第四話 冒険者パーティに絡まれて魔獣に食われかけた日
師僧の遺言を果たしたばかり。
俺は岩のくぼみに座ったまま、動けなかった。
月が沈み、朝焼けが山を赤く染め始める。
体は疲れ果てて、指一本動かすのも億劫だ。
でも、心の中は……ざわついていた。
前世の記憶が全部蘇った。
越法の罰で不幸続きだった人生。
それが、異世界の奴隷生活に繋がっていたなんて……
皮肉すぎて、笑うしかない。
「……師僧、これでいいのか?」
俺は独り言のように呟く。
岩のくぼみは、まるで小さな祭壇みたいだ。
土を盛って作った簡素な壇の上に、
尊勝陀羅尼≪リス・ウィ≫の巻物を置いたまま。
「越法やった罰で不幸続き……か。
でもその罰が、記憶を取り戻すきっかけになった?」
、前世の記憶をたどってみる。
異世界転生小説を読み漁り、
「もし転生したら」って妄想しながら知識を溜めていた日々。
徳を積もうと
慈善事業や寺社に寄付したり、人には親切を心がけたり、
ゴミが落ちていれば拾ったり。(布施)
信号は守り、自転車ではメット被り、ツリ銭はけして誤魔化さず、(持戒)
腹立っても悪口は言わず、苦しくても弱音を吐かず、(忍辱)
上手くいかなくても、やめるよりはできる範囲で努力を続け(精進)
いつも落ち着いて考えるように深呼吸して、(禅定)
本を読み人の話を聞き、知識をためて思索を深め……。(智慧)
(六波羅蜜)
…笑えるくらい真面目にやってた。
そして、だめ元であの呪文を唱えた夜。
「……全部、繋がってるのか」
俺は目を閉じて、深く息を吐いた。
風が吹いて、落ち葉がカサカサと舞う。
そのとき——
岩場の向こうから、複数の足音が聞こえてきた。
俺は目を開ける。
岩のくぼみから顔を出すと、
冒険者パーティが山道を登ってくるのが見えた。
先頭は、赤髪で長身なエルフの女剣士。
その後ろに古ぼけたマントを羽織る銀髪の少女、
尻尾のある狐耳の獣人おばさん、
ドワーフの少年みたいな戦士、
黒装束の女忍者。
……パーティだ。冒険者パーティだ!
この世界に来てからときどき見ることはあったが、
こんなひとけのないところで遭遇するのは初体験。
リーダーのエルフ…あとで知ったんだがラセリアと呼ばれてる。
そのラセリアが、俺の存在に気づいて足を止めた。
こんなところに人がいると予期してなかったようで、
他のメンバーもちょっと驚いている様子だった。
「お前は……誰だ」
剣に手をかけたリーダー、ラセリアの低くて威圧的な声。
俺はゆっくり立ち上がる。
土を払って、静かに答えた。
「寺の奴隷です」
ラセリアの琥珀色の目が細くなる。
「奴隷がこんな山中で何してる? 逃亡か?」
「……違います」
俺は首を横に振る。
「俺の持ち主だった師僧が死んだんです」
銀髪の少女……こいつも後で知ったが、名はリリーシャ。
リリーシャが冷たく笑う。
「へ~……それで悲しくて泣いてたってわけ」
俺はもう一度首を横に振る。
「師僧の遺言で、修行を」
(AIアニメ
https://youtu.be/gELlBrZ9uIc
)
ラセリアが鼻で笑った。
「奴隷が逃亡して修行ねぇ。ヘッ。
悟りでも開けたかい?」
俺は正直に答える。
「開けていない。けど、収穫はありました」
狐耳のおばさん、この人はミランダとあとで知るが、
ミランダがちょっと興味深そうに首を傾げた。
「へえ? どんな?」
……収穫は前世の記憶だ。けれど、そのことは、
こんなところで言わないほうがいいだろう。
トラブルに繋がることは目に見えてる。
俺は首を振った。
「今は言えません」
ラセリアは呆れたようにため息をつき、剣の柄に手を置く。
「語るに落ちたな、ウソつきめ。
こいつはただの逃亡奴隷だ」
剣が、ゆっくり抜かれる。
狐耳のおばさん・ミランダが目を大きく開いた。
「何をする気?」
ラセリアは冷たい目で俺を見る。
「逃亡奴隷を見逃せば違法になる。
けれどクエスト中だから連れて帰る余裕もない。
なら斬って、首でも証拠に持って帰るしかないだろ?」
ドワーフのドルガンが慌てて止める。
「待て待て!
奴隷といってもいちおう宗教家だ。
坊さんを殺すのは気分が悪いぞ」
ラセリアが剣を構えたまま、嘲るように言う。
「坊主殺せば地獄落ち、なんてヨタ話を本気で信じてるのか?」
ドワーフ・ドルガンが言葉に詰まり、口を濁した。
「そ、それは……なんというか……」
その次の瞬間——
森の奥から、獣の低い唸り声が響いた。
地面が震える。
一同の表情が変わった。
「…魔獣か!!?」
ラセリアの剣は音のしたほうへと向きを変える。
他の4人も武器や魔法の用意をし、身構えた
俺は岩のくぼみに身を寄せ、息を潜める。
……これが、始まり?
師僧、見ててくれ。
俺は静かに、剣を構えてるラセリアの背中を見つめた。
こういう展開、何かで見たような……という考えが頭をよぎったのは一瞬だけだった。
(第四話・了)
次は第五話、異世界物らしく魔獣戦+神々も現れ+そしてついにメインヒロイン登場!?
俺「し、心臓がもたない……!」




