終わった。
息が荒い。
俺は石斧を地面に落とす。
パーティ全員が、俺を見る。
ラセリアが剣を収め、呆れたように言う。
「……お前、何者だ?」
俺は息を整えて、答える。
「ただの……奴隷です」
ミランダが笑う。
「ただの奴隷が、石斧で魔獣の背骨を砕く?」
リリーシャが目を細める。
「……怪しい」
ドルガンが低く笑う。
「南無ラトナ仏……こいつ、ただ者じゃねえな」
ヤミカは無言で、俺を観察。
ラセリアが俺に近づく。
「……お前、うちのパーティに入れよ。
ヒーラー兼戦士としてな」
俺は驚いて顔を上げる。
「え……?」
一瞬、心が揺れた。
冒険者パーティに入れば、自由になれる。
でも——
「……申し訳ありません。
俺は今、修行中です。
肉を食べることも、戦うことも、
フート教の戒律に触れます」
ラセリアが眉をひそめる。
「戒律? お前、本当に坊主だったのか?」
俺は苦笑いする。
「見習いです……でも。
今はまだ、俗世に戻るわけにいきません」
ミランダが優しく笑う。
「まあ、若いモンらしいわね。
じゃあ、いずれまた街で会おうか」
パーティは魔獣の肉を確保して、山を下りていった。
俺は一人、山に残る。
「……師僧」
解体後の、魔獣の骨を見下ろした。
不殺生の戒律。
フート教の教え。
生き物はみんな転生を繰り返して、いつかは仏になる。
そして仏は最強のチート人間で、最高神の影分身だという。
つまりこの理屈だと、すべての生き物が最終的は
最高神の分身ということに。
それを俺は殺した。
でも、殺さなければ、自分が殺されていた。
「……悪業か?」
俺は岩に座り、目を閉じた。
瞑想を始める。
業……行為と、その結果の状態も含む概念だ。
他者を苦しませれば、いつか自分も苦しむことになり、
喜ばせれば、そのうち自分にも嬉しい事が起こる。
そうやって宇宙全体はバランスが取れてるという。
風が、落ち葉を運んできた。
生き物は、転生を繰り返す。
虫も、獣も、人間も……神々でさえも。
すべては繋がっている。
俺が殺した魔獣は、
その業を終わらせる一歩として、
俺に殺されたのだろうか。
それとも、前世のどれかで俺を殺して、
悪い業を俺と交換するために、
殺されたのか。
「……わからない」
でも、一つだけ、はっきりした。
「殺さなければ、俺は死んでいた」
「殺したことで、魔獣は殺戮の業から
解放されたかもしれない」
俺は、ゆっくり息を吐く。
不殺生とは、何か。
殺生とは、何か。
殺さなければ相手に安心を与える。
安心した者は反応が穏やかになる。
みんなが穏やかになればストレスも減り
世界は平和だ。
けれど生きることは、誰かを殺すことでもある。
食べ物を食べるために、植物を殺す。
服を着るために、虫を殺す。
歩くために、蟻を踏む。
すべては、縁。
俺は、魔獣を殺した。
その罪の報いは、いつか俺に返ってくるだろう。
でも、今は……。
「生きるために、殺した」
俺は立ち上がる。
その瞬間——
空が、光った。
見上げると、
レッサーゴッドたちがいた。
男女、何柱か。
光に包まれて、俺を見下ろしている。
俺は息を飲む。
「……神様……?」
そのうち一柱が、穏やかに言った。
「よくやった。
お前は、ひとつの境地を得た」
俺は膝をつく。
「え……俺が?」
もう一柱が笑う。
「そうだ。
魔獣を殺したことで、
不殺生の意味を、深く考えた。
それが、お前の境地だ」
俺は震える。
「でも……俺は殺したんです」
神々がみんなで首を振る。
「殺生は、それ自体が悪業ではない。
すべては縁。
お前は、生きるために殺した。
魔獣は、その業を終わらせるために、殺された。
因果は、巡る」
俺は、涙をこらえる。
「……ありがとうございます!」
神々が微笑む。
そして、俺は、言われたことの意味を考えて…
「そうか、やったぁ! 俺、悟りを開いたんですね!」
「いや、そこまでは言ってない」
神々の一柱のツツコミに、思わずコケそうになる。
「まあ、初級者の境地といったところだな」
別の一柱が続ける。
「だが境地は境地。
それを得たお祝いに、神聖魔法を与えよう。
怪我を治す力だ」
光が、俺に降り注ぐ。
体が、温かくなる。
と、神々の一柱が言った。
「神聖魔法を与えた代わりというわけでもないが
お前にひとつ頼みがある」
俺は驚いて顔を上げた。
「……何です?」
神の一人が、幻視を見せた。
それは青いビキニを着た、半裸で舞う巫女……
なんだこれは!!!
異様な光景に、俺は固唾を呑んだ。
(オリジナルサイズ
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)
頭には日輪の冠。
紫の瞳。
ロングヘアで横髪だけ編みこんでいる。
……しかし可愛い。
めちゃくちゃ可愛い!
正直、タイプど真ん中だ!
ど真ん中が青いビキニ着て踊ってる!
幻とわかっていても、抱きつきたい衝動が起こる。
「この娘……『験の巫女』のことなのだ。
異世界から着た女で、世界の摂理を乱す心配がある。
そうなる前に、なんとかしてくれ」
俺は慌てる。
「なんとかって……殺せってことですか!?」
神々が首を振る。
「摂理を乱さないようにさえしてくれればいい。
たとえば……
結婚して、子供でもできれば、一生監視できる」
俺は固まる。
「……え?」
幻視の巫女が、笑顔で手を振ってきた。
体を動かすたびに、ビキニが揺れる。
俺の心臓が、ドクンと鳴った。
ちょっと待って、俺は今フート教の修行中だろ。
恋愛とか性欲とかは捨てなければならない。
結婚して子作りとか、論外だ。
でも俺の脳裏に、このコとの妄想が走り出してしまった。
付き合って、手をつないで、キスとかもして。
ひとつのカップから一緒に果汁を飲んで。
……えーと、長くなるから中略して……
で、出産っ、て流れよ。
……中略しすぎたか?
しかしそこまで考えた俺はハッと気がつく。
だらしない顔になっていた。涎も出たかもしれない。
あわてて拳で顔を拭いた。
「その気になったか?」
神々の一柱が満足そうにしてる。
「い、いや、ですから俺は修行中で……」
修行成就の前後には、悪魔がやってきて誘惑するという。
ゴータマ=ブッダもイエス=キリストも、
その後の聖者たちも多くが経験している。
これは、悪魔の誘惑なんじゃないか?
そんな俺の迷いを、次の一言が打ち砕いた。
「お前がやってくれないなら、
他の男に頼もう」
他の男!!?
他の男がこのコと子作り!!?
幻影の巫女が、残念そうにこちらを見つめている。
脳内を駆け巡る「ラブラブ のち 孕ませ」の妄想と
ビキニ巫女の幻影が、
NTR妄想と激しく衝突して火花を散らす。
耐えられれないぃぃぃっ!
もう心臓の限界だぁぁぁッ!
……そして、俺は、……堕ちたw
「……やります」
神々は満足そうにうなずき合って、
俺をいろいろと激励し、
そして空へと消えていった。
俺は、森の中で一人、呆然とする。
「……マジかよ」
『験の巫女』様……。
俺は僧侶の姿のまま、
恋する男になってしまっていた。
(第五話・了)
次回第六話 早くも浮気かwww サブヒロイン、牛飼い娘ちゃん登場!!
牛飼い娘「はい、あーん♡」




